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婚約破棄されたので、ざまぁのために公爵と結婚しようと思います!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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21話 フィリップ・ハーベイ卿、現る

□□□□


 次の日。

 アリスとカレアムは敷地内にある厩舎にいた。


 カレアムの愛馬である黒馬をさわったり、エサをあげたりしてみたいとアリスが言ったのだ。


 業務の合間に時間をあわせて厩舎に行くと、厩務員が準備万端で待っていてくれた。


「これがおやつのにんじんです。棒状に切っておきました。1本ずつあげてください。じゃあ、ほかの馬の世話をしてきますので」


 厩務員はそう言って帽子をとって礼をし、厩舎を出て行った。


 どうやらブラッシングや厩舎の掃除もしてくれていたらしい。匂いはそれほど気にならなかったし、黒馬の機嫌もすこぶるよかった。


 最初は主人であるカレアムに撫でてほしくて頭を突きだしていた黒馬は、だがナデナデを堪能したらアリスが隠し持つにんじんに気づいたようだ。


 ぶん、と勢いよく長い顔をアリスに向けるからアリスは驚いた。

 想像以上に大きいし、なんだか威圧感がある。


「にんじん食べる?」


 それでもおそるおそる声をかけると、黒馬は唇をめくりあげるようにして「ぶるるるるる」と言う。催促され、アリスは慌てる。


「指を食われないように気をつけろよ」


 カレアムに注意され、アリスはおっかなびっくりに柵内にいる黒馬ににんじんを差し出す。


 さっきから欲しくて前足で木枠を蹴り続けていた黒馬は、ようやくもらえることに満足したのか、ふん、と盛大に鼻息を吹いた。


 それがアリスの顔に真正面からかかり「ひゃあ」と声を上げる。だが黒馬は意にも介さず、ももももももも、とすごい勢いでアリスが持つにんじんを食み始めた。


「わわわわわ!」

「手を離せ、手を!」


 黒馬の「ももももももも」という勢いに硬直していたら、背後から両肩をつかんで引っ張られた。


 たたらを踏んでよろめいたものの、ぼすりと後頭部がなにかにあたる。


「指は大丈夫か?」


 すぐ真上から声が降ってきた。

 顔を上げると、カレアムだ。


「大丈夫です。ありがとうございます。うひゃ⁉」


 今度は急に前に引っ張られるから何事かと思えば、黒馬がアリスのスカートの裾を噛んで引っ張っている。もっと欲しいらしい。


「ひゃあああああ!」

「下がれ下がれ」


 カレアムがさらに背後に引っ張るが、このままではスカートがまくり上げられる。慌ててスカートを押さえつけると、手に持っていたにんじんが地面を転がり、上手い具合に黒馬の足元に到着した。


 黒馬が上機嫌でそれをもっしゃもっしゃと食べ始めるのを、アリスはしばらくぽかんと見つめていたが、だんだん可笑しくなって笑い出した。


「少しずつあげようとおもったのに。全部食べられちゃいました」

「いつもはこんな黒馬やつじゃないんだが」


 カレアムのため息交じりの声が上から降ってくる。


「そうですよね。王都から来る途中、何度かこうやっておやつをあげたんですけど、あのときはいい子だったのに」


「あ、それだ。君は『エサをくれる人』認定されたから、早く出せとせっついたんだな」


 ろくでもないやつだ、とぼやくカレアムにアリスはさらに笑った。

 そうしてにんじんを食べ、喉が渇いたのか桶に入った水を飲みに柵内を移動する黒馬をしばらく眺めていた。


 カレアムは相変わらずアリスを後ろから支えるように立っている。


 時期的には真夏であるが、公爵都は王都ほど暑くはない。いや、暑いことは暑いのだろうが、湿気がないのだ。蒸し暑くない。


 だから。 

 ふたり、こうやって身体を寄せ合って立っていても特に不快でもなんでもなかった。


「指は平気か?」

 ふとカレアムが問い、アリスの横に移動してきた。


「平気ですよ。公爵がタイミングよく引っ張ってくれたから」

「見せてみろ」

「ほら」


 素直にアリスが右手を差し出す。

 カレアムは真面目な顔でその手をとり、少し持ち上げて矯めつ眇めつアリスの指を眺めた。


(長いまつ毛)


 伏せた瞳を飾るカレアムのまつげをアリスはほれぼれと見つめる。


 まつ毛だけじゃない。

 アーモンドの形をした黒瞳。すっと伸びた鼻梁。大理石のように艶めいた肌。

 なんとも男ぶりがいい。


「なんだ?」


 視線に気づいたのだろう。不思議そうにわずかに首を傾げられた。


「男前だなぁと思って」


 正直に言うと、面食らったように瞳を揺らせたが、ふと真顔になる。


「君はかわいいと思う」


 はっきりと言われ、体中から熱が放出された気になる。

 顔どころか指先まで赤くなりそうで、慌てて手を引き戻そうとしたのに、逆にぎゅっと強く握られた。


「あ」


 あの、離して。そう言おうと思ったのに。

 カレアムが腰をかがめるようにして唇でふさぐ。


 目をまんまるにして微動だにできないアリスの腰にカレアムの腕が伸びる。

 さらに引き寄せられようとしたとき。


「旦那様!」

「うわ!」

「きゃあ!」


 さっきの厩務員が戻ってきてアリスとカレアムは慌てて飛びのいた。


「ど、どうかなさいましたか? 旦那様、アリス様」

「なんでもない!」


 ふたり声をそろえて言う。

 平静を装うと思っているのだろうが、柵のほうに飛びのいたカレアムは、黒馬にもしゃもしゃと髪を食われ、アリスはアリスで真っ赤になった顔をかくそうと「あらここに汚れが」とスカート部分をむやみやたらにバタバタと叩く。


「それよりなんだ。なにがあった」

「あ。お屋敷のほうにお客様がいらっしゃったらしく。いま、執事さんたちが旦那様とアリス様を探しておられます」

「私も?」


 ようやく熱のひいたアリスが、きょとんとした顔で厩務員に尋ねる。


「客とは誰だ?」


 カレアムも乱れた髪を手櫛でなおしながら問う。カレアムだけでなくアリスも指定するとは。


「なんでもアリス様のお兄様が王都からいらっしゃったとか」

「フィリップ・ハーベイ卿?」

「お兄様?」


 アリスとカレアムは同時に顔を見合わせた。


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