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それいけ! ウサマネジャー!  作者: 社会のいぬ
ケアマネジメントと根拠の話
7/13

2 言葉遊びだよ

◆◆◆


ダーティ:「ま、ウサマネさんが介護保険法の目的を知らなくても無理はありません。ケアマネ界隈でも、知らない人は多いでしょう」


ウサマネ:「……その介護保険法の目的と、分野によってケアマネジメントの意味が違うって話はどう繋がるんです?」


ダーティ:「いえ、考えれば当たり前の話でしょう? 我々ケアマネ……というより、介護保険サービス分野で働く者は、当然に介護保険法が業務の根拠となります。では、障害福祉サービス分野で働く人たちの根拠となる法律(★※1)はなんですか? ……というだけのことです」


ウサマネ:「えっと……根拠とする法律が違うから、ケアマネジメントの意味も違う?」


ダーティ:「はい。私はそう捉えています。同じ言葉であっても、その意味するところが違うというものがあるでしょう? たとえば……『事件(じけん)』。この言葉を聞けば、我々からすれば『被害者と加害者のいる、何か酷いことが起きたのでは?』となりますが、法令用語としては『訴訟や審判手続きの対象』を示していたりします。離婚調停や成年後見制度の申立手続きなどであっても『事件』というわけです」


ウサマネ:「うーん……なんだかピンと来ませんけど、ようするに専門用語的な感じってことですか?」


ダーティ:「まぁそんな理解で良いでしょう。とにかく、根拠とする法律が違うということは、専門とする領域が違うということです。話が行ったり来たりして申し訳ないのですが……ウサマネさんはケアマネ協会(★※2)のホームページを見たことはありますか?」


ウサマネ:「はい? ケアマネ協会のホームページですか? いえ……特に改めて見たことはないですけど?」


ダーティ:「では、少し紹介しておきましょうか。ケアマネ協会のホームページには〝介護支援専門員とは?〟という項目があります。そこには堂々と記載されているんですよ。『介護支援専門員 (ケアマネジャー)は、介護保険法に位置づけられた職種であり、介護保険の根幹である、「ケアマネジメント」を担う専門職です』とね」


ウサマネ:「出ましたね、ケアマネジメント。介護保険の根幹なんて風に書かれてるんですか?」


ダーティ:「ええ。全世界に向けてそのように発信されています」


ウサマネ:「それで? 結局のところ、ダーティさんが思うケアマネジメントってなんなんですか?」


ダーティ:「まぁまぁウサマネさん。しばし私の戯言に付き合って下さいな。あくまで私の個人的な解釈ではありますが……根拠とする法律がある専門職の業務というのは、あくまでその法律の目的に沿ったモノであるべきだと考えていましてね。〝法律によって身分や業務が保証されています。でも、私はその法律を守りません。根拠となる法律の目的なんか知りません〟……というのは、あまりにも身勝手じゃありませんか?」


ウサマネ:「う゛……た、確かに、そう言われると反論できませんけど……(だから早く説明しろよ。こういう時のダーティさんって、割と面倒くさいんだよなぁ〜)」


ダーティ:「おやおやどうしました? ケアマネなのに、ケアマネジメントや根拠法の目的すら説明できず、自身の資格の職能団体のホームページすらきちんと閲覧したことのないウサマネさん? なにやら不満がありそうですけど? んん? どうしましたかぁ~?」


ウサマネ:「い、いえ、別に……(マジで性格悪いなコイツ!)」


◆◆◆


★※用語について


★※1 障害福祉(しょうがいふくし)サービス(さーびす)分野(ぶんや)()(はたら)()(ひと)たちの(たちの)根拠(こんきょ)となる(となる)法律(ほうりつ)

 障害者及び障害児への福祉サービスの基本的な部分は『障害者(しょうがいしゃ)()日常生活及にちじょうせいかつおよ()社会生活(しゃかいせいかつ)()総合的(そうごうてき)()支援(しえん)するための(するための)法律(ほうりつ)障害者総合支援法しょうがいしゃそうごうしえんほう)』に規定されています。※この法律だけというわけでもないですけどね。


★※2 ケアマネ(けあまね)協会(きょうかい)

 正式には「一般社団法人いっぱんしゃだんほうじん日本(にほん)介護支援専門員協会かいごしえんせんもんいんきょうかい」です。


 もっとも、この物語に出てくる団体はあくまで架空のモノですけどね。偶然、似たような名前の組織が出てきたりするだけ。そういうことにしておきましょう。


◆◆◆


ウサマネ:「へぇへぇ。どうせオイラは名ばかりのケアマネですよ。ケッ!」


ダーティ:「分かり易く拗ねないで下さいな。ふくれっ面が可愛くて許してもらえるのは、ごくごく限られた選ばれし者の特権ですよ? ウサマネさんが拗ねても、ただただ見苦しく鬱陶しいだけなんですから……」


ウサマネ:「相変わらず辛辣ぅー!」


ダーティ:「はいはい。これ以上引っ張るのもアレなので説明しましょう。私が長々と介護保険法やらケアマネ協会のホームページやらについて話をしたのは、結局のところ、利用者や家族という一般市民に説明する際、一番分かり易く提示できる根拠というのが法律や職能団体の言い分だからですよ」


ウサマネ:「分かり易く提示できる根拠?」


ダーティ:「ええ。仮にお偉い大学の先生が書いた論文なんかを持ち出して『これが私の説明の根拠です!』と言ったところで、一般市民が専門家の論文なんかにいちいち目を通すと思いますか?」


ウサマネ:「それは……まず読まないでしょうねぇ……」


ダーティ:「でしょう? それに、いくら大御所の先生の論文であったとしても、わざわざ『この先生の言うことを守りましょう!』などと公的な機関がお墨付きを与えているわけもありません」


ウサマネ:「ええと……つまり、公的にお墨付きを与えられている法律で説明しろってことですか?」


ダーティ:「その通りです。法律は当然のように広く開示されているものですし、スマホやネットが使えない高齢者であっても、調べようと思えば図書館などで調べられますからね。ケアマネの法定研修で買わされる、あの薄っぺらくてクソ高いテキストなんかは、生意気にも著作物としての権利を主張してくるので勝手に公開するのはダメですし、そもそも一般市民が容易に入手できる物でもありません。お偉い先生が書いたありがたい書籍なども同じくで、法律を確認するよりも金と労力が掛かります。なにより『法律で決まってるから』という根拠であれば、それ以上の説明の必要がないというのが強みです。なにしろ〝文句があるなら法律を作った連中にどうぞ〟って感じで逃げられますから(笑)」


ウサマネ:「あー……そういうことですか」


ダーティ:「ケアマネの身分や業務を保証するのは介護保険法。であるならば、ケアマネの業務というモノは介護保険法の目的に沿ったモノでなければおかしい。そして、職能団体が介護保険の根幹はケアマネジメントであり、それを担うのがケアマネなんだと公言しているならば、そのケアマネジメントというモノも介護保険法の目的に合致したモノでなければおかしい……みたいな論調です」


ウサマネ:「うわぁ……なんか屁理屈っぽいですねぇ」


ダーティ:「所詮は言葉遊びみたいなものです(笑) ですが、利用者や家族という一般市民への説明なのに、何故にケアマネ界隈は専門用語や専門技術を羅列して、更に分かりにくくするのか私は疑問ですけどね。そもそもケアマネジメントなんてカタカナ用語を使わなければ、私のような面倒くさいやつにツッコまれることもないでしょうに」


ウサマネ:「た、確かにそうでしょうけど、それこそ公的な機関や職能団体がカタカナ用語使ってますし……(あ、この人、面倒くさいって自覚はあるんだ)」


ダーティ:「ま、個人的な疑問はひとまず封印して、とりあえず介護保険法と障害者総合支援法の目的について確認しましょうか。あ、ちなみにウサマネさんは答えられませんでしたが、法律というのは、その趣旨や目的が〝第一条〟として置かれていることが多いです。介護保険法と障害者総合支援法では、どちらも第一条に目的が記載されていますよ」


■ 介護保険法 ■

(目的)

第一条 この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、


★これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができる★よう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって★国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ること★を目的とする。


■ 障害者総合支援法 ■

(目的)

第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、身体障害者福祉法(昭和二十四年法律第二百八十三号)、知的障害者福祉法(昭和三十五年法律第三十七号)、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和二十五年法律第百二十三号)、児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)その他障害者及び障害児の福祉に関する法律と相まって、


★障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができる★よう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、もって★障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与すること★を目的とする。


ウサマネ:「はぇー……こうしてちゃんと介護保険法の目的を確認するのは、なにげに初めてかも?」


ダーティ:「はは。本当はダメなんでしょうけど、現実にはそんなケアマネも少なくないでしょうね。現に私なんかもケアマネになりたての頃は、事業所の先輩方に業務を教えてもらうだけで、いちいち介護保険法がどーのなんて調べもしませんでした(笑) むしろ、試験勉強をしている頃の方が〝お勉強〟として法制度を学んでいた気がしますよ」


ウサマネ:「へぇ~ダーティさんにもそんな時代があったんですねぇ(今はいちいち鬱陶しい説明屋さんだけど……)」


ダーティ「おやおやウサマネさん。なにやら私に対しての邪念を感じますが?」


ウサマネ:「あはは。邪念なんてありませんよーやだなぁダーティさん(ケッ。勘のいいオッサンは嫌いだよ)」


ダーティ:「(ふふ。ウサマネさんの考えることなどお見通しですよ?)」


ウサマネ:「(こいつ直接脳内に……!)」


◆◆◆

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