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婚約破棄されたので、ざまぁのために公爵と結婚しようと思います!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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19話 夫婦だけど初めてのデート

□□□□


 その二週間後。

 アリスとカレアムは、王都のとあるカフェにいた。


「私、こういうところでお茶を飲むのは初めてです」


 きょろきょろと店内を見回す。

 客の入りは上々だ。

 満席とはいかないが、空席が目立つほどではない。


 その客たちもかなり身なりがよく、貴族の夫婦もいれば富裕層の商人たちが商談をしていたりする。ギャルソンエプロンをつけた店員はキビキビとした様子で仕事をしているし、菓子職人は仕上がった菓子を丁寧にショーケースに並べていた。


 ここに来るまでに見た露店のカフェなんかとは違い、大声を上げる人もいなければ、酒を呑んでいる人もおらず、ひとまず安全性は確保されていそうだ。


「王都のカフェとかには行かなかったんですか? その、王太子妃になる前にとか」


 隣のテーブルにいるシシリーがタルトを口に運びながら、小首をかしげた。


「ううーん……。お兄様やお父様が時々、王都のお菓子を買っては来てくれたけど……。お店に行くことはなかったかなぁ」


 言われてみれば、ほかの令嬢は侍女と共に王都に行ったとか聞いたようなが気がするが。


「アリス嬢は3歳ぐらいからすでに王太子妃候補としてあがっていたからな。なにかあってはと危惧なさったのだろう」


 向かいの席に座っているカレアムがコーヒーカップを口元に寄せながら言う。


「え? 危惧って?」

「そりゃあ王太子妃の座を狙うやつは多いから。蹴落とせばライバルが減るって考えるやつもいるんじゃないの?」


 セイオスがシュークリームを口にほおばる。


「ちょ、セイオス! クリーム!」

「大丈夫大丈夫。……って、いいって!」


「そんなこと言って、全然わかってないじゃん! じっとしてなさいよ、とってあげるから!」

「もう……、面倒くせ……ってお前も口の端っこにタルト生地のかけらが……」


「嘘! やだ!」

「動くなよ、とってやるし」


「いやいいって!」

「じっとしろって!」


 ふたりして騒々しくお互いの口元をハンカチで拭きっこしている。シシリーなど顔が真っ赤で、「もうやだ!」と怒り口調で言っているが、見ていて大変ほほえましい。


(よかった、シシリーさんたちにも来てもらって)


 カップを両手で包み、ほのぼのとふたりを見つめる。

 気分は保護者だった。


「あのふたりが一緒でよかったのか?」


 そんなとき、ぼそりとカレアムが言うから目をまたたかせて正面を向く。


 カップをソーサーに戻したところらしく、視線は下に向いているが、随分と不機嫌そうだ。


「警護がいる、とセイオス殿が言っていたので。だったらシシリーさんも、と思って」

「そのシシリーも、というのがよくわからん」


 もともとふたりで王都のカフェに行く予定だったのだが、セイオスが『我が君が危ない!』と騒ぎ出したのが発端だった。


『絶対警護する!』と訴えるセイオスと、『王都は庭みたいなものだから大丈夫。来るな』というカレアムの間で口論が勃発。


『よりすぐりのローゼリアン騎士団を従えて警護します!』

『目立つしなにより邪魔だ』

『そんな!!!! 我が君とアリス様だけで外出など許しません!』

『お前の許可はいらん』

『だったらこっそりついていく!』

『絶対こっそりじゃないだろ。ぞろぞろだろ』

『行くったら行く!』


 もはやセイオスの駄々こねまで落ちたところで、アリスが折衷案を出した。


『じゃあ、セイオス殿だけ同行してもらいましょう』

『やったあ!』

『はあ? 不要だろう』

『で、私の方はシシリーさんを連れていきます。四人連れというていで王都のカフェを楽しみませんか?』


 男二人はそろって『なんで?』と首をかしげたのをアリスは思い出す。


「公爵都についてからこちら、彼女はずっと私の仕事を手伝ってくれていますから。彼女にも楽しんでもらいたくて」


 アリスが小声でこっそりそう説明すると、ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らす。


 カレアムもシシリーがセイオスに対して抱いている気持ちには気づいているはずなのに、と内心不思議に思っていたら、つぶやくようにカレアムが言う。


「それはそうだが……。せっかくふたりで外出できる機会だったのに」

「あ」


 カレアムはカレアムで彼なりの予定があったのかもしれない。


 あの約束以降、カレアムは確かにちょこちょこ屋敷に顔を出してくれるようになった。


 といってもなにか甘い言葉を告げるでもなく、アリスの浄化しごとを見て、『やりすぎだ。今日はここまで』と指示したり、食事の時間にひょっこりやってきては『飯の量が少ない。もっと食え』と言って帰る。


 なんかこちらも保護者のような立ち位置なのだが、使用人一同は涙を流して『あの旦那様が!』と言うので、これでいいのかなと思っている。


 そうやってカレアムが馬車馬のように働いたせいか、今日はこうやって夕方まで一緒に過ごせる予定なのだ。ちなみにこのあと、四人で観劇をすることになっている。


「ふたりっきりがよかったんですか?」


 ついからかい口調でそんなことを言ってしまった。下から覗き込むようにカレアムを見ると、じろりと一瞥される。


「そうだな。俺はそのつもりだった。君は違うのか?」


 はっきりと言われてドギマギする。

 今日はアリスもカレアムも、一目で『公爵領主夫妻です』という格好をしていない。


 貴族だろうなと思わせる程度の服装と髪型だ。

 言うなら、いつもよりラフな格好をしていた。


 カレアムの黒髪は撫でつけられず、動きに合わせてふわふわ揺れる。


 服もかっちりとした詰襟の服ではなく、シャツにベスト姿。そのシャツもボタンをふたつほど外しているから、彼の喉元から鎖骨のあたりがなんとなく見えて。


(い、いつもより……男前度が上がっている気がする……)


 おかしい。

 めかしこんでいるよりもかっこよく見えるのはどうしたことか。

 なんとなくだが、男なのに色っぽいのだ。


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