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年越しそば

 自宅のリビングにて。

 俺はテーブルの椅子に座りながら、温かい蕎麦を食べていた。目の前では澄香も蕎麦を食べている。

 少し離れた場所にあるソファーでは、両親が日本酒を片手にテレビを見ていた。


「もう少しで年が変わるなあ」


 リビングにある時計を見てみると、針は二十三時半を示していた。それでもって今日は十二月三十一日の大晦日。あと三十分で年が変わる。


「来年から受験生だよ〜。どうしよー」


 中学二年生の澄香は来年から受験生になるのか。年が経つのは早いな。


「どうもこうも勉強するしかないだろ。あ、それとも陸上部の推薦みたいなのがあるのか?」


「推薦は難しそう。学校の女子では一番足速いけど、推薦が貰えるレベルかって言われたら怪しい」


「そうなのか。てっきり澄香は足がめちゃくちゃ速いのかと思ってたよ」


「おにいよりは速いけどね!」


 なぜか帰宅部の俺にマウントを取り、澄香は誇らしげに胸を張った。中学生にしてはぺちゃんこな胸が誇張される。


「高校に行っても陸上部続けるのか?」


 そんなことを尋ねてから、俺は蕎麦をずるずるとすすった。母特製の温かい蕎麦は、麺つゆのシンプルな味がする。


「もちろん! 走ってないと落ち着かないから陸上部入るよ!」


「まじか。元気だなあ」


 俺も中学生の頃はこれくらい元気だったっけ。すっかり忘れてしまったが、今の澄香の年くらいには高校に入ったら絶対に帰宅部になってやろうと決めていた。兄妹でこんなにも活力に差が出てしまうとは。


「じゃあアタシもおにいと同じ高校に入ろうかなー」


「何が『じゃあ』なんだよ」


 俺がそうツッコむと、澄香はケタケタと笑ってから蕎麦をすすった。もむもむと蕎麦を咀嚼して飲み込んでから口を開く。


「だっておにい、結菜ちゃんが転校しちゃったら一人ぼっちじゃん。だからアタシが一緒に居てあげようかなって」


「友達くらいいるわ。妹に心配されるまでもない」


「えー、ほんとかなあ。おにいが結菜ちゃん以外の友達の話してるの聞いたことがないけど」


「うっ……そ、そりゃあ結菜が一番仲良いからだろうよ」


「それは知ってるけどー。いつも一緒に居るのは結菜ちゃんだし〜。今日も年越したら結菜ちゃんと初詣に行くんでしょ?」


「まあ行くけどさ……」


 今日というよりは明日だけど、俺はあと一時間もしたら家を出て結菜と初詣に行く予定だ。


「だからおにいが悲しくないように、学校ではアタシが一緒に居てあげようかなって」


「妹に気を使われる兄ほど惨めなものはないぞ……なんかすごく悲しいし……」


 結菜が転校して居なくなり、代わりに妹と一緒に居るようになったら……周りの目を想像しただけでも身震いしてしまう。

 澄香はケタケタと笑うと、蕎麦のスープをずずっとすすった。


「まあそれは冗談だけどね。でもおにいと同じ高校に行きたいって気持ちはあるよ」


「そうなのか?」


「うん。おにいと同じ学校がいいな。たまに学校の中でおにいに会えると嬉しいし」


 澄香はニコリと笑った。

 こ、こいつ……なんて嬉しいことを言ってくれるんだ……。

 学校で俺と会えるのが嬉しいのか……この可愛い妹め……一生大事にしてやるからな。


「それは俺としても嬉しいけどさ、ウチの高校そこそこ偏差値高いぞ?」


「えっ、そうなの!?」


 ウチの高校はここらの学校では、中の上くらいの偏差値がある私立高校だ。一応大学進学を目的とした学校なので、そこそこレベルは高い。俺も中学三年生の時にめちゃくちゃ勉強して今の越冬高校に入学することが出来た。


「偏差値は? 偏差値はどれくらい取れればいいの?」


「俺の時は五十五はないと入れなかった気がするな。あ、でも英語と国語と数学の三教科でいいんだけど」


「げっ……あと偏差値二十くらい足りない……」


「お前……偏差値三十五くらいしかないんだな……」


 俺が哀れな目を向けると、澄香はギクリとした表情を作った。


「しょ、しょうがないじゃん! ずっと部活で忙しくて勉強する時間がなかったの! アタシだって勉強すればすぐに偏差値五十なんて超えるもん」


 澄香は腕を組んで、またも誇らしげに胸を張った。

 きちんとテストでいい点数を取ってから、偉そうにして欲しいものだ。

 俺が呆れてため息を吐くと、澄香はムッと唇を尖らせた。


「とにかくアタシはおにいと同じ高校に行きたいの。だから三年生になったら勉強頑張る」


「おう。頑張れ」


「絶対に応援する気ないでしょ!?」


 澄香はバンとテーブルを叩いて抗議するが、俺は特に意に介さず蕎麦をすする。澄香に睨まれているような気がするが、こういう時は無視に限る。


「おいお前たち。年を越したぞ」


 するとソファーに座ってテレビを見ていた父親が、そんなことを口にした。

 その言葉に俺と澄香は揃って時計を見る。時計の針は今まさに年を越したばかりだった。


「おー、あけましておめでとうございます」


「あけおめことよろ!」


 俺と澄香は家族に向かって年越しの挨拶をする。母親と父親からも「あけましておめでとう」の言葉が返って来た。

 年も越したし、蕎麦も食べ終えたので俺は椅子から立ち上がる。


「ぼちぼち初詣に行く準備始めるわ」


 そう言ってリビングを出て行こうとすると、澄香から「お土産頼んだ!」の声がかかった。俺は「しょうがねえな」と言いながらリビングをあとにする。

 その際に母親が「ラブラブねぇ」と言っていた気がするが、聞こえなかったことにしよう。

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