4 専門用語の使い方だよ
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ダーティ:「というわけで、介護保険法の第一条(目的)を自分の言葉で説明できれるようになれば、利用者・家族との関係構築の一助にもなりますし、研修なんかで出会う暑苦しい同業者相手にそれっぽいことが言えますので、そこそこ便利です」
ウサマネ:「便利……だからですか。うーん。ダーティさん的には、そーいうのは〝専門職者としての使命感〟とかじゃなくて、あくまで〝営業ツール〟みたいな感じなんですか?」
ダーティ:「はは。ウサマネさん、私は単に仕事としてケアマネをやってるだけですよ? 使命感なんて高尚なモノは持ち合わせていません。前にも言いましたが、ダーティ・ケアプランの開設当初はとにかく仕事の依頼がありませんでしたからね。地域包括や病院の地域連携室(★※1)の担当者に顔と名前を売り込んだり、同業者の横の繋がりを待とうとしてあちこちの研修に参加し、その都度に率先して意見を出したりしていたものです」
ウサマネ:「ええと……じゃあ、その過程で『ケアマネジメントの意味を答えられないケアマネが多い』って気付いたんですか?」
ダーティ:「そうです。ただ、プリンセス市のケアマネ界隈においては、なにも『ケアマネジメント』という言葉の意味だけではなかったです。そうですねぇ……では、ウサマネさんは福祉界隈における『アセスメント』という言葉の意味を説明できますか?」
ウサマネ:「ア、アセスメントですか? いや~ダーティさん、それは馬鹿にし過ぎじゃ? 流石にアセスメントの意味を知らないケアマネなんていないでしょう?」
ダーティ:「いえいえ、それがどうしたものか……『アセスメント』の意味を自分の中で消化し切れないまま使っている人は、地域包括の職員や主任ケアマネ(★※2)にだって多いです。あくまで私の経験則でしかありませんけどね。さて、そこまで言うということは、ウサマネさんはアセスメントの意味を分かっているということで?」
ウサマネ:「え、えぇと……アセスメントというのは〝情報収集と分析〟という感じでオイラは理解していますけど?」
ダーティ:「お。言うだけのことはあってポイントは押さえてますね(上から目線)。ではウサマネさん。研修や事例検討会(★※3)などで『事例検討は再アセスメントの場です』『この事例、ケアマネさんのアセスメントが足りないよね』『アセスメント力を養わないと』……みたいな発言を聞いたことはありませんか?」
ウサマネ:「あー! ありますあります! というか研修だと、そーいうのを聞かない方が少ないです!」
ダーティ:「もちろん、中には明確な意図を乗せて口にしている人もいますが……研修なんかで『アセスメント』を連呼する人の多くは…なんなら講師の先生様を含め、自分の意図を分かり易く他者に説明できなかったりします」
ウサマネ:「ええー? それは言い過ぎですよー。研修なんかで『アセスメントが重要です!』とか言う人って、基本的にデキる人・やる気のある人……みたいな印象ですけど?」
ダーティ:「あーいうのはハリボテ(★※4)です。ちょっと詳しい説明を求めると、途端にしどろもどろになりますから(笑) 要は『アセスメントが云々……』と言えば〝分かっている人〟っぽく見えるからやってるだけですよ(独断と偏見)」
ウサマネ:「そ、そういうモノなんですか?」
※あくまでダーティさんの個人的な意見です。
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★※用語について
★※1 病院の地域連携室
病院に設置されている部署の一つ。設置されていない病院もあります。
「地域医療連携室」「医療連携室」「地域連携相談課」などなど。名称は病院によってそれぞれですが、『連携室に繋いでもらえますか?』と言えばだいたい通じます。
入院患者の退院調整に際して、家族・親族はもとより、サービス利用ありきの患者であれば、ケアマネや地域包括の職員とやり取りする部署となります。病院によっては総合相談窓口のようになっている場合もあります。
ケアマネ側からすれば、利用者が入院した際に直接やり取りすることが多いのがこの地域連携室の方々であり、入院患者にケアマネがいない・要介護認定を受けていないという場合、新規相談としてケアマネ側に仕事をくれたりもします。ありがたやありがたや。
※ただし、ケアマネも人それぞれなように、連携室の担当者も人それぞれ。時にはハチャメチャなケースなのに、平気で概要を伏せて依頼を……以下自主規制。
★※2 主任ケアマネ
正式名称は「主任介護支援専門員」です。
読んで字のごとく、主任なケアマネ。
「人材育成」と「地域づくり」という役割を期待されているらしいです。2006年に創設されたケアマネの上級資格。
厚生労働省のガイドラインによると……
「利用者の自立支援に資するケアマネジメントが実践できていると認められる者のうち、以下の①から④のいずれかに該当し、かつ、専門研修課程Ⅰ及び専門研修課程Ⅱ又は実務経験者に対する介護支援専門員更新研修を修了した者」
①専任の介護支援専門員として従事した期間が通算して5年(60カ月)以上である者。
②ケアマネジメントリーダー養成研修を修了した者又は日本ケアマネジメント学会等が認定する認定ケアマネジャーであって、専任の介護支援専門員として従事した期間が通算して3年(36カ月)以上である者。
③主任介護支援専門員に準ずる者として、現に地域包括支援センターに配置されている者。
④介護支援専門員の業務に関し十分な知識と経験を有する者であり、都道府県が適当と認める者。
条件を満たした〝選ばれしケアマネ(笑)〟だけが、主任ケアマネへクラスチェンジするための「主任介護支援専門員研修」を受講できるという仕組みです。
ちなみに、都道府県によっては、上記以外の条件が設定されている場合もありますのでご確認を。
また、研修を受講するには当然のように金が要ります。
5万くらいは覚悟してね。
そして、この資格を取得したところで、給料が上がるかどうかは職場次第という感じ。
★※3 事例検討会
これも読んで字のごとく、事例を検討する会。
支援に困っている、他の人の意見が聞きたい、何か良い案はないか、自分の支援を振り返りたい、市や包括に言われて渋々……などなど。
理由は様々ですが、事例を提出するケアマネさんが、会に参加している他のケアマネあるいは別の専門職者たちに意見を求めるという形で進行するパターンが多い。
ケアマネ界隈では、事業所内のミーティング、地域包括(市区町村)が主催する研修、有志一同の勉強会……などなどで、事例検討会が行われています。
事例を提出したケアマネが、他のベテランさんにボコボコにされて、『もう二度とこんな研修に事例を出したりしません!』とブチキレる事案が多発したりしなかったり……。
★※4 ハリボテ
カタカナの専門用語をやたらと使うケアマネのこと。
あと、研修などで現れる〝質疑応答なのに、質問への回答ではなく、延々と自論の演説をして、挙げ句の果てに結局何が言いたいのか意味不明なケアマネ〟のこと。
初見ではデキるケアマネ、やる気のあるケアマネっぽく見えるけど、演説を始め出すと、『この人、我が強過ぎて相談援助の業務に向いてないだろうなぁ〜』と、微妙な気持ちになるとかならないとか。
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◾️ アセスメントってな〜に? ◾️
①利用者の心身状態や生活環境の情報収集をすること。
②収集した情報を分析して、利用者の〝強み〟や〝弱み〟を明確にすること。
③②で明確になったモノを利用者を含めた関係者で共有すること。
ダーティ:「まず、これが私のアセスメントの解釈です」
ウサマネ:「えぇと……〝弱み〟っていうのは問題の方じゃなくて、いわゆる〝課題〟のことですよね?」
ダーティ:「出ましたね。カタカナ専門用語(笑) わざわざ『ニーズ/課題』なんて言葉を使わなくても、〝困りごと〟〝今取り組める改善案〟などと言えば良くないですか?」
ウサマネ:「ええー? そこまで気にしないとダメなんですか? ニーズや課題なんてワードは、それこそケアマネのテキストや研修でもバンバン出て来るじゃないですか?」
ダーティ:「だからこそです。ケアマネ界隈は、そんな風にカタカナ専門用語をバンバン使用しているので、その意味を各個人がどのように解釈しているかを確認しないままに議論が進んでしまうんですよ。結果として、同じ言葉を使う同業者同士なのに、微妙に話が噛み合わない・通じない……というバカバカしい状況に陥ることもあります。研修の質疑応答なんかで、突然自論の演説を始めるケアマネなんかはその典型例ですよ。まさに言葉が噛み合っていないのでしょう」
ウサマネ:「た、確かにいますね。グループワークの発表なんかで、前提となる設定や質問とまったく違う回答を出してくる人……」
ダーティ:「なので、私はカタカナに限らず、専門用語の類はなるべく使わないようにと自戒していますよ。今回のケアマネジメントやアセスメントなんて言葉も、普段はあまり使わないです」
ウサマネ:「へぇ〜ダーティさんって、そんなことに気を回してたんですねぇ〜」
ダーティ:「先ほど話題に出した『アセスメントが足りないよね』なんてセリフにしても『そもそもの情報収集が足りない』のか、『情報の取り扱いや分析、サービス資源への関連付けが弱い』のか、『分析結果を各関係者で共有する際の手際が悪い』のか……という風に具体的な指摘がどこにあるのかが不明瞭です。もちろん、事例検討会などであれば、その場の空気感なんかで何を言いたいのかの目星は付くでしょうが……」
ウサマネ:「あぁ……言われてみれば確かにそうですね。ダーティさんとしては『アセスメントが足りない』だけで終わらせるなってことですか?」
ダーティ:「はい。事例検討会などでは、具体性のない意見や指摘、個人的な興味本位の質問などクソですからね。きちんとポイントを絞って発言しないと時間を無駄にします」
ウサマネ:「は、はっきり言いますね」
ダーティ:「先ほどのウサマネさんからの課題のように、同業者同士が正しく共通認識を持っていればいいのですが……利用者や家族に対しては、カタカナ専門用語での表現は避ける方が無難だと思いますね」
ウサマネ:「はぇー……そこまでは考えてなかったです……」
ダーティ:「話がずいぶん逸れましたが……アセスメントという言葉もケアマネ界隈に溢れていますが、コレを情報収集という意味だけで使う人もいますし、課題(実際に今取り組めるだろう改善案)の抽出という意味で使う人もいます。同じ言葉であっても、前後の文脈や雰囲気で意味が違ってくるわけです」
ウサマネ:「具体的に何を指すのかをはっきり言えと?」
ダーティ:「ええ。時には〝ダルい〟と感じることもありますけどね(笑) それに、このアセスメントで重要なのは、何もダメな部分(弱み)を探すだけじゃないですからね」
ウサマネ:「〝強み〟の方もですね。いわゆる〝ストレングス(★※5)〟(笑)」
ダーティ:「また出たな、カタカナ専門用語(笑)」
ウサマネ:「とにかく、ダーティさん的には……〝利用者(★※6)〟自身の〝ADL〟や〝IADL(★※7)〟、〝既往歴(★※8)〟に〝現病歴(★※9)〟などを〝ヒアリング(★※10)〟した上で事実確認をし、その取り巻く〝生活環境(★※11)〟においての〝ストレングス〟と〝問題(★※12)〟……ひいては〝課題(★※13)〟を抽出し、その上で各関係者で〝見える化(★※14)〟するのがアセスメントということですね!(笑)」
ダーティ:「そして、クライエントの〝エンパワメント(★※15)〟を実現していくのが〝ソーシャルワーカー(★※16)〟の使命です(笑)」
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★※用語について
★※5 ストレングス
福祉界隈においては、「利用者自身が持っている力。意欲や希望、能力や長所など」を意味しているらしいです。はじめから〝強み〟とか〝長所〟で良くない?
★※6 クライエント
「client」という英語をカタカナ表記したもの。なぜか福祉系の「相談者 / 依頼者」は「クライエント」と呼び、一般企業などでは「依頼者 / 顧客」を「クライアント」と呼ぶ。その由来は知りません。
福祉系で利用者などを「クライアント」と表記すると、「あれ~? ご存じないんですか? この業界ではクライエントですよ~?」といちいち絡んでくる面倒くさい人がいたりします。
★※7 IADL
「Instrumental Activities of Daily Living」の頭文字を取った表現。日本語的には「手段的日常生活動作」となります。
具体的には「買い物」「調理(準備含む)」「洗濯」「掃除」「服薬管理」「金銭管理」「公共交通機関の利用」「電話の応対」などを示しています。「ADL」に比べると、複雑な動作と判断が求められる感じ。
★※8 既往歴
読んで字のごとく「これまでにかかったことのある病気などの記録」です。平たく言えば、これまでにかかった病気は何ですか? ってこと。
★※9 現病歴
「今現在の症状の発症、経過などをまとめた記録」のことです。平たく言えば、今の病気や症状は何ですか? ってこと。
★※10 ヒアリング
情報収集のための聞き取りのこと。聞き取りって言えばいいじゃん。
★※11 生活環境
福祉界隈においての生活環境というのは、自宅の構造や買い物をする店までの道路状況といった物理的な面だけでなく、家族との関係性、地域との繋がりなど、目には見えないけど当人の生活に影響がある事柄までを指します。
★※12 問題
困った状況・状態のことです。「問題という言葉は後ろ向きな表現だから、なるべく使わないようにしよう!」という謎な圧力がケアマネ界隈にあります。別にどうでもよくない?
★※13 課題 / ニーズ
課題とは「問題を解消するためにやるべきこと、具体的な行動」みたいな意味だそうです。それを福祉界隈では「ニーズ」と呼んでます。知らんがな。
★※14 見える化
状況を把握すること。ホワイトボードに図やイラストを描いたりするやつ。福祉界隈では「エコマップ」なる物を使用することも多い。エコマップについてはまたいずれ。
★※15 エンパワメント
元々はアメリカの公民権運動の中で生まれた理念なんだとか。
福祉界隈においては「社会的に抑圧されない」「その人が本来の能力や権利を発揮できるようになる」などの意味が含まれるようです。
たとえば、要介護の高齢者が言ったとしましょう。
「私の要望を無視して、家族だけで勝手に私のことを決めないで欲しい」
こんな状況は「自分のことを自分で決める」という本来の権利を発揮できない状況であり、抑圧されているとも言えます。
そういう状況を打破していきましょうというのがエンパワメント……らしいです。知らんけど。
★※16 ソーシャルワーカー
社会生活で何らかの困難を抱える人を相談援助によって支援する、福祉分野の専門職の総称。
地域包括の社会福祉士であったり、病院の地域連携室の職員、福祉分野の「生活相談員」、障害福祉分野の「相談支援専門員」、介護福祉分野の「介護支援専門員」などなど。
ちなみに、「ソーシャルワーカー」を名乗るのに、特に資格などは要りません。名称というより概念的な感じとでも言いましょうか。
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