第10話 グリフォンが襲って来た
獅子の身体に鷹の顔と翼を持った化け物が、翼を羽ばたかせて地面へと着地した。
グリフォンと呼ばれたそれは、俺たちを見て甲高い鳴き声をあげる。
騎士たちはグリフォンを包囲して、腰につけた鞘から剣を抜くと。
「バカなっ! この城は結界で守られているはずなのに……! どうして魔物が空から!」
「言ってる場合じゃねえよ。それより我ら魔導騎士団の力を振るう機会と考えようぜ。グリフォンなら腕試しにちょうどいい」
「グリフォンよ! 我らの手にかかることを光栄に思うがいい!」
騎士たちは片手で剣を構えて、もう片方の手を印を作るかのように動かし始めた。
魔導騎士団なんて名前なのか、カッコイイ。
と思っていると俺は腕を引っ張られてしまった。
「離れるわよベルティアちゃん!」
母のマリーによってグリフォンたちから離されてしまう。
「滅死葬公の焔よ! 我が敵を焼き尽くせ!」
騎士たちが腕を回して放った炎の球たちが、グリフォンへと襲い掛かる!
紅蓮の業火球によってグリフォンは燃やされて消滅した……らよかったのだが。
「ピイイイイイィィィィィィィ!!!」
とグリフォンが咆哮すると、炎の球はすべてかき消されてしまったばかりか。
「「「ぐわあああああ!?」」」
騎士たちもぶっ飛ばされて地面に倒れたんだけど!?
ちょっと魔導騎士団の皆さん!? そこはもうちょっと頑張るところでは!?
楽勝ムード出してたのに即落ち二コマみたいに負けないで!?
「ば、バカな……グリフォンがこんなに強いはずが……!」
ちなみに騎士たちは頑張って立とうとしているので無事なようだ。よかった。
そしてグリフォンは俺をキッと睨むと、翼を大きく広げて再び飛翔する……、
「ピイイイイィィィィィ!!!」
と見せかけて翼を畳んだ後、こちらに向けてドタドタと走って来た。
お前その翼は飾りなのかよ!? しかもわりと速いぞ!?
すぐに追いつかれる! そう思った瞬間、俺はとっさに光の霧を集めて指をクルクルさせていた。
するとまた火炎放射が発射されて、グリフォンに向けて襲い掛かる。
だがやつは地面を蹴って回避してしまった。
「ベルティアちゃんすごいわ! なんて強力な火魔法なの! あそこで倒れてる騎士たちなんて、攻撃を避けることすらされなかったのに!」
「「「うっ」」」
おおっと母上。まだ立てていない騎士たちに追い打ちはよろしくないですよ。
そんな騎士たちは剣を杖代わりに立とうとしているが、足がプルプルしててダメそう……。
しかしなんであんな魔物が城に入って来たんだ? 騎士たち曰く、城には結界が張られているはずなのに。
ふとグリフォンが飛んできた方向に目が行った。空には城を包み込む虹のバリアみたいなものがあるのだが。
その一部に穴が空いていた。しかもさっき俺が、火魔法を暴発させた真上あたりに。
……もしかして俺の火魔法のせい?
「王妃様! 早く第六王子を連れてお逃げを! ここは我々が死守いたします!」
「この命に代えてもやつを倒すぞ!」
「おおっ!」
騎士たちはプルプルな状態で立ち上がっているが、このままだとグリフォンにやられてしまうだろう。
流石にここで逃げるのはちょっと罪悪感がヤバすぎる。
そして五つの英霊墓標が目に入った。この状況は師匠も見ているのだ。
――こんなところで逃げていたら、俺は名を残すなんて無理だろう。そして俺には戦う力があるならば、一矢報いるくらいはやるべきだ。
……まあ勝ち目がなさそうなら逃げるけど。これでも第六王子だから簡単に死んだら迷惑かけるし。
ということで俺は少し暴れてマリーの手を引きはがす。
「ベルティアちゃん!? なにをやっているの! 早く逃げるのよ!」
「母上。私が可愛いの天才ではないところをお見せしましょう」
可愛い可愛いと言い続けられるよりも、カッコイイとか強いの方面で褒められたい。
俺はグリフォンに向けて軽く指を回して、火炎放射を発射する。
するとグリフォンは恐れをなしたのか、とっさに地面を蹴って飛んだ。
また火炎放射がアッサリと避けられてしまう。
「ピイイイイィィィィィ……!」
グリフォンは体勢を低くして俺を警戒している。
まださっきの火炎放射が脳裏に焼き付いているのだろう。焼き付くなら身体にして欲しいところだ。
さてどうしよう。正直当てられる気がしない。
なにせ火炎放射はまっすぐにしか飛ばせないし、グリフォンの動きは素早い。
このまま時間を稼いで他の騎士が来るのを待つのもアリか?
と考えたところでふと思いついた。出来るか分からないけど試してみよう。
俺はまた指をクルクルさせて火炎放射を放つ。だがグリフォンはすでに避けていて、火炎放射は通り過ぎていく。
ここまでは予定調和だ。さてここからが本番。
俺は指を薙ぎ払うように動かす。すると火炎放射が鞭のようにしなって、グリフォンへと襲い掛かる……!
以前にシャーレにこの魔法を見せてもらった時、彼女は火をつけたまま指を動かしていた。
ならば俺にだって出来ない道理はないはずだ。ちょっと規模が違うとは言えども、同じ魔法なのだから!
水鉄砲とバズーカくらい違うけどまあ誤差だ!
「ピイイイイィィィィィ!?!?!?」
炎が曲がったのが予想外だったのか、グリフォンの反応は遅れた。
やつは炎に飲み込まれる。そして炎が消え去った時、こんがり上手に焼き焦げていた。
あ、なんか肉の焼けたいい匂いがする……お腹空いたなあ。
「あ、あのグリフォンを倒した!? バカな! 我ら騎士でも苦戦した相手を……!?」
「だ、第六王子はまだ五歳だぞ!? いくらなんでも……!?」
騎士たちが俺を唖然とした顔で見ていて気分がいい。もっと褒めて欲しい。
……ん? なんかいま、グリフォンの死体から変な色の光の霧が出たような。
なんか茶色っぽい見たことのない色が……。
と思った瞬間、俺はマリーに突撃されて抱き着かれた。
「きゃああああ!!!! ベルティアちゃん天才! うちの子は可愛いの天才じゃないわ!」
お、どうやら評価が上がったようだ。これで俺から可愛いが取れて……。
「ベルティアちゃんは……カッコ可愛いの天才よ!!!!!」
俺の評価がよりカッコ悪くなった気がする。