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ウィズガルドに着くまで①

 飛行機を出ると、熱帯特有のむわっとした湿気と暖かさに出迎えられた。

「日本とこうも違うと、ちょっとワクワクしちゃうね。」

隣を歩くヒマリがかわいらしく首をかしげてくる。

「ヒマリはいい性格してるよな。」

「ほんと?どこらへん?」

「いやいや、子供っぽくて可愛いなって。」

「・・・ふん。」

ヒマリはむくれて、すたすたと先に歩いていく。

「めんどくさい彼女って、こんな感じなのかな・・・。」

彼女ならよかったが、ヒマリは義妹だ。同い年で物心つく前からずっと一緒に暮らしてきた。明るく素直で、家族のひいき目で見ても可愛いんだけど、目につくのは今みたいな面倒くさいところばかり。

(世の兄妹、恋人はどうやって乗り越えてるんだろうか。)

とりあえず甘いものでも買うか?とか考えながら到着者ゲートを出た。そうしたら、ヒマリが大きな窓を前に立ちすくんでいる。

「ヒマリ、どうし・・・。」

俺も、窓の外を見て息を呑んだ。

 青く澄んだ空を、格外に巨大な構造物が真っすぐ縦に割っている。霞むほど遠く、水平線の彼方から伸びるそれは、先で何度も枝分かれしながら広がり、空いっぱいに一つの木のシルエットを表していた。

「あれが宇宙樹、やっぱり実物はすごいな。」

「・・・そうだね。」

遠くを見やるその横顔は、どこか憂いを帯びている。

「・・・ヒマリはどうしてあそこへ行きたいんだ?」

日本でも何度かしてきた質問だった。

「アユムのためだよ。」

遠くを見つめたまま、これまでと同じような返答を返される。俺はどうにもそれが本当だとは思っていない。だが、問い詰めるのも違うと思っていた。

しばしの沈黙が続く。きっとヒマリも俺が薄々、察していることは感じているんだろう。それでも言えない何かがきっとあるんだ。

ヒマリは一呼吸入れてこちらを向いた。

「ついてきてくれてありがとね、アユム。」

屈託のない笑顔で、すっかりいつもの可愛いヒマリだった。

「おう、こっちこそありがとな。」

「へ、何が?」

目をパチパチとさせて困惑している。

「何がって、俺のためなんだろ、だからありがとうって。」

「・・・・・・ふふ、ふははははは!アユムもいい性格してるよね。」

少し固まった後、盛大に笑われた。

「うっさいわい、兄妹なんだから似もするだろ。」

「はいはい、ごめんごめん。」

ヒマリも目尻の涙をぬぐって落ち着いた。

「そろそろ行くか。」

「うん。」

俺たち兄弟は、これからあの樹の根元へ行く。魔導都市ウィズガルド、現代に復活した魔法の街。そこにある世界唯一の魔法学園、その高等部に入学するのだ。見知らぬ土地、魔法という未知、そんな場所を俺達二人の力で生きていく。俺の心も、そしてヒマリの心もきっと、期待と不安でいっぱいだった。

「アユム、向こうではモテるといいね。」

「気になるのそこかよ⁉」

ヒマリはそうでもないらしかった。

「向こうには変わり者も多いって話だし、ワンチャンあるかもよ。」

小馬鹿にするような目を向けられる。

「うっせえわい‼自分がモテるからっていい気になりやがって。見てろ、今にお前の目ん玉が飛び出るくらいの激かわいい彼女つくってやる‼」

「はいはい、楽しみにしてますよ(笑)」

くだらない言い合いをしながら空港の外に出た。4月のグアムは常夏の暑さと快晴で、気持ちのいい陽気に満ちていた。


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