語り
「にいちゃーん、待って待ってー!」
「早く来ないと置いてくぞー」
「今日も元気そうですね」
「そうだな」
山にひっそりと佇む小屋のような家に四人で暮らす仲睦まじい家族がおりました。家族はそれは毎日、毎日楽しそうに暮らしていました。貧しいながらも狩りをしたり人付き合いをしてお裾分けをしてもらったりして食を賄ってきました。時には近くの者にお礼として、蓄えがある時には食事を分け与えることもしてきました。
長男は人懐っこくよく笑い、走っていて妹は兄に一生懸命ついていっているのが可愛いと評判の仲良し兄妹で、父も母もとても優しくて、大変だけれど幸せでした。だから、こんな日々が続けばいいと家族はそう思っていたのです。
しかし、幸せな暮らしはそう長く続くものではありませんでした。
まず、長男は七歳の時に流行病で母が亡くなってしまいます。そこから数年なんとか三人で立ち直り生き延びてきました。
しかし、悲しみの連鎖は続いてしまったのです。そして、彼にとっての転機とも言える出来事が起きてしまいました。
江戸時代後期。黒船来航の時。騒ぎが起きていた時。
彼ら家族が暮らしていた場所では全く別のことが起こっていたのです。
賊が彼ら家族を襲いました。平和に暮らしていた家族のもとに、急に現れた賊でした。父を目の前で殺され、守ろうとした妹は賊に攫われていきました。彼だけ、この出来事がきっかけで自分の名を捨ててしまった彼だけは何故か残されたのです。
これが彼が十歳の時に起きた出来事。
父にお守りとして託された印鑑を大切にしまい彼は今なにをしているのでしょうか。
ここからは、彼にバトンタッチをして現状をみることにしましょう。
——私の正体はいずれ分かることですので今はまだ秘密です。