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戦い

 僕は一応持ってきていた先の尖ったものを手に持ち零と城の中へと入った。

 見張りも、中にいた人たちもほとんど倒れている。花鳥風月が何をしたのかは想像できない。

 息はしていそうなので最悪のことはしていないようだが。

 入った瞬間に血の匂いがするとかではなくて良かった。大量の血の匂いなんてもう嗅ぎたくはないからな。


「トウだっけ?早く大元叩こうぜ!」

「大元?」

「おう!この城の主を懲らしめてやりたいんだ!」


  零が拳を突き上げて言う。

 この場所を壊すのなら確かに大元を叩く必要がある。零の様子ならこの場所に未練はなさそうだ。


「おい、何をしている。見張りが倒れているのはお前らの仕業か?」


  そんな声が聞こえて振り向く恰幅の良い人間が立っていた。一目で分かった。この城の主はこいつだと。それに、零が爪の跡が残りそうなほど拳を握りしめている。

 そうなってしまうのは自分を苦しめてきた相手だからなのだろう。それへの想いだけは僕と同じかもしれない。

 自分を苦しめてきた、自分の身内を酷い目に合わせた相手への復讐心。

 きっと、今の零にはその想いがある。


「おいてめえ、あいつらはどこにやった?あと、食料はどこにある?オレに渡してこなかったのはどうでもいい。だがな……あいつらのためのものをお前一人で消費してんじゃねえよ!」


  零が殴りかかった。しかし、その相手はどこにもいない。今まで目の前にいたはずの者がどこにもいないのだ。

 それは花鳥風月がしたような不思議な現象と似た感覚であった。

 何かが起きた。その感覚だけが残った。

 気配は感じるというのにどこに消えたのだろうか。


「自分のものを自分で消費して何が悪い?民も食事も世界さえも俺のものだ!俺のものがどうして好きに動いているのだ零よ!悪どい賊から助けてやったのは俺だぞ⁈」

「大将たちは悪どくなんかねえ!俺を拾ってくれたのは大将だ!助けろなんて頼んでねえよ!!それよりさっさと姿を現しやがれ!」


  先程の男の声が近くで聞こえる。

 全てを自分のものだと思っている男。助けて『やった』と善行をしたと悦に浸っている。零は望んでいなかったと言っているのに、だ。

 自分のことしか考えていない者が上に立っているというのは腹が立って仕方ない。

 あんなに怒りを込めた拳を握りしめていた意味が少し分かった気がする。


 この数分の間で僕も怒りが溜まってきたから。

 数分だけでもそうなるのにそれ以上の付き合いがあれば溜まりに溜まった色々な想いはあるだろう。だから姿を現せとそう言った。自分の全てをぶつけたくて。


「姿は見えるようにしているさ、今はな!ただ霧を濃くしたから見えないだけだ!ふはっ、ふはーはっはっは!」


  確かに辺りが霧に覆われていて何も見えない。それを高らかに言うということはこれは男が起こしている現象。先程男の姿が急に見えなくなったのと同じなのかもしれない。


「何をしているんだ?姿を消したり、辺りを霧で覆ったりしているのもお前の力なのか?」

「俺の力というより印鑑の力だ!奪ったもので使い方がたまたま分かったのだが、なかなか使えるものだったな!!使い方を見抜いたのは俺だから俺の力でもあるな!」


  興奮した様子で僕に答える。

 自分の力ではなく印鑑の力……結局は自分の力だと言っている。印鑑というのは僕たちが持っているもののことだろうか。


「印鑑ってこれのことか?やっぱりすげえ力あんだなー」


 零が自身の持っていたものを見せびらかすように、懐から取り出した。それは挑発しているようにも見える。


「なぜお前がそれを持っている⁈余計なものに執着しないようにと全て没収したはずなのに!よこせ!」


  見えなくなっていた男が霧を晴らして姿を現すと、零の持っている印鑑に手を伸ばした。しかし零はひらりとそれを避けて言う。


「大将から教えてもらった技術で奪ったもんを渡すわけねえだろ!まして、オレが一人の時を狙って攫った男になんざぜってぇやらねえ!!」


 何があったのか察しがついた。

 零は盗賊に拾われ、そこで生きる術を教わり大将と呼べる人物に出会った。この人についていきたいと思う人物に。

 だが、ある時攫われてしまったのだ。自分一人で何かを成し遂げようとしていた時に。

 そして帰してもらえず大将や他の人たちに会えなくなった、と。先程言っていたことをつなぎ合わせるとそういうことだと思う。


「零以外にも攫われた子供はいるのか?」

「労働力として連れてきた子供は何人もいたな。もうここにはいないがな!まさか脱走しているのがいるとは思わなかった。お前がたぶらかしたのか?」


  男は僕を睨みつける。

 幼い子供を労働力としか見ておらず、脱走したことも自分が原因ではないと疑いもしない。

 本当にこれでよく上にたてていたものだ。人をまとめることなどできていたのか?できていなかったと思うのだが。

 まあ、今は関係ないことだ。


「そいつは何もしてねえしオレの意思だ!お前がやべえことしようとしてるから依頼しに行ったんだ!見張りの奴らとかから噂は入ってきたからな」


  零が僕と男の間に入り言った。

 どこで情報を得たのかと気になっていたが見張りからだったのか。それからずっと抜け出す隙を狙っていて、ついに城から出たのか。

 風花を探してどれだけ彷徨ったのか僕には分からない。それでも、風花を見つけた時のあの嬉しそうな顔は思わず出てしまったものだっただろう。


 報酬で渡せるものがないからと、先程渡すわけがないと言った印鑑を与えようとするぐらいだったのだから。本気だということが伝わったからこそ、風花は零自身を報酬として依頼を受けることにしたのだ。


「そうかそうか……自分で、か。お前は高くつきそうだったのに残念だな。俺よりもよくしてくれる雇い主だったかもしれないのになあ。他のからは抵抗しなかった。万が一抵抗してもどうにかする手段はあったがな!」

「それって、大量に用意してあった拷問器具や檻のことかい?悪趣味だね。子供を売ろうとするだなんてさ」


  花鳥風月が口を開いた。

 彼女は拷問器具があったと言った。男は子供が万が一抵抗しても手段があると、零は高く売れそうだったと言った。

 想像したくはないが、抵抗する子供に言うことを聞かせるために使っているのだとしたら


 ——なんと(おぞ)ましいことか。


「何が悪趣味だというんだ?俺がつれてきたものなんだからどうしたっていいだろう?」

「お前のそういうところ……いや、全部嫌いだ!だから、なんとしてでもここでお前を止める!!」

「できるならやってみろ!持っている印鑑の力も扱えない、何もできない零に何かできるならな!」


  ニヤッと笑うと男はまた姿を消す。

 力を扱えない。それは僕も同じことだ。

 だが、この場にはその使い方を教えてくれそうな者がいる。


「花鳥風月、君なら何か知っているのではないか?」

「おや、どうしてそう思うんだい?」

「風花が印鑑のことを知っていたのは君に教わったからだろう?彼女は少ししか知らないと言ったが、それは君が詳しく教えていないからだと思ったんだ」

「私が詳しく知らないという可能性は?」

「それはない」


  可能性を考えなかったわけではない。

 しかし、知らないなどあり得ないとそう思った。

 何故そう思ったのか理由があるわけではない。


「それはない、か。その判断当たりだよ。私は力を引き出す方法を知っている。といっても、とても簡単なことだ。その印鑑を握り書いてある言葉を言うだけさ。簡単だろう?まあ、想いが足りなかったら使えないのだけどね」

「想いってなんでもいいのか?」

「なんでもいいのさ。怒り、悲しみ、嫉妬、強欲……君ら人間はそれらを持ち合わせているはずだ。童なら今は怒り、といったところかな」


  使い方は思っていたよりも簡単。想いだって今なら色々な感情がある。

 それに零は今、男に対する怒りが滲み出ているのだから。


「使い方を教わったところで使えるとは思えないがな!」


  男は余裕があるように言う。絶対にできないと決めつけているのだ。

 そんな声を聞きまた腹を立てたのか、零は印鑑を強く握りしめ唱えた。

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