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婚約破棄されたので、ざまぁのために公爵と結婚しようと思います!  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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10話 夫婦の営みに誘ってください!!

 なんとなく互いに顔を覆って深い吐息を漏らした。

 そのあとしばらく無言で座っていたのだが、カレアムが動く気配があり、アリスは顔から手を離した。


 彼の方を見ると、椅子から立ち上がっていた。

 黒瑪瑙のような瞳と目があう。


「……その、アリス嬢」

「はい」


「寝るか」

「は⁉」


「変な意味ではない! そのままの意味だ!」

「あ、あああああ! そ、そうですね! ええ!」


 さっきセイオスが余計な情報を言ったがために変なことを想像した。


 アリスは熱くなる頬のまま、わたわたとベッドのほうに向かい。

 そして、ぴたりと足を止めた。


 ベッドはひとつ。

 当然だ。

 自分たちは夫婦なのだから。


 天井から天蓋のつるされたベッド。


 普段であれば「かわいい!」とはしゃいだだろうが。

 いまはなんだかなまめかしく見えて仕方ない。


「右、左。どっちがいい」

「は⁉」


 な、なんの隠語だ!と戸惑った。察したのか、カレアムが慌てる。


「ベッドの右側がいいか、左側がいいかと尋ねたのだ!」

「あ! ど、どっちでも!」


「では俺が右! アリス嬢は左!」

「はい!」


 命じられてアリスはわたわたと移動した。

 その間にカレアムは魔石が原動力であろう照明を落とし、さっさとベッドに入る。


「おじゃまします」

 なんとなくそう言い、アリスもベッドに乗った。


 カレアムからは特に返事はなく、自分に背を向けるようにして横たわっている。

 アリスはもそもそと中に入り、同じように彼に背を向けて横になる。


 室内はだいぶん薄暗い。だがまったくの暗闇というわけではない。天蓋の紗がわずかな照明を受けて天の川のように見えた。


 しん、と。

 急に室内が静かになる。


 さっきまでセイオスがいて大騒ぎしていたのが嘘のようだし、自分がつい数日前に出会った男性とこうやって背中合わせに寝転がっているのも夢のようだ。


「あの」

「なんだ」


 なんとなく気づまりで声を発したら、すぐに返事がきた。その声も特に眠いというわけではないので困った。


 というのも何も考えずに声を発したからだ。


「こ……ここから公爵都まで何泊ぐらいなのでしょうか」

 思いつくままに尋ねてみることにする。


「早ければ三日。天候や道の状況によるが、遅くても五日というところか」

「そうですか」


 そこで。

 話が終わってしまった。


(な、なにか話しかけたほうがいいのかな……。いや、でも『眠いのに!』とか『寝ろ!』とキレられたらどうしよう)


 ひたすら、でも天気の話をするのも変か、と頭を巡らせていたら、カレアムが声を発した。


「当分は無理だが……。望むなら里帰りは好きにすればいいし、家族や友人はいつでも公爵領に招けばいい」


 そんなことを言われ、はたと気づいた。

 たぶん、里心ついたと思われているのだろうか。


「ありがとうございます。でも公爵に嫁いだのですから。公爵領に骨をうずめる覚悟です」

「無理はするな。昨日今日でこの騒ぎだ。諸々落ち着くまでは何も考えず、ゆっくりすればいい。早く寝ろ」


 覚悟の旨を力強く伝えたのに、返事はすげなかった。


(早く寝ろ……ということは、今日はなにもしない、ということなのよね?)


 セイオスの感じだと「新婚でしょ? このあといろいろあるでしょ?」的な感じだったが。


 彼が手を出すそぶりはまるでない。


(王太子とは婚約期間中はそのようなことはしないと取り決めがあったけど……。公爵とは結婚した仲。それなのにそういったことがまったく望まれていない……)


 はた、と気づいた。

 じゃあこの結婚、いったいどんな意味があるのだ?


(まさか本当に王太子に嫌がらせするため? 王太子を困らせるためだけに私と結婚したってこと?)


 だとすると。


(王太子へのいやがらせが終わったら……また離縁されるのでは……)


 カレアムがアリスに手を出そうとしないのは、昨日もそうだ。

 このまま手つかずだったら……。


(やっぱり離婚⁉)


 はっきりと言われたわけではないが、王太子リシェルと新しい婚約者のスー・ミラの間には既成事実がある気がする。婚前交渉の。


 気がする、ではない。確定だと言っても過言ではない。侍女や王宮の下仕えの者たちもそのように言っていた。


(……私が、許していれば違っていたのかも……)


 それは婚約破棄を申し渡されて1か月、心のどこかで考えていたことではある。


 取り決めは取り決め。それはそれ。

 リシェルとスー・ミラのことを見ればわかることだ。


 きっと王城のみんなはリシェルとアリスの間に婚前交渉があったとしても「見なかったこと」「気づかなかったこと」にしてくれたに違いない。


 そうやって融通を利かせればよかったのではないか。


 真面目に貞操を守ってしまったがために王太子妃の座を追われるという憂き目にあったのかもしれない。


(しかもいまは結婚までしているというのに……)


 なぜに自分は律儀に貞操を守っているのだ!


「私は公爵の妻です!」

「うぉっ。急になんだ」


 つい切羽詰まった声が出た。そして「そうよ、私は公爵の妻なんだから」と自分に言い聞かせる。


 がばりと上半身を起こした。


「なので! 誘ってくださっても全く構いません!」

「誘うって、なにを」


 見下ろした先では、あっけにとられた顔のカレアムがいる。


「夫婦の夜の営みに、です!」

「……あ、そう」


「知識も経験もまったくありませんが……あ! 公爵はいわゆる……その通常とは違った性癖をお持ちで⁉」

「……自分では普通だと思っているが」


「では、求めに応じてがんばります!」

「俺の知らないうちに、また呑んだのか?」


「素面です! む、胸は小さいのですが、そこはのちのちの成長にご期待ください!」

「俺はどちらかというと、胸より尻派だ」


「それはよかった! ……いや、よかったのかな。私のお尻、どうですか」

「知らん」


「あと、絶倫だと伺いましたが!」

「忘れろ、それは!」


「精一杯お相手を! うひゃあ!」


 ぴん、とおでこを指ではじかれて正気に返る。

 気づけばカレアムも起き上がり、自分を見ていた。

 彼はわずかに小首をかしげて指摘する。


「言いながら、震えてるじゃないか」

「これは武者震いです!」


「それは……さすがフィリップ卿の妹御というべきなのか?」

「いざ尋常に!」


「いや、あのさ。別に今日や明日にしなくてもいいんじゃないか?」

「で、でででですが!」


「ですが、なに」

「そういうことを……しなかったから王太子に婚約破棄を申し渡されたのか、と」


 ぎゅっと手を握り締めカレアムを見る。


「公爵とは婚約者同士ではありません。現在、夫婦です。なので、その……」

「あの男が君に婚約破棄を告げたのは、単純にバカだからだ」


 はっきりと断言され、アリスはぽかんと彼を見つめた。


「それ以外の理由はない。言いたい奴らには言わせておけ。実際数か月で王都はまわらなくなる。その時になって自分の愚かさを後悔すればいいんだ。君は堂々としておけ」


 言うなり、またカレアムはゴロンと横になってしまった。


「明日も早いんだ。寝るぞ」

「あの……本当に、王都と王太子を見返すためだけに私を妻になさったのですか?」


 おそるおそる尋ねるが、もう返事はなかった。


 仕方なくアリスもベッドにもぐりこみ、カレアムと背中合わせに横になる。


 季節は初夏。

 ふたりでベッドに入ったことなどなかったから、少し暑いだろうかと思ったが、一人寝とそう変わらない。


 それは、夫とそういうことをしてないからだろうか。

 夫とそういうことをしていたら、寝苦しく暑い夜を過ごすのだろうか。


(あのふたりは違うのかしら)


 王太子リシェルも今夜、こうやってスー・ミラとベッドにいるのだろうか。

 そして暑かったりするのだろうか。


 だったら。

 早く魔石が消耗して空調がダメになり、汗だくになればいいのに。


 そんな意地悪なことを願っていたらいつの間にか眠ってしまっていた。


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