第11話 賞賛の嵐
グリフォンを倒した後、俺は中庭で騎士に叱られていた。
「王子! 魔物は危険なのです! 戦いは我ら騎士に任せて逃げてください!」
俺を怒っている騎士は女性だ。見た目は二十歳前後に見えるのだがなんと騎士団長らしい。
そして俺はグリフォンに立ち向かったことで怒られているわけだ。
第六王子だし当然だろう。なにかあったら国の騒動に関わる恐れもあるから、さっさと逃げろというのは間違ってない。
……まあ代わりに戦うはずの騎士たちが、グリフォンにアッサリやられてしまっていたけどな!
だがそもそも俺が城の結界を破ったのが騒動の発端なので、なにひとつ言う権利はないのだ。
「いいですか! グリフォンはすごく強力な魔物なんです! 我ら騎士でも苦戦する相手に、五歳の王子が挑むなどあり得ません!」
「つまりベルティアちゃんはカッコ可愛いの天才ということよ!」
「王妃様!? 今は叱るべきところでは!?」
すみません、うちの母が親バカで。
「でも騎士団長。貴女もベルティアちゃんはすごいと思うでしょ? 可愛いの天才でしょ?」
「そ、それはまあ……グリフォンを単独で討つなど、私でも出来るかどうか。正直に申し上げるならば……」
騎士団長は少し悔しそうに目を逸らすと、
「第六王子は魔法の大天才だと思います。しかもそこらの優れた魔法使いではなく、世界でも有数になれるほどの才能をお持ちかと」
騎士団長は真剣な顔で俺を見つめてくる。
そこにお世辞などは一切混ざってなさそうだ。
「特に城の結界を破壊したのは信じられません……アレは強力な魔物も防ぐため、何重もの結界が張られていてすごく強固なのです。壊される想定などしていませんでした」
騎士団長が細目で俺を睨んでくる。
どうやら城の結界を壊したのは、想定していたよりもヤバイことだったらしい。
すみません、わざとじゃないのです。
「まあまあまあ! ならベルティアちゃんの魔力と魅力を測りましょう! そうすればより才能が分かるわ!」
マリーがものすごく幸せそうな笑顔を浮かべている。
そういえば魔力を測定するって話だったな。だが騎士団長は首を横に振った。
「必要ありません、というか無理です。魔力を測定する道具はありますが、測れる魔力に上限があるのです。城の結界を破壊する魔法使いは、測るまでもなく規格外すぎて無理です」
どうやら俺は規格外の魔力量を持つらしい。
というか城の結界ってそんなに丈夫なはずなんだな。アッサリ壊れたのに。
すると見守っていた他の騎士たちも口々に、
「結界を魔法で壊そうとするなら、最低でも百人は騎士が欲しいよな」
「普通の騎士が百人いても無理よ。優秀な騎士なら可能かもしれないけど」
「普通の騎士の魔力量を考えれば、最低でも三百人は必要じゃないか?」
なら俺の魔力は普通の騎士三百人分くらいの威力になるのか? でも全力で撃ったわけじゃないのだけれど。
つまり俺の魔力量がかなり多いのは間違いないと。
すると騎士団長はまた俺を睨んでくる。
やはりかなり怒っているようだ。結界を破ってしまった上に、グリフォンから逃げずに立ち向かってしまったからな。
結果だけ見ればオーライだが、一歩間違えれば大惨事だったわけだし。
「すみません。以後気を付け……」
「第六王子! 今度、騎士団の練習に参加してみませんか!」
「えっ?」
謝ろうとしたらなんか誘われてしまった。
「えっと。今のは叱る流れではなかったのですか?」
「叱るのはもう終わりました。王子なら現時点でも、騎士団の中堅以上の実力を持つと思います!」
五歳児が中堅以上の力を持つって、魔導騎士団のレベルが心配になるのだが。
するとマリーが俺と騎士団長の間に入って来る。
「控えなさい、騎士団長。ベルティアちゃんは第六王子として、学ぶことが大量にあります。騎士団に入り浸る時間はありません」
マリーが珍しく王妃らしい態度を取っている。
確かに第六とはいえど王子。色々と勉強しないとダメなのだろう。
ほら帝王学とか言うじゃん。どんな内容か全く知らないけど。
するとマリーはボソッと「ベルティアちゃんに変な筋肉は不要よ」と呟いていた。
珍しく母らしいことをしたと思ったらこれだよ!
「そ、そうですか。それは残念です。では私は結界を修復した後、警備任務へと戻ります」
そう言い残して騎士団長は中庭から去っていき、他の騎士たちも喋りながらついていく。
「まさか結界が破られる日が来るとは」
「天才っているものだなあ」
「俺、王子と戦ったら勝てる気しないんだが……」
などと褒められていて、思わずドヤ顔になりそうなのをこらえる。
やはり褒められるのは嬉しいな。これからも賞賛の言葉がもらえるように頑張ろう。
次は禁術の練習をするか、普通の魔法の練習をするか迷いどころだ。
……そういえばグリフォンから変な光が出たけど、あれはいったいなんだったのだろうか。