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閑話 兄弟の後日談

 零と水はいつでも会えるようになった。正確にいうのなら、水が零を見つけることさえできれば会える。それが零の出した条件だから。

 頻繁には会うことがないだろう。これまで探してもなかなか見つけることのできなかったのなら、そう何度も見つけることができないだろう。

 そんなことを思っていた。だが、執念というのは凄まじいものだと改めて思う日々が続いている。


「っだあー!くっついてくんなって言ってんだろうが!!」

「今日もまた会えたんだから離さない……今日も水と一緒だよ。毎日一緒でも飽きないね。零はいつも元気でかわいい」

「毎日毎日来やがって!なんで居場所わかんだよ!!なんか変なもんでもつけてんじゃねえだろうな⁈」

「そんなものつけてないよ……まだ。居場所が分かるのは水の零への愛だよ」

「まだってことはいつかつける気なんじゃねえか!ぜってえやめろよ!!」


  そう、水はあの次の日にも僕たちのいる場所にやってきた。依頼をこなしつつ進んでいる僕たちのいる場所に、だ。当然あれから進んでいて水と初めて会った場所からは随分離れたというのに、つけてきているのではないかと思うほどに何日も何日も来ているのだ。

 零が水になにか変なものをつけられているのかもしれないと思うのも無理はない。あれの次の日に来たのではぐらかしていた事情も風花と唯に説明しなくてはならなくなったから、それの八つ当たりもしているのだろうけれどな。


「また来たんだな水。よっぽど零のこと好きなんだな〜」

「好きに決まってるでしょ。いつもそばにいるからって零の兄の座奪おうとしないでよね。零の兄は僕だけなんだから」

「奪おうとなんてしないさ。おチビの兄の座とか別にほしいもんじゃないしな。ただおっさんって言うのはやめてほしいよな〜」

「欲しがろうとしなくていいから離れろや。狭いんだよ。オレを挟んで喋んな」


  毎日来ているからかいつの間にか和樹と水が仲良くなっているようだ。仲良くなっていると言っていいのかという感じではあるのだがな。

 そんな二人に零は不服なようだ。二人が零を挟んで喋るのがいけないと思うので庇うことはしないが。


「水はいつも元気だな」

「当たり前。というか元気じゃないとこうして零に会いに来れないでしょ。会いにくるためなら元気は保つよ」

「いい心がけね。元気でいることと笑顔でいることは決して忘れちゃだめよ」

「零のこともね」


 あの時零に自分を忘れろと言われたことがよほど堪えていたらしく、会うたびに忘れないからねと言いながら抱きついている。それを鬱陶しく思いながらも零は避けないのだから満更でもないのだろう。


「人が増えるとわたし出れないなと思ってたんだけど、このお兄さんわたしのこと全然見てないから唯我独尊も何もしようとしない……だから、出てこれる」

「零しか見てないから当然だよ。安心して出てきな。たまには喋らないと」

「そういう兄らしいことも言うんだな」

「えっ?お兄ちゃんって言う気になってくれた?」

「誰が言うか!」


 唯の力は唯に本当に興味のない人間には効かないらしく、反応しないのだとか。だから唯は水がいる時には出てこれる。


「唯は水といた方がいいのかもしれないな」

「えっ、やだ……零くんのことになるとうるさいし、話したいこと何にも浮かんでこないし、うるさいし」


 即否定してきた。しかもうるさいを二度も言うとはよほど嫌らしい。思ったからとすぐに口にするのは良くなかったな。


「はっ、うるさいって言われてんぞ!」

「僕がうるさいとしてもそれは零のことに関してだけさ!今日こそ僕のことをお兄ちゃんと呼んでおくれ!!」

「だから兄貴って呼んでんじゃん」

「兄貴じゃなくてお兄ちゃんと呼んでおくれ!」


  零の足に水がしがみつく。まとわりつくという表現の方が正しい気がするのでまとわりついていると言っておこう。


「あーもう!一回しか言わねえからよく聞いとけよ!そして今日はこれで去れ!」

「分かった」

「お、お兄ちゃん!これでいいか⁈」

「ああ!じゃあまたくるから大人しく待っていてな!」

「もうくんな!せめて日を跨げ!あと大人しくしてろはこっちの言葉だっての!!」


  これが兄弟の後日談。

 まさかこんな風になるだなんて思いもしなかった。苦しそうな顔をしていたし、泣きもしていたあの水が笑顔で零と話をしている。

 その姿がどうも微笑ましく見えるので、零は嫌がるだろうがまた来て欲しいなと僕は思ったのだった。

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