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※テスト投稿。未完、大幅な改変の可能性があります。
「お父様のばかーーーー‼︎」
屋敷内に私の怒声が響き渡る。
下級貴族の我が男爵家は貴族街の端の方にこぢんまりした邸宅をかまえている。
そう広くはないので階下の厨房にいるライザにも聞こえているだろう。
「ぐっ‥しかしフローラ」
お父様は椅子から立ち上がったはいいがオロオロと手足を揺らし眉を寄せて途方に暮れている。
額は汗びっしょりだ。
「私これまで14年間お父様のいいつけどおりに学んでまいりました。魔法も音楽も経済も語学も算術もダンスも、なにもかも、ですわ!」
そう、男爵家の一人娘としてお父様から課された教養は少なくはなかった。
物心つく頃からバイオリンや第二言語での会話、5歳頃から魔法学も加わり今年14歳のデビュタントまで怒涛の勉強スケジュールであった。
残念ながら音楽と魔法の才能は芽が出ず、貴族の末席にあって困らない程度を修めたが、それ以外は家庭教師が揃って才女だ淑女だと褒め讃えるほどには詰め込んだ。
必死でガリ勉したものである。
これはお父様の多少の意地悪な妨害も含んでいたが私自身も納得して挑んでいた課題だ。
無茶振りとわかっていてもやめなかった。
それもこれも、今これからの将来、夢のためだった。
「お父様はいままで私の努力をご覧になっていたはずですわ」
「ちゃんと見ていたよ。ワシのかわいいフローラは大変優秀で努力家でどこにお嫁に出しても恥ずかしくない‥」
「てんで見てない!」
「いや、見てた見てた、どちらかといえば見ていたからこそ心配がつのって‥こう、焦ってしまってだな」
私は可憐なピンクの花が縁にあしらわれたアイボリーの文机の上を、いわゆる姫袖といわれるフリルたっぷりの袖をブゥンと振り上げ、ザアァァァァッと払った。
バサバサと紙の束が落ちる。
ゴミである。
「ああっ!お預かりした釣書が!」
釣書だった。
「婚約など些末なものは後回しにしとうございますっ!」
「さ、さまつ‥」
お父様はそろそろ泣きそうである。
対して私は半眼になる。
お父様の好みであつらえたオーダーメイドの、可愛らしいリボンがふんだんに盛られたお人形さんのようなドレスまで着てあげたのだ。
その格好で怒鳴ったり親を睨んだりするのは気が引けたが逆に凄みが出ると判断して着込んだ。
貴族令嬢シフトの戦闘服である。
今日という今日は徹底的に抗戦するべし。
バン!と机に手を着く。
同時にバン!と部屋の扉が開きフライパンを持ったライザが飛び込んできた。
「フローラお嬢様!いけません!」
ライザとお父様がいるならもはや宣言するしかない。
私はすうっと息を吸い込んで今日一番の大きな声で高らかに言い放った。
「わたくし、竜退治にまいります!」
「あ‥」
泣いた。お父様は額に出ていた汗を、こんどはどぼどぼと目から流している。
ライザはフライパンを持っていない方の手で両目を覆い天を仰いだ。
「それとも、お父様は約束を破るお方でしたの?」
「ぐひぅ」
「4年前の約束、私は1日たりとも忘れたことはございませんし?」
「そ、うだったかな?」
「こちらにお父様のサインもいただいております」
鼻先に証書をつきつけた。
簡単ではあるが書いたのはお父様だし日付もサインも入っていて逃げ場はない。
完全に黙った。勝ち確定である。
私は騎士団入団試験をクリアするため、竜退治に挑むことにしたのだった。