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※テスト投稿。未完、大幅な改変の可能性があります。


そんなわけで、どこにどう突っ走るのかわからない私をあれやこれやと押さえつけているうちに‥‥




弟が生まれ母が亡くなった。



そこで悲しみに暮れたお父様は価値観を大きく変えたようだった。


かわいい我が子の望むことをさせてやろうという気持ちになったようなのだ。


つまり、軟化した。


母を失って、あれも、これも、生きているうちにしておけばよかったと後悔したからだった。



私も幼いながらも母という大きな存在をなくした折に、


筋トレ


‥の許可が降りたため、あやうく壊れかけた心を繋ぎ止めることができた。



筋肉は裏切らない、健全な肉体に健全な精神は宿るのだ!




見た目は令嬢、中身は脳筋!が芽吹いた季節であった。







そして






10歳の私は運命の出会いを迎えた。




それは、国境騎士団の存在であった。





国境騎士団とは文字通り、国境に陣を敷き国を守る騎士団で殉職率が異様に高いことで有名である。


身分を問わず完全なる実力主義で構成された死を厭わない騎士団で最強の名をほしいままにしていた。


わかりやすくいえば、対人間の王宮騎士団と対魔獣の国境騎士団と解釈するのがよいだろう。




国境騎士団はなんと長年の悲願、炎の魔王バルログ討伐を成し遂げたのである。



長年とはすなわち建国以来であり、王都はそのニュースで沸き立ち、お祭り騒ぎで飲み屋は連日大盛況という明るさだった。




私は国境騎士団の全て見逃すまいとお父様に無理を言って野次馬に紛れて彼らを見に行った。そして。



見つけてしまったのだ!



運命の「推し」騎士様を!!






その興奮たるや凄まじかったとお兄様と弟は口を揃えていう。




「国境騎士団様の帰還だーー!」

「城門を通ったぞー!」




炎の魔王バルログを倒した英雄達を一目見ようと思うのは私だけではない。


街中の人々がメインストリートにおしかけていた。



両側の建物の窓からも顔を出し、ベランダがあれば柵が折れそうなほど人が乗っている。

街灯や店の張り出した看板によじ登っている者までいた。

壊れなければいいが。

あ、向こうの物干竿が落ちたわ。



私はお父様に頼み込み、レストランの2階窓際席を確保してもらって、国境騎士団が城へと向かう列を見ていた。




気持ち的には、向かいで小窓から身を乗り出しすぎて落っこちそうになっている少年と変わらなかったがこちらは男爵とはいえ貴族のお嬢様である。窓ガラスを開けられず、しかし頬に跡がつきそうなほどベッタリと張り付いて通り過ぎるのを見ていた。




皆泥だらけで、わざものの鎧や武器は欠けたりひしゃげたりしており、衣類は焦げ付いている。


包帯を巻いたり、軽い怪我ならそのままの者もいたし、足を引きずっている者も何人かいた。


戦闘の厳しさを想像してしまい、思わず拳をにぎってしまう。



眼窩は落ち窪み、頬は痩け、壮絶な風貌ではあったが、しかし皆一様に目は輝いていた。



誇り高く戦い、魔王を退けたという胸の高まりが滲み出ており、表情は尊ささえ感じられるようだった。




目が離せなかった。




「あれっ?」


「どうなさいましたか?フローラ様」


「あの方‥」




私が指差した人物を、ライザもすぐに認めたらしい。



筋骨隆々とした騎士の中に混じって線の細い者がいたのだ。




「女の方でしょうか?そんな、国境騎士団に?」


「若くして剣技の才ある少年騎士かもしれませんね」


「そんな、子供でも国境騎士団に入団できるものなのかしら?でも、そうだとしたら魔法が得意なのかもしれないわ」




足どりはしっかりしているが、周りと同じように泥だらけで肌の色も定かではなく、髪も鎧の中に消えて長さはわからない。しかし目はきらきらと輝いて美しかった。




「推せる‥」

「え?」

「あの方を、あの騎士様を私は推すわ!」

「お嬢様!?」





帰宅しお父様にとても素敵な騎士様がいたと興奮のままに騎士団帰還姿のすばらしさを語りまくった。


すると珍しくお父様は私の話をニコニコして聞いてくださり、私も楽しい時間を過ごすことができた。お兄様もウキウキした顔で歓談に加わり、凱旋パレードのプレミアム観覧席チケットまで取ってくださったのだ。




「ああ‥なんて素敵なんでしょう!?」



数日の休暇を経て行われた凱旋パレードは圧巻のひとことであった。


げっそりと痩せボロだらけだった騎士達の泥は洗い流され、髪も髭もサッパリと整え、思いっきり食べ飲んで肌艶がよくなったところで、衣服は新品の礼服である。



帰還した当初の凄味もよかったが、礼服は礼服で立派なのだ。


町娘から貴族令嬢、子供からおばあちゃんまで目がハートになっており、完全に骨抜きにされている。



私も例外ではなかった。



例の「推し」騎士様を拝んだのである。


ほっそりした体躯に長い脚、礼服に包まれた身体は華奢と言っていい。

しかし馬車の揺れを感じさせないほど体幹がぶれない、しなやかさがあった。

引き締まった尻、細すぎる腰、少し高めのヒールは他の騎士の背が高いのにあわせたかったのだろうか、ただでさえ長い足がさらに長く見えるブーツにため息が出る。


そして、鎧を着ていた時にはわからなかったものがある。

なめらかで長いはちみつ色の髪。

高い位置でポニーテールにされており、肩に落ち、さらさらと澄んだ音をたてるかのように揺れ、胸の辺りまで流れている。


そしてその、胸‥



胸‥‥‥




胸が、ふんわりと膨らんで、礼服の曲線をさらに美しくしていた。




「すてき‥」



感動に震える私を見てライザは両手を上げ降参のポーズをとった。




「ワンチャン少年騎士の夢が潰えましたね」






パレードから帰ってきてから家族で集まって軽く昼食を取った。


私だけが最高潮のエンジン全開で、お父様とお兄様はお通夜のようだった。


信じられないことだがお父様もお兄様も私が騎士様を「推す」といったのを「婚約したい」と履き違えていたそうで。




違う。まったく違う。

『推し』はあくまで『推し』なのだ!



「お父様もお兄様もぜんっぜんわかってらっしゃらないのね!」



「そんな、違いがどこにあるというのか‥」


「僕は、その、フローラが女性と結婚したいのなら応援するけど‥お相手は国境騎士だから、いろいろと覚悟があるだろう?心配だ‥フローラには幸せになってもらいたいのに‥」



「お二人ともおっしゃる意味がわかりませんわ?何故わたくしがあのお方と?『推し』は『推し』!私はリアコではございませんの!結婚などという俗な形に当て嵌めるのは許されませんわーーーー?」



「お嬢様の方が意味がわからない言葉を喋ってますよ」


ライザが果実水を足しながら口をはさんだ。



騎士に惚れたなら仕方ない、しかし全力をあげて婚約まで漕ぎ着けよう!と浮き足立ち意気込んでいたお父様は、頭も肩もこれ以上下がらないところまで下がっていた。



「せめてお相手は普通に適齢期の、未婚の、男性で、借金のない、おだやかで、見た目も悪くなければいい、フローラのことが愛しくてたまらないような‥わしは高望みなどしていないはずなのだが‥なぜ‥?」


「お兄様だって婚約のこの字も出てませんわよ」


「僕はまず仕事が安定してからだから」


「お父様の部署ならこれ以上安定したところはありませんわ!?」


「僕にもいろいろあるんだよ!?」


「今日こそは良いご縁を掘り当てるぞ!」


そう、パレードの後、夜には国王主催の晩餐会が催されることとなっていた。


「国境騎士様を称える会を婚活パーティーにしないで下さいます!?」


「むさ苦しい国境騎士の中に混じれば、息子も優しい紳士に見えるに違いない」


「両方に向かって失礼な発言!」



お父様は私の婚約者さがしを一時的に投げ出すことにしたらしく、ターゲットをお兄様に変えていた。早い。

このままお兄様がだらだらと引き伸ばせば私にお鉢が回ってくるまでしばらく安泰といえる。



そうなれば、少し羽を伸ばすのもいいだろう。





「ところでお父様、私は夜会に出られませんけれども行きの馬車には一緒に乗せて下さいませ。」


「何だって?もしかして‥」


「カーテンの隙間から、ちょっとだけでいいんですの!会場の雰囲気だけでも!あの方と同じ空気を吸えばきっと活性化しますわ!」


「もうやだこの脳筋妹!」


「なんですってー?お父様とお兄様だけずるいんですのー!泣きますわよ?泣きますわよ?弟と一緒に泣いて騒ぎますわよ!?」


「わかった!わかったからやめなさい。どちらにせよリオは滅多に泣かない大人しい子じゃないか。弟をダシにするのはよくないよ」





というわけで、私は晩餐会も馬車からこっそり覗いたのであった。


昼間と同じ制服の国境騎士がちらほらと登城するのを眺めながら、あうあうと呻いていると信じられない僥倖が降って湧いた。


「え?」



あの方がいらした!



拝顔かなわないと思っていたが、偶然にも馬車を降りてくるあの方を見つけてしまったのだ。思わず馬車のカーテンを引きちぎりそうになった。現実には私の細腕ではちょっと布地が伸びたくらいであるが。


「ラッキーにも程があるわ‥」




昼間見た騎士団の礼服姿とは違う装いであった。


はちみつ色の艶やかなポニーテールは巻き上げられ鮮やかなエメラルドが目を引く飾り櫛で留められており、サイドを一房ゆるく巻いて肩に垂らしている。


その肩もあらわに真っ白な肌が背中まで見える、ホルターネックのバックレス。広く開いた背中より下はマーメイド型で引き締まった腰と腿が際立つ。ドレスの生地もエメラルド色で光沢があり、王宮のともすあかりに反射してきらめいている。


裾は羽毛を染めたふわふわの縁取りでボリュームを出し、ほっそりとしたラインとバランスをとるようなデザインだ。


美しかった。



一呼吸おいて改めて気付いたが、ところどころに見える引きつれたような切り傷や火傷の跡があった。


しかしそれをまったく隠そうともしない堂々としたドレス選びに、しびれてしまう。


炎の魔王と戦って勝った証である。どんな宝飾品よりも騎士の肌を飾るにふさわしいではないか。


自分もわざと傷をつけようかと馬鹿なことを一瞬考えたほどであった。



そして同じ国境騎士団の礼服を纏った背の高い男性にエスコートされ、とても騎士とは思えない女性らしいたおやかな足どりで、滑るように晩餐会場へと吸い込まれていった。




ひん‥尊み‥




「あれが‥あれが真の淑女なのだわ‥」




衝撃のあまり、馬車の中でえぐえぐと泣きながらかえったものである。




「わたくし、あの方のような騎士になりたいのです!具体的な目標を目の当たりにして決意はますますかたくなりました!ああ!今宵は心が波立って寝られそうにありませんことよ!」




「ライザ特製ハーブティーをお持ちいたしますね」




興奮で疲れていたのかライザ特製ハーブティーの効果はバツグン、一瞬で眠りに落ちた。寝る子は育つ。





そう、私は「推し」に出会って将来を決めたのであった。


女騎士。



それ以外の自分は考えられもしなかった。



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