2
※テスト投稿。未完、大幅な改変の可能性があります。
プレリーズ男爵家は、ごく普通のモブ貴族である。
穏やかで真面目、勤勉さを買われ叙爵してから数百年。
文官を輩出し続けており、目立った問題もなく爵位も変わらないモブ・オブ・ザ・モブ貴族である。良くも悪くも安定した家柄であった。
堅実ゆえお父様は特に気兼ねなく結婚相手を選べたようだ。
平民の商家からブロンド美女のお母様をもらい、お兄様と私と弟の3人の子供をもうけた。
母は弟を産む時に亡くなっているが、その後再婚はせず、代わりにお兄様を筆頭に子供達に良い縁談を!と定時後は婚約活動に奔走している。
お父様もお兄様も王宮仕えとはいえ貴族としては普通の文官で、目立たないことこの上ない。
弟はまだ8つだが男の子のわりに大人しく、プレリーズ家の男子らしいとも言えた。
どうも娘の私だけが様子がおかしい。
乳母兼ハウスメイドのライザがその被害を被るようになったのは2.3歳になったころだったか。
お兄様の本棚にあった、男の子向けの絵本にどハマりしてしまったのである。
勇者と呼ばれる少年が艱難辛苦を乗り越え、竜に拐われたお姫様を助けるという冒険譚。
最初の1週間ほどはお姫様に憧れたのかと微笑ましく一家で見守っていたが次第に雲行きがあやしくなっていった。
毎日ライザに絵本を読んでとせがんだ。
毎日、朝昼晩と3回‥などというかわいらしいものではなかった。
食事と風呂と睡眠以外の時間をすべて絵本よんでよんで攻撃に使ったのである。
悲鳴をあげたのはライザだった。
ライザはフローラの面倒をみるのがメインの仕事ではあった。
しかしメイド達の中で割り振られた仕事もあるのだ。
フローラのあまりの執着ぶりに恐れ慄いたメイド達はライザの家事雑用を全て肩代わりしてはくれたが絵本読め攻撃から逃げ続けた。
ライザは前線でひとり孤軍奮闘することとなった。
1週間もするとフローラは当然のように内容を丸暗記してしまった。
すると2週間目にはライザと一緒になって声を張り上げ絵本を音読するようになり、3週間目に突入しライザの目が座り悟りを開く頃にはひと通り文字が読めるようになるという名誉だか不名誉だかわからない快挙を成し遂げた。
かわりにライザの声は枯れ果てた。
猪突猛進お嬢様の爆誕であった。
「フローラお嬢様はなんてかしこいのでしょう!
この歳でもうこのような難しい本をお読みになるなんて!
おひとりで本を開いているお姿など皆がほれぼれしてしまいますよ!
たいへん立派でございます!!!」
ライザは私が文字を覚えたと知るや否や大変な勢いで褒めまくり、2度と私に本を読むことはなかった。
「一生分の絵本を読みましたね。」
‥ご苦労様でした。
幼少期とはいえ迷惑かけたわね。
今その話を聞くと罪悪感が生まれるわ。
実は今でもその絵本は愛読書であり、その後も同じような内容の小説をあちこちから貰い受け買い漁り読み続けている。
底なしの根性と探究心があることが証明された。
フローラの起こした事件はそれだけではなかった。
4歳頃、母の実家に遊びに行った折、お店の人の出入りが激しくなり人手が足りなくなった隙をついて、フローラが突然いなくなった。
なんとその小さな足で懸命に歩き、一町向こうの冒険者ギルドまで行ったのだ。
キラキラした目でハッキリと、
わたくし、ぼうけんしゃになりたいです!りゅうとたたかうの!よろしくおねがいします!
‥と元気な声で言って受付のお姉さんに即保護された。
フローラのフワフワドレスの裾のように、
本人のフットワークもめちゃくちゃ軽いことが証明された。
これには両親も祖父母も青くなった。
「貴族が冒険者になるなんてとんでもない」
「それより女が冒険者なんて危ない」
「そもそもこんな幼い子がいけませんよ」
ひとしきり大泣きした私を慰めるべくお父様が私に提案したのは騎士だった。
「一億歩ゆずって、騎士はどうだい?フローラ?貴族なら騎士に憧れるものだよ。」
温厚な文系一族からすればたいへんな譲歩だったのであろう。
お兄様の付き添いと称して、私は騎士団の演習を見学させてもらえるようになった。
もちろん騎士様に嫁ぐ方が冒険者ギルドに出入りするよりもずっと世間体が良い、との思惑であった。
それから冒険者ギルドのことはすっかり忘れたようで足しげく騎士団に通い詰め、うっとりと精鋭の騎士達を見つめるフローラに「私はお優しい殿方が好みだけれど、娘はマッチョが好みとは思いもしなかったわ。」と母は少し困ったように眉をよせ大きな瞳を細めた。その表情は仕方ないというふうに慈愛に満ち、母ながら大変可愛らしかった。
しばらくはそのような穏やかな日々が続いた。
‥ベットの下の鉄アレイを見られるまでは。
「奥様ぁ!!お勉強のスケジュールノートとは別に筋トレノートも発見されました!!」
「ああーっ!?これは素振り用の木刀?お嬢様のお部屋にあるまじきものが次々と!?」
ライザの悲痛な声が忘れられない5歳の夏であった。
幼いながらも努力を怠らない精神も証明されてしまったのである。