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06●緻密な造形のメカたち。そしてガンダムへのオマージュ?

06●緻密な造形のメカたち。そしてガンダムへのオマージュ?




 『ヴイナス戦記』の大きな魅力のひとつは、スクリーンを飛び出す勢いで駆けまわり、炸裂しクラッシュする登場メカ群。

 突拍子なデザインを狙わず、ガンダムのゾックやザクレロみたいに設計者が思いっきり趣味に走った感のあるメカでもなく、理論的に「ありそう」な範囲でデフォルメされ、リアリティが追求されているようです。


 インパクトが大きいのは、やはり多砲塔戦車のアドミラルA1“タコ”。

 四連の履帯キャタピラで巨体の重量を分散、もう移動要塞の趣ですね。

 『ヴイナス戦記』が公開された1989年は宮崎駿氏の手になる“悪役一号”の登場とほぼ同時期でした。ただしコミカルな“悪役一号”に対して、四連の履帯キャタピラで猛然と驀進ばくしんする姿を見せてくれたという点で、“タコ”は空想世界の多砲塔戦車として、まさに決定版といえるでしょう。

 前方にほぼ固定装備した200ミリ主砲は砲口制退機マズルブレーキが見られないので、無反動のロケット砲か、あるいはレールガンかもしれません。市街地への侵攻時、スゥが撮影する目の前で主砲を撃ちますが、砲口から出る発射炎は少なく(でないと彼女は丸焦げ)、弾体が飛んで大気を切り裂きながら、わだちのように路面に風圧を叩きつける描写が、もう最高でしたね。撃った! という緊迫感が炸裂します。


 タコ戦車の前面下方、履帯キャタピラの間に突き出す格好で、火炎放射砲が装備されており、時々派手に噴射してくれます。これはおそらく、忍び寄って対戦車地雷を仕掛けたりする敵歩兵を丸焼き(実際はヤケドよりは酸欠死亡)にするのが目的でしょう。恐ろしい仕掛けです。

 火炎放射専用の油を搭載すると嵩張かさばるので、たぶん、エンジンに使うハイオクのオイルを共用して、霧状に放射しつつ点火するのでしょう。ナパームのような粘着質の強化可燃物は混ぜていないようで、火焔を浴びせられたヒロが火だるまにならず、どうにか危機を脱しているのは、そのためだと思われます。

 まあしかし、サラマンダーな火を吐く戦車でもある“タコ”、悪役ならではのエグい見せ場バッチリですね!


 タコ戦車がパラシュート降下で着地寸前に、左右側面から下方へゴッと排気して、逆噴射するシーンもリアルでした。これ、降下専用のロケット噴射口ではなく、たぶんエンジンの排気口であって、蓄積した排気ガスを圧縮して噴射し、ロケット代わりにしたのではないかと。

 エンジン排気を下方に向けるのは理にかなっています。吸気口は砂塵などを吸い込まないように車体上部につけるのが常なので、そこから排気を吸い込まないようにするためですね。おそらく、タコの躯体後部上方に向けて煙突のように生えているダクトは排気でなく吸気の方でしょう。

 タコは見るからに百トン以上はありそうなので、たいていの橋は渡ろうとすると落ちてしまいます。そこで河川に直接乗り入れて水中走行で渡河することを前提にしているのでしょう。それなら、吸気口を頭上に高く延ばしていることにうなずけます。伸縮式なのでしょうね。

 戦闘モノバイがタコを攻めるときは、強力な正面装甲との勝負を避けて、ちょこまかと側面に回り込むと、タコの車体左右の排気口群をねらってレールキャノンの高速弾体を撃ち込んでいます。

 排気口の内側に位置する機関室に火災を誘発させるべく意図していることが察せられて、なるほどとうなずかされます。

 つまり排気口が弱点なんですね。これをやられたドナー准将、「あなどれんな」と、マ・クベの声で呟いておられました。


 ……などと、想像をめぐらせてくれるメカ群は、やはり設計が秀逸だからだと思います。


 タコ戦車の旅団がイオ市へ侵入した時、アフロディアの戦車が迎撃します。

 こちらは砲塔式でなく、第二次大戦のドイツのヤクトティーガーみたいな自走砲タイプですね。

 主砲はレールガンのようですが、発砲のさい、車体後方へちゃんとバックブラストを噴き出していました。細かいながら、行き届いた演出に座布団一枚!


 万能かつ無敵に見えるタコ戦車ですが、やはり致命的欠点は車体のボリューム。

 あまりに巨大すぎて、市街地内部への侵攻はかなりの無茶振り。

 とにかく道幅が足りず、車体を左右に振りながらグイグイと無理押しする様子が、スゥのカメラに撮影されます。

 200ミリ主砲も、敵を撃つよりは、前方の建物を壊して道を作るために使われているような……

 そんな不便さはドナー准将も承知だったようで、タコ戦車の運用は市街地の周囲にとどめ、別途に二回りほど小型の単砲塔戦車も多数、同時にイオ市へ降下させたことがわかります。グッジョブなドナー!

 この単砲塔戦車は、クレーンの下敷きになって身動き取れないヒロの眼前に現れますが、シャア様、もとい、カーツ大尉が駆る専用三輪バイクのレールキャノンを食らって一発で爆散、タコに比べると砲塔の前面装甲がはるかに弱いことがわかります。車体重量をかなり軽減した空挺戦車なのでしょう。


       *


 では、航空機は……

 作中では、タコ戦車を運んで来た超大型輸送機“ドンガメ”と、ハウンド部隊のもとへ視察にやって来たアフロディア軍高官のVTОL機しか姿を見せません。いずれも推進システムはプロペラや回転翼、ダクトファンらしきものであり、ジェット機ではなさそうです。

 テラフォーミング途上の金星では、人類が安全に呼吸できる濃度の大気は地表近くに限られ、一定の高度以上では急激に大気密度が低下するのではないでしょうか。

 だから旅客機は安全性の点から、あまり使われていないのでは。

 酸素濃度が低いとジェットエンジンに点火できず、それゆえジェット機の運用は困難となり、できるだけ低い高度でプロペラ機を使っているように思えます。飛行中に空気が薄くなったら、自動的にプロペラブレードの形状を変えて回転数を増すとかして、速度を一定に保つのでは?……

 戦車輸送機ドンガメの巨大な翼が一見旧式な複葉であることも、濃度が不安定な大気の中で、より多くの揚力を確保するためではないでしょうか。

 なおドンガメは映画パンフによると「全長92m、全幅80m」とあります。

 2023年の現用最大の旅客機、総二階のエアバスA380が「全長73m、翼幅79.8m」ですので、決してトンデモな巨大メカではなく、羽田空港でもどうにか降りられるかな……といったサイズですね。さすがのリアリティというか……


       *


 さて数々の登場メカの中で、一等に特筆すべきは……

 あの、巨大ショベルクレーンです。

 操縦者はヒロ君。

 コクピットに収まり、レバーを操作して、なんと、敵戦車タコにパンチをお見舞いしてくれます。

 このとき気にかかるのは、ヒロ君にクレーン操作ができるのか? ということ。

 しかし、ガリーヤードを“出撃”する直前、彼はヤードのガントリークレーンでコクピットから身を乗り出して、モノバイの吊り上げを操作していました。用意周到の伏線ここにあり、です。

 日常のヒロ君は、ガリーヤードのクレーン係を務めていたのですね。すでにその種の免許を持っていたのかもしれません。


 にしても、巨大ショベルクレーンのアームでタコを殴りつけたヒロ君。

 イメージ、誰かさんとダブりますね。

 「動け、動けよ!」と叱咤してクレーンを起動するヒロ君。

 この場面、「こいつ……動くぞ!」のあの少年と、どこか似ています。


 つまり、この場面だけ、ロボットアニメなのです。


 タコ戦車をクレーンで殴りつけてボコりにかかるこの場面、おおっとばかりに観客のカタルシス爆発です。

 ロボットアニメは、こうでねえと!

 そんな主張が観客の脳裏に響いてきそうです。

 そういえば、ガンダムやザクたち巨大戦闘ロボットは、せっかくミノフスキー粒子のおかげで肉弾戦が可能となっているにも関わらず、ビームライフルやビームサーベルで戦うのがもっぱらで、ケンカの基本のキである殴り合いの場面は、意外と少ないような。もちろん、いちいち作画したらスタッフが死ぬと思いますが……

 そんなわけで『ヴイナス戦記』の爽快な見せ場である“巨大クレーンvsタコ戦車”のバトルは、当時のロボットアニメに対する、ある種のアンチテーゼにもなっていると思うのです。

 ロボのケンカは、こうやるんだぜ! ……と。

 後年、『紅の豚』(1992)は殴り合いで決着がつきますが、アニメのロボットたちもサボらずにパンチをかましてみろよ……と、ひょっとして安彦良和監督が銀幕の裏側でシャイな微笑みを漏らしておられたのではないでしょうか? 

 せっかくガタイが大きいのに取っ組み合いをしない巨大ロボは、病気の力士さんみたいに、どこか寂し気です。文字通りの“格闘戦”をサボりまくった結果、技術者から「足なんか飾りです」とバカにされる体たらく。

 足は絶対に必要です、蹴っ飛ばすために。


 ……そんなことを、無責任に想像してしまいます。

 なお巨大クレーンは、物語冒頭のバイクゲームのレースシーンで、背景にチラチラと登場しており、存在を示しています。細かいけど、伏線キッチリですね。


 にしても、いったい何の工事で、ここに巨大ショベルクレーンが稼働していたのか、その理由は謎のままです。スタジアムの隣の地面を、こうも深く掘り込んで、不自然ほど深い谷をつくっていたのは、何のため?

 レースバイクが事故って落ちたら死ぬじゃないか。

 ならば、なんらかの地下資源があって、露天掘りしていたのでしょうか。

 化石燃料の原石みたいなものを含む地層があって、そこからの採掘物を精製することで、燃料のオイルを生産していたのかな? とか想像します。

 スタジアムの建屋の一角に「ヴイナスオイル」の社名表記があり、レース用のモノバイは、液状のオイルを燃料としていることが推測されます。

 ガリー氏が“特大モロトフカクテル”にするため、自分のオイルタンカー車に、たぶんレース場の備蓄オイルタンクから無断でホースをつないで“盗油”し、満タンにする場面がありましたし。

 燃料油に関しては、ヴイナスで(ただしアフロディアの領土内では)わりと豊富に、かつ容易に生産されていたことと思われます。


 クレーンによる“タコ戦車ボコボコ作戦”の直後、カーツ大尉のハウンド部隊が颯爽とスタジアムに突入して来ますが、いったい何しに来たのでしょう?

 とても気になりますが、このとき南ゲート前に陣取った敵の単砲塔戦車の背景に、ガリーが“盗油”したオイルタンクが健在であることがわかります。

 たぶん、ハウンド部隊も同じ目的でやってきたのでしょう。

 燃料オイルの接収ですね。

 そして余ったオイルは敵戦車に取られないように、タンクに穴を開けて谷に流したものと思われます。

 ということは、そもそもこのスタジアムを敵のタコ戦車が占拠したのも、備蓄オイル、それもガリー氏が言う「高級燃料」が目当てだったと考えられますね。

 そう考えると、ガリーたちはタコ戦車を攻撃するよりも、あの巨大オイルタンクを燃やした方が効果的だったかもしれません。うーむ、そうだったのか…… 

 ……と、妄想が尽きないところ、これも『ヴイナス戦記』の面白さです。





   【次章へ続きます】



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