閑話 少女の想い
わたしは唯。唯一無二の唯。そんなことわたしは知らないしどうでもいいけど。
わたしには両親がいない。わたしが大切だと思った人、手放したくないと思った人、好きだと思った人はみんないなくなってしまった。
呪い。わたしはそう思っていた。
時々聞こえてくる声にも聞こえないふりをしてきた。「好きなら自分だけのものにすればいいじゃない」そんな言葉忘れてしまいたかった。
なのに、忘れられない。自分だけのものになってくれたら……そんな想いがあったからみんなわたしの前からいなくなっちゃったのかな。わたしがなにかしちゃったのかな。
これ以上いなくなってほしくない。気休めかもしれないけど、目隠しをしてみたの。
前も見えなくなるんじゃないかって思ったけど、そんなことなかった。むしろ、今まで見えていた世界より明るく思えた。目隠しをしていれば、相手はわたしに必要以上に接することはない。わたしも話すことがなければ変な感情は生まれない。
不気味に思われることが、好都合だった。
それでも関わってくる人はいて、わたしは好意を抱いてしまう。わたしが好意を抱いてしまったらいなくなってしまうのに……
そんなこともう嫌だ。わたしのせいで犠牲になる人がいるのは嫌。だから、探すことにしたの。
風の噂で聞いた、依頼を受けてくれる銀髪のお姉さんを。その人ならわたしの呪いも解いてくれる気がしたから。人の迷惑にならないようにどうしても、どうしても解きたかったから。
見つけることができて嬉しかった。でも、他に人がいて出るのが怖くなった。また傷つけることになるかもしれない。そう思ったの。
今までの被害は男の人が多かったから、男の人と関わるのが怖かった。だから、立ち去ろうとした。
なのに、気づかれてしまった。
刀を持っていた男の人に。気配で分かったって言われたの。
そんなのわたしに消すことなんてできるわけない。気配の消し方なんて知らない。
知っていたら誰にも気づかれないように消してたに決まっている。
でも、男の人に見つかったから依頼をすることができた。呪いを解いてほしいって。
報酬は?って聞かれたからわたしの呪いって答えたの。報酬になるかは分からなかったけれど、珍しいものなら報酬になるんじゃないかって思った。
そうしたら、お姉さんの雰囲気が急に変わった。わたしをジロジロ見ているのに、わたしを見てるわけじゃない。そして何かを思い出したように言ったの。唯我独尊か。って……
それがわたしの呪いの名前なんだって分かった。
だってそれ以外にないって思ったから。
お姉さんは花鳥風月と呼ばれて、唯我独尊といったものとお話をしていたけれど分からないことばかりだった。
話が終わると、わたしの目を見て言ったの。
わたし自身が、唯我独尊と契約したって。
でもそんなこと覚えてない。しかも、無期限での契約なんてわたしがするはずない。それなのに、花鳥風月って呼ばれたその人は言った。
永遠の愛を誓う必要がある。続けてそう言われたけれど、絶対無理だと思った。だって、わたしが好きになったらいなくなってしまうんだもの。
だから何も思わないようにしてきたのに、今更そんなこと言われても絶対に無理。
……そう思ってたのにな。
トウって呼ばれてた人にだけ目隠しを外してわたしはその人を見たの。目を合わせるだけでもダメな時があったから、本当に怖かった。
でも、その人はわたしを真っ直ぐ見て言ったの。
綺麗な目だ。って。正気なのか疑った。なんともないのかも疑った。けれど、彼はなんともないって言った。
初めてだった。わたしの呪いでなんともない人を見るのは。家族でさえ、ダメだったというのに。
だから決めたの。
この人についていこうって。
もちろん他の人に危害が及んだら嫌だから、後ろからこっそりとだけど。
それでも効かない人に出会えたというのは、わたしにとって特別なもの。
きっといつか他に効かない人に出会ったとしても、この出会いはわたしの一生ものになる。強くそう思ったの。
彼には内緒だけどね。