閑話 和樹という男
俺は和樹。
ただ戦い相手を探して彷徨ってる極々普通の侍。
俺に勝ってくれる相手がいないものかと思うんだが、これがなかなかいないものでな。
最近の奴らは腰抜けばかりでちぃとも刀の腕がなってねえ。
まあ、この間戦ったやつは骨がある奴だったな。名前は忘れたが。
一応聞きはするのに、印象に残らなきゃ忘れるものだよ。
この間の奴が持っていた妙なものは回収させてもらった。なんか強くなれそうなものだったから。
というより、その妙なものを持っていたから骨のある奴だったのだろうと推測する。妙なものがなければよくいるただの弱い奴だったのだろうな。
もっと強くて何も持たずとも骨のあるやつはいないものか。
そう思いながらまた探し回っていると、強そうなのを見つけた。
あれこそ、俺の探している何も持たずとも強いやつなのではないかと、俺の勘が働いた。直感で、こちらの方がいいとかで動く俺は勘に自信があった。
だから試しに殺気を飛ばして斬りかかったのだ。
すると、その男は避けろと大声で一緒にいた二人に告げた。
ついに見つけた。そう思ったね。
俺が振るった突然の刀を避けることができる奴はいなかったから。
そう思ったらもう申し込んでいた。今日の相手は君に決めた、と。
その男はトウと言った。
本当の名前ではないがそう呼んでくれと。ますます興味が湧いた。俺の刀を避けたというのに、本人は刀を持っていなかったから貸した。そこまでするほど、俺はこいつと戦いたい。そう思ったのだ。
最初の攻撃をトウはいとも簡単に受け止めた。
俺の刀を避けたのはまぐれではなかったのだと嬉しくなった。
久しぶりに、本当に骨のある奴と勝負ができる。そう思ったんだ。
それから俺たちは勝負を続けた。その中で、トウは明らかに何かを掴んだようで、急に気配を消した。俺に気づかれないように気配を消したのだ。
想いを全てなくして、そこにいないようにさせることはとても難しいこと。それを初めて人と戦うという人間がやってのけたのだ。
これは俺も本気を出さなければならないと思った。だから、妙なものを使ってみることにしたのだ。それを使ったら足が速くなり、刀の一撃も重くなった。重くなったことにより、トウの刀は折れてしまった。ああ、これで終わってしまったか、と悲しい気持ちになった。
しかし、トウは折れた刀を俺の首元に近づけたのだ。諦めなかった。強い男だった。
だから俺は素直に負けを認めたのだ。
初めての負けというわけではない。だが、トウに負けたことは特別な負けだった。
敗北をしても悔しいではなく嬉しいが勝っているだなんて不思議なものだなと思った。
そしてなにかの巡り合わせとは本当にあるものなのだなと。運命なんて言葉を信じようと、柄にもなく思ってしまったよ。
そして俺はトウたちについていくことになった。
何かを探すのなら一緒に探してやろう。暗闇で見えないというのなら、俺が切り裂いてやろう。
お前たちの行く道は俺が作ろう。
これから先はどんなことがあったって、俺が守ろう。俺に面白いと思うことを沢山、教えてくれ。
その場所を守らせてくれ。
きっと、お前らなら大丈夫だ。