絶対零度
「『絶対零度』!」
すると、辺りに冷たい空気が満ち始めた。
空気だけで人には関係ないのだとそう思っていた。
しかし……
「なっ、お、俺の身体が…凍っていくだと⁈いやだ、まだまだ一儲けす……」
パキンっ。
そんな音でもしそうな凍り方。
男は全身を氷に包まれてしまった。それだけでは済まなかった。
ゴトッ…男の首が転げ落ちる。それは僕の前まで転がってきた。
初めてで力が調整できず、力が強くなりすぎたという暴走状態が起こったのだろう。
そして、想いというものが強すぎたことも、暴走状態を起こした原因の一つと考えられる。
「お、おれ……」
零は戸惑っている。
だが、僕が彼にかけられる言葉は思いつかない。
そんな時、花鳥風月が言う。
「童、とどめを刺したのは私の風だから気にやむことはない。依頼されたからには、とね。しなくてもいいことをしたのなら謝るよ」
僕は零の力が暴走したからだとばかり思っていた。
けれど、違ったのだ。男の首が落ちたのは彼女の力だった。
確かに一瞬強い風が吹いていた。氷で固まっていたから、その一瞬の風の力と言わないだけで他の力も使ったから、ああなったのだろう。
「そ、そうだったんだ……」
自分がやったわけではないのだと知り、零は胸を撫で下ろす。
「ただ、自分で使って分かったかな。その力は制御しないと次は自分の力で誰かを傷つけることができてしまうのだよ」
真剣な目つきで花鳥風月が言った。
僕は今回力を使ったわけではないけれど、僕もそれを心に深く刻んでおく。
「分かった」
零は深く頷く。真剣な目をしている。
そんな彼に向かって彼女は言う。
「さて、ここから去ろうか。人に見られると厄介だからね」
非情だと思った。
落ちた首を見て何も思わず、ただ冷静に分析した僕だってそうだ。
人として肝心な何かが少し欠けてしまっている。花鳥風月は人ではないから、何かが欠けているのは僕だけか。
だが、零は僕たちとは違う心を持っている。
「待って、埋めさせてほしいんだ」
男の身体を力の限り持ち上げて彼は言った。
全然持ち上げることなどできていないのに、引きずろうともしない。
大変な目に遭わされてきたはずなのに、だ。
そんな姿を見ていたら、手を貸さずにはいられなかった。
「手伝うよ」
「おう。城の近くに埋めてやりてえんだ。こいつは、クソみてえな野郎だった。でも、もしかしたらこの城の奴らの数人には好かれてたかも知んねえから」
そう言って僕と一緒に城の近くに穴を掘り男を埋めた。
目を瞑り手を合わせて祈る。
「今度は真っ当な奴になってくれるといいな……」
「そうだな」
零の呟いた言葉に同意する。
そんな僕たちの様子を花鳥風月は訝しげに見ていた。
「人間というのはなんとも不思議なものだね。憎んでいた相手なのにそんな丁寧に埋葬するんだからさ。そうだ、あの男は童たちはもうここにはいないと言っていたけれど、連れていかれる前だったから逃しておいたよ。そして、ここで依頼は終わりだ。私は戻るとするかな。風花によろしく頼むよ」
いつの間に解放していたのかと驚いた。
だが、流されていたと分かればもう安心だ。
零も優しく笑っている。
「もう終わったのね」
「風花、か?」
「ええ、何があったか細かいところは共有されていないから知らないし、聞く気もないわ。私に聞きたいことはあるかもしれないけれど、とりあえず進みましょう。零、あなたもよ」
風花に戻ったようだ。
口調が違うので分かりやすい。
僕たちはこの場をあとにして進んだ。