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それいけ! ウサマネジャー!  作者: 社会のいぬ
ジョンさんの事例の話
13/13

4 やることはやっとけよ

◆◆◆


■ 支援の経過 ■


 ウサマネさんがダーティさんに相談した後も、ジョンさんは病院受診に対しては拒否が強いまま。


 ヘルパーの支援については受け入れているものの、ジョンさんの状態は悪化の一途を辿っています。


 まず、自力での立ち上がりが困難となり、自宅内はなんとか這っての移動。


 排泄(小)の方は、牛乳パックを尿瓶代わりに使用し、排泄(大)の方はどうにかこうにかトイレまで這って行くという有様。


 ただし、トイレまで行けたとしても、床面からの立ち上がりができず、便座に座れないまま、その場で排泄してしまうことも多いという状況。


 痛みもあってか、日中は基本的に寝転がって過ごしており、仰向けよりも、うつ伏せ姿勢の方がまだ痛みがましとのこと。


 当然に自身で調理を行ったり、買い物へ出掛けたりはできず、ヘルパーの訪問回数は以前よりかなり増えています。


 姉ボニーさんも度々様子を見に来てはくれますが、その度にジョンさんと『病院に行きなさい』『嫌だ、行かない』という感じで口論になる模様。


 ウサマネさん的には、やはり病院受診⇒入院に繋ぐことを第一に考えていましたが、ジョンさんの強い拒否の姿勢を前に、ダーティさんの指摘通り、次の支援を考えるようになりましたとさ。


 そして、管轄であるマウンテン地域包括支援センターへ連絡を入れることに。


ウサマネ:「こういった次第でして……」


包括のミラ:「う~ん……なるほど。なかなかに大変そうですねぇ。それで、ウサマネさんとしてはどうしたいんですかぁ?」


ウサマネ:「えっと……そりゃもちろん、ジョンさんを病院受診に繋げたいんですけど……なにぶんジョンさん自身の拒否が強くって……お姉さんのボニーさんもお手上げなんです」


包括のミラ:「やっぱりちゃんと病院に行くべきですよねぇ。姉のボニーさんと話し合って、なんとか本人さんを説得できれば良いんですけど……大変ですよねぇ」


ウサマネ:「本人が『うん』と言ってくれれば……」


包括のミラ:「あ、そうだ。遠方にいる弟さんとかにも協力を仰いだらどうでしょう?」


ウサマネ:「は、はぁ……」


包括のミラ:「あとは……元々の主治医の先生とか、生活保護の人なら担当のケースワーカー(★※1)にも相談してみては?」


ウサマネ:「え、えぇ。そ、そうですね(あれ? なんか話が……?)」


包括のミラ:「じゃあ、また何かあれば相談して下さいねぇー」


ウサマネ:「え? あ、は、はい?」


 こうして、ウサマネさんの地域包括への一回目の〝相談〟は終わりましたとさ。


◆◆◆


★※ 用語について


★※1 ケースワーカー(けーすわーかー)

 本来は何かしらの理由によって生活に困窮している人を支援する専門職であり、もともとはアメリカで体系化された職業で、それが近代になり日本でも発展した……らしいです。


 日本では公的機関に勤務する、身体的・精神的・社会的理由などにより、日常生活を送るのが難しい人の相談を行う公務員とのこと。


 ケアマネ界隈で「ケースワーカー」といえば、生活保護の地区担当者を指すことが多いです。「CW」と表記したりもします。


◆◆◆


ウサマネ:「ダーティさん。包括に連絡しましたけど……なんだか他人事って感じだし、セルフネグレクトとかの話になりませんでしたよ? 地域包括に連絡って意味あるんですか?」


ダーティ:「はは。ウサマネさん。見事なまでに、典型的とも言えるクソなケアマネムーブしてますね(笑)」


ウサマネ:「ク、クソなケアマネて……というか、包括に連絡しろって言ったのはダーティさんじゃないですか!」


ダーティ:「ええ、確かに言いました。ただ、ウサマネさんがここまでポンコツだとは思ってませんでしたけどね」


ウサマネ:「ポ、ポンコツ……ちょ、ちょっと酷くないですか? そ、そこまで言われるほど?」


ダーティ:「言われるほどです(断言)。界隈では『包括に相談したのに何もしてくれない!』『包括は役に立たない!』『動いてくれない!』『親身になってくれない!』なんて風に言うケアマネも多いですが……詳しく話を聞くと、ケアマネ側に問題がある場合がほとんどです。今のウサマネさんみたいにね」


ウサマネ:「え? で、でも……包括の人は、実際に何もしてくれませんでしたけど……?」


ダーティ:「それが間違いなんです。何故に包括側からの提案を待つ必要が? 包括だって暇じゃないんですよ。ケアマネの話を聞いただけで、いちいち先回りして察してやる必要なんて包括側にはありません。今回のウサマネさんは、相談の仕方が下手だし、包括の職員だってピンキリなんですから、窓口対応の人に過度な期待をするのがそもそもの間違いです」


ウサマネ:「(フ、フルボッコ……しかも、包括職員のことも微妙にディスってるし……)」


ダーティ:「いいですか? 今回のジョンさんについて、私は『虐待と思しき状況があると考えている』と言いましたよね?」


ウサマネ:「え、ええ。セルフネグレクトだって……」


ダーティ:「包括にはそれを伝えるだけでいいんです。『セルフネグレクトで虐待と思しき状況があるので通報しました』とね。まぁジョンさんの氏名や生年月日、要介護度や介護保険被保険者番号(★※2)くらいの個人情報は添えた方が無難でしょうけど」


ウサマネ:「え? そ、それだけ?」


ダーティ:「はい。長々とウサマネさんの〝お気持ち表明〟だの〝ジョンさんの波瀾万丈な支援日記〟なんて要りません。虐待の事実認定はプリンセス市の仕事なので、後は包括なりプリンセス市なりが情報収集する際に、こっちはケアマネとして聞かれたことに答えればいいだけのこと。あくまで能動的に動くのはプリンセス市であり包括です」


ウサマネ:「え? じゃ、じゃあ包括の人が動かなかったらどうするんですか?」


ダーティ:「包括がアホなだけです。もし、一両日中に包括から聞き取りの連絡などで折り返しがない場合は、生活保護のケースワーカーとプリンセス市の介護保険課、なんなら保健所でも良いでしょう。それらの機関に『包括に虐待の疑義で通報したけど折り返しがない』と報告し、『一体どうなっているのか?』と問い合わせればいいんです」


ウサマネ:「えー……そ、そんなことしたら、包括の人たちが気を悪くしません?」


ダーティ:「だからどうだと?」


ウサマネ:「え? だ、だって、前にダーティさんは、包括から仕事振ってもらう云々って言いませんでした?」


ダーティ:「ええ。確かに包括から仕事を振ってもらっているという面はあります。ですが、それとこれとは別です。ウサマネさんは地域包括に悪印象を持たれないために、ジョンさんの件は放置しても良いと? ダーティ・ケアプランとして、ウサマネさん個人として、地域包括と仲良しこよしをするために、ケアマネとしてやるべきことをしなくて良いと?」


ウサマネ:「そ、それは……」


ダーティ:「先日『支援の主体がジョンさんではなく、ウサマネさん自身になっている』と指摘したのを覚えていますか?」


ウサマネ:「あ、は、はい」


ダーティ:「まさに今の状態が()()です。今のウサマネさんは、専門職者としての判断ではなく、自分自身の感情や価値観、利害関係によって対応を選んでいます」


ウサマネ:「……」


ダーティ:「別にそれ自体は構わないんです。誰だって我が身が可愛いのは当然ですし、余計な仕事はしたくないでしょう。関係者との利害関係を気にするのもごくごく当たり前のことです。ですが、今回のジョンさんの件については、グレーゾーンな依頼として包括や病院からタダ働きを強要されたわけではなく、あくまで〝ケアマネの通常業務の範疇〟です。つまり、今の段階でジョンさんの身に何かしらが起こった場合……誰が悪いのかと問われれば、それは専門職者としての通常業務を怠ったウサマネさんであり、ダーティ・ケアプランに責任があると言えるでしょう」


ウサマネ:「せ、責任……ですか?」


ダーティ:「はい。後々になってグチグチと責め立てられるのが嫌なら〝専門職者としてやるべきことはやっとけ〟という話です」


ウサマネ:「えっと……ダーティさん的には、包括に連絡を入れるのは、ジョンさんの権利擁護というより、ダーティ・ケアプランの責任を回避するためって感じなんですか?」


ダーティ:「まぁぶっちゃけて言えばそうですね。正直なところ、ジョンさんの現状について、プリンセス市が自己放任で虐待認定をするとは思っていません。あくまで地域包括や市も、〝やることはやってますよ〟というポーズで終わると見越しています」


ウサマネ:「じゃ、じゃあジョンさんはどうなるんですか? このまま入院できないまま?」


ダーティ:「ジョンさんの気持ちが変わらない以上、おそらくそうなるでしょう。病院受診の拒否⇒虐待疑い⇒包括へ通報⇒プリンセス市で協議⇒結果、虐待ではないと判断……ときて、次は個別の地域ケア会議という流れでしょうか」


ウサマネ:「こ、個別の地域ケア会議?」


◆◆◆


★※2 介護保険被保険者番号かいごほけんひほけんしゃばんごう

 介護保険被保険者証に記載されている番号。個人に紐づけられてるやつ。「被保番(ひほばん)」なんて呼ばれたりしています。介護保険課への問い合わせなんかでは「被保番は分かりますか?」みたいに聞かれたり聞かれなかったり。


◆◆◆

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