最終話 幸せのカタチ
丁度1年前、カズがプロポーズしてくれたあの日の事は、正直に言うと、実はあまりしっかり覚えていない。
カズが言ってくれた「結婚してください」の言葉に、半ばパニックになりながらも、辛うじて「お願いします」と応えた事だけは、今でもハッキリと覚えているけれど、あの時は、なんだかずっと夢の中にいたみたいに、頭がふわふわしてしまっていた。
ちなみに、後から教えて貰った事だけど、そもそもあの結婚式自体、主任が自分達の結婚を周りに発表するついでに、カズの告白のお膳立てをしてしまおうと画策したものだったらしい。
しかも、私以外の全員が、その事を知っていたのだと言う。
ほんの少しだけ、仲間外れにされた気分になって、むくれてしまったのは、カズしか知らないと思いたい……
そのカズとの関係も、あの日以来、大きく変わってしまっていた。
職場では、今までもフォローし合ってはいたが、以前にも増して、一緒に仕事をする事が多くなっている。
なんでも、私が他の男性社員とペアで動くと、カズがずっとソワソワするらしく、「鬱陶しいから、お前がずっとリード握ってろ!」とは部長の談だ。
そして――
変わったのは、職場での関係だけではなく――
――ガチャガチャ……ガチャン――
玄関の方から聴こえて来た音を合図に、最近毎日書くようになった日記帳を閉じてから、キッチンに向かい、用意しておいた夕食に火を入れ直す。
「ただいま~」
「おかえり、カズ」
しばらくして、ネクタイを緩めながらリビングに入ってきたカズに返事を返すと、彼はビックリしたように立ち止まった。
「体調、大丈夫なの?」
「今日は結構楽かな。 カズも、お疲れさま。 仕事、大丈夫そう?」
「うん。 レイちゃんがいない分は、栂咲――じゃなかった……中原主任がバッチリ埋めてくれてる」
あの人やっぱすげぇわ~、としみじみ言いながら、食器を並べたり、ご飯を盛ったりを手伝ってくれる。
ずっと、漠然と憧れだけを持っていた生活。
自分にはきっと無理だって、夢にだけ見ていた暮らし。
今でも時々、もしかしたら、夢なんじゃないかって、思う事があるけど……それでも――
「最近、体調いい日が多くなって来たね」
「そろそろ4ヶ月目だし、ちょっと落ち着いて来る頃だからね」
大切な人が、勇気を出して、私にくれた――
「あのさ……もし明日、レイちゃんが元気だったら、晩御飯どっか食べに行かない? ほら、その……記念日、だし」
「いいよ。 何をご馳走してくれるの?」
――たしかな幸せが、ここにはあって。
「えぇっ!? レイちゃんの方が貯金多いのに、そんなこと言う? ……別にいいけど」
「やったね! ん~、じゃあ……イタリアンかな~♪」
「…………サイゼでいい?」
以前の私は、幸せになれないのかも……って、ずっと悩んでいた。
でも“悪役令嬢”が、最後にちゃんと幸せになれる物語も、たくさんある。
だから、“悪役令嬢”だって。
そんな、たくさんある物語のヒロインみたいに。
――幸せになっても、いいよね?――
この話をエピローグとして、レイちゃん達の物語は完結です。
思い付きで書き始めたので、粗い部分もあったかと思いますが、楽しんでいただけていたら嬉しいです。
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最後までお付き合いくださって、ありがとうございました。