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第二話 夕食後に

 令皇高校で寮生活をする生徒のほとんどが広い食堂を利用する。

 二十時頃、疲れた体を押して絢斗は遅めの夕食を。

 食堂勤めで遅くまで働くおばちゃんからカツカレーライスとサラダを受け取り席についた。


 「絢斗、食べようよ」


 同期で同じ部屋の水神 亮磨(みずかみ りょうま)に促され席についた。

 部活は違い野球部だが、彼は物腰柔らかで話しやすい雰囲気。


 「なんか噂になってるね」

 「何が?」

 「剣道部のことだよ。うちの部も、他のとこも広まってるみたいだぜ」

 「もう勘弁してほしいよ」


 赤面した絢斗を見て笑う。


 「しっかし、薄村も大胆だな」

 「俺もびっくりだから」

 「女子だから驚くのは別に問題ないよ。まさかね」

 「そうそう」

 「絢斗のどこに魅力があったんだろうなー……。まあ女子だから例えば」

 「なんでもない!」

 「おお? 急にどうした? 焦ったような顔して。顔も、耳まで赤いぞ」

 「別に。そんなこと。

  女子だからゴキブリに驚くとかも決めつけだから、亮磨こそあんまり深堀すんなよ」

 「そうだね。ここに薄村来てくれないかなあ」

 「はあ? 意地悪だなあ。

  でも一言ぐらい言わないと後々気まずいし」

 「だろ? しかも同じ部活なんだから早めに済ませた方が良くない?」

 「でも俺から言うのもおかしくない?」

 「うーん……」

 「どっちかって言えば俺被害者」

 「そこは男からとかなんたらとか。

  意外と待ってるかもよ?」

 「待ってもいるだろうけど、ようは俺から行くのもどうかってとこ。

  亮磨が俺の立場だったら行くか?」

 「野球部だから女子マネとそんなことないだろ」

 「おいおい逃げないでくれよ」

 「じゃあ今日は寝て、何事もなかったように過ごしな」

 「亮磨! 明日どうしろって言うんだよ」

 「男なんだからそこは腹くくらないと。

  どうなるかだなんて分からないんだからさー」


 夕食のカツがやけに重たい。

 油が腹にくる以上に、もっと重く感じる。


 「薄村今何してるかな」

 

 ぽつり、絢斗は呟く。


 「やっぱ気になってるじゃん」

 

 

 ◆◆◆

 

 

 夕食後に他の女子部員に頼み、絢斗は彩智を呼び出した。

 照明がついた共有グラウンドに二人きり。


 「……大丈夫かなあいつら」


 と言うわけにもいかないが、亮磨や数人の自主練習達も気にしながら。

 

 絢斗は竹刀で素振りして待つと、遅れて彩智が現れる。

 お互いに緊張した表情で、絢斗から声かけた。


 「よう」

 「うん、さっきはごめん」

 「びっくりしたよ」

 「だからごめん」

 「怪我してない?」

 「私は平気。それより絢斗の方が」

 「何も怪我とかない」

 「泡とか」

 「幻覚だから」

 「幻覚か、よかった。じゃあケント掴んだのも」

 「掴んだって?」

 「!?」


 顔を赤らめる二人。


 「腕とか! 怖かったから」

 「そうだよな。って俺細いから掴みごたえとかないけどな」

 「そんなことないよ。芯があってドクドクって感じて生きている」

 「まだまだだけどなあ」

 「硬さと柔らかさを揃えた……絢斗、ねえ」

 「え」


 絢斗の手にもつ竹刀を握って、彩智はより近く。

 

 「絢斗の竹刀ってすごいね。今日先輩との試合に勝てたのもその竹刀のおかげかも」

 「俺の竹刀が?」

 「暖かくて、お守り? なのかな。でも、すごく安心できる。

  ちょっと借して。素振りしたい」


 絢斗は自分の竹刀を渡し、三十の上下素振りを見守った。

 普段見る素振りとは違って彩智には無駄な動きがなく、真っ直ぐかつ洗練されたような体の動きと余裕のある表情。


 「すごく、いい」

 

 彩智は竹刀を返して心地よい汗を拭う。

 喉が渇き鞄に入っていた小さなペットボトルを出し、中身を見て片付ける。


 「飲み物なくなっちゃった。喉乾いたな……」

 「自販機そこにあるから。何がいい?」

 「白っぽいものならなんでも」

 「変わった趣向だな」

 「なんでも良いじゃん」

 

 絢斗からはおかしく聞こえる。

 寮生活を過ごす彼らが外のグラウンドを使用でき、尚且つ男女が一緒に過ごせる時間はもう十分とない。


 「ねえ絢斗」

 「何?」

 「好きな子いるの?」

 「なんだよ急に。いないよ」

 「どんな子が好き?」

 「……そんなこと聞いてどうするんだよ」

 「別に良いじゃん。聞くことが悪いわけじゃないでしょ」

 「もう時間だから。俺もう寝る」


 え?

 

 「待って!」

 「何?」

 

 全然振り向けさせられずアピールに失敗している。

 彩智はこのまま離れたくない強い思いから提案した。


 「今晩絢斗の竹刀借りていい?」

 「良いけど。明日返してよ」

 

 予備も含めて余裕はあるので一本ぐらいなら問題はない。

 素振りに使われるぐらいだろうと思い彼は渡した。


 「ありがとう。ケント大切にするね」

 「俺を?」

 

 渡したことで彩智が好意を持っていると絢斗は勘違いのように振り向いた。

 顔は真剣そのものだった。

 女子から好意を向けられていると感じ取った絢斗の鼻の下が微に伸びる。


 「また明日」


 特に意味もないのに、次の約束を取り付けられたように絢斗は思いこむ。

 特別な好意を忘れないようにとぶら下げたケントが固まりだした。


 

 ◆◆◆



 彩智の自室。

 一人部屋とあって、彼女は股を広げ絢斗の竹刀を串物のように––。


 「あぁんっ!」

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