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生い立ち

 僕たちはまたあてもなく歩き出した。

 まあ、僕には目的がないので風花についていくだけしかできないのだが。零も先程の依頼の報酬ということでついてきている。特に不満もなさそうだから気にすることはないな。

 問題は……


 僕はチラッと風花を見た。

 彼女は花鳥風月により自分のことを話されたということを知っている。それは共有されたのだろう。

 だから少し深刻な顔をしているのかもしれない。

 勝手に話のネタにされた彼女の気持ちは分からない。


「私ね、これまで一人で育ってきたのよ。幼い時に村が潰されて、仲のいい友人も、親も、よくしてくれた大人たちも全て失ったわ。そんな私の前に現れたのが花鳥風月。全て失った瞬間の、私の前に突然現れたのよ」


  風花がポツポツと自分の口で、言葉で伝えてくれている。花鳥風月との出会いを。自分に起こった悲しい出来事を。

 まだ続けて言った。


「もちろん戸惑ったわ。けれど、彼女の出した提案は幼い私にとってはずいぶん魅力的なものだったのよ。私の身体に彼女を住まわせる代わりに、彼女は私に情報を提供する。村を再興するための情報をね。その時に教えてもらったのが印鑑よ。願えば村だって、村の人だって全て生き返らせることができる。もちろんそれがいけないことだってのは薄々気がついているわ。倫理に反してはいけないもの。それでも…なんて思ってしまう自分がいるのよね。はい、こんなところよ私の生い立ちは」


 手をパンっと叩いて話をやめた。

 風花は自分で伝えてくれたのだ。花鳥風月が言っていたものと似ているけれど、少しだけ詳しく話してくれた。

 彼女自身に何があり、なぜ印鑑を探しているのか。印鑑で叶えたい願いも教えてくれた。

 いけないことだって気づき始めているのに、それでも叶えたい。それだけ強い想いを抱えているのだ。それを僕に背負うだなんて荷が重い。けれど、この生い立ちを聞いたらもう断ることなどできない。元々断る気は一切ないのだが。


「何故言ってくれたんだ?」

「別に。自分で伝えていないのに知られているだなんて嫌だと思ったからよ。自分のことぐらい自分で伝えるわ」

「誰かが言ってくれんならそれでいいって思っちまうけどなー」


  風花に続いて零が言った。

 誰かに言ってもらえるならそれでいい、か。

 僕もそう思ってしまうな。自分の口で伝えるというのは少し難しい。言っている時に言葉が詰まってしまいそうだしな。

 それなのに風花は言ってくれた。


 数日しか共にいないのに、風花の強さを感じている。同時に自分の弱さも受け止めなければいけないとそう思うようになっているのだ。

 強くなるためになにができるか分からないけれど、譲れないものを持つために進みたい。

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