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第2話 芽生えた気持ち

「ぅうん……あ、頭痛い……」


 窓から差し込む日差しに目蓋を焼かれ、寝返りを打とうとした私は、襲ってきた頭痛に頭を抱える。


 えっと、昨日は確か、仕事上がりにカズと呑みに行って――あれ? その後どうしたんだっけ?


 記憶を辿りながら身体を起こし、周囲に視線を向けた私は――


「んん? どこココ!?」


 どう見ても自分家(じぶんち)じゃないんですが?


 急に心配になってきて、バッと音が出そうな勢いで、自分の格好を確認する。


 うん、昨日着てたスーツのまま。

 ジャケットはハンガーにかかってるけど、他は特に乱れた様子はない。

 念のため、ベッド横に置かれていた自分のバッグも確認するが、こちらも異常はなさそうだ。


 そうこうしていると、不意に部屋の扉がノックされた。


「……っ! は、はいぃっ!」

「あ、レイちゃん起きた? 朝飯作ったけど、食べれそう?」


 扉が開いて姿を見せたのは、昨日一緒に呑みに行ったカズだ。


「カズ……あ、もしかして、ここカズん()?」

「そうだよ。 レイちゃんあの後酔い潰れて寝ちゃったから、置いてくわけにもいかないし、とりあえず(うち)まで運んだの」

「あ~、ありがと……あと、ゴメン……ベッド占領しちゃって」

「いいよいいよ、さすがに女の子をソファーで寝かせらんないし――ほら、飯食べよ~」


 そう言って部屋から出て行くカズ。

 ついていくと、ふわふわのラグの上に置かれた小さめのローテーブルに、トーストが乗ったお皿と、ハムエッグとソーセージが乗ったお皿が2セット用意されていた。


「適当に座ってて。 飲み物コーヒーでいい?」

「あ、うん、ありがとう」


 促されるままラグの上に座るとすぐに、コーヒーカップをトレイに乗せて来たカズも、向かい側に座り、カップを1つ差し出してくれる。


「インスタントだけど、ゴメンね」

「あ、うぅん、ありがとう。 えっと……いただきます」


 添えられたナイフとフォークを使って、ハムエッグを1口。


「……あ、美味しい」

「そう? それは良かった」


 目玉焼きの味付けも素朴な感じで、丁寧に炙られたハムとの相性も抜群。

 これ、もしかして、私が作るより美味しいんじゃ……。


 それにしても、ナイフとフォークで朝食って、なんかすごい優雅なご飯だなぁ。

 もしかして、カズってば、いいとこのお坊っちゃまだったりし――


「………………………」

「んぐ、んぐ――ん? どしたの、レイちゃん?」

「……なんでもない。 幻想だったのよ」

「――はぃ?」


 視線を上げた私が、呆れたように自分を見ている事に気づいたらしいカズが、ソーセージハムエッグサンドを片手に、優雅さなんか微塵も感じられない姿で聞いてくるが――本当になんでもない。

 いつもは割りと大雑把なのに、酔い潰れた私をわざわざ家まで運んでくれたり、美味しい朝ごはんまで作ってくれて、ちょっと見直しかけたり……なんて事もない。


 無いったら無い!


「いや、今日明日で、久しぶりの2連休だし、何しようかなって」

「……さっきの視線はそんな感じじゃなかったような……まぁいいか。 ストレス発散にお出掛けでもしたら?」


 とりあえず、内心を悟られないように、適当に話を続けてみるが、カズは微妙に納得いかなさそうだ。


「お出掛けねぇ……」

「ほら、この前、観たい映画があるって言ってなかった?」


 あー、確かに言ってたな。

 でも、あれはちょっと、映画館に行って一人で観るのは勇気が……


 指差されて「プークスクス」されそうで……ひ、被害妄想だってのはわかってるけど!


 そんな事を考えながら唸ってたせいか、カズがと~っても生暖かい目で私を見ながら――


「そ、そんなに一人で映画館行くのが嫌なら……その……付き合ってあげようか?」


 ――頬を掻きつつ、そう言ったのだった。





























「いやぁ、面白かった~!」


 結局あの後、お言葉に甘えてカズに付き合って貰うことにした私は、シャワーを浴びて着替えるために一旦家に帰ってから、改めて待ち合わせして合流。


 そしてたった今、目的の映画を観終わって、映画館の近くにあるベンチに腰かけたところで、カズが飲み物を差し出してくれた。


「ちょっと意外だったなぁ。 あぁ言う映画も観るんだね」

「あぁ~、うん。 昔はあんまり興味なかったんだけどね……」

「仕事の影響?」


 言い淀んだ私の心境を覗いたように、ズバリ言い当てるカズに、苦笑混じりに頷きを返す。


 今回観に来たのは、それはもう甘々なラブロマンス。


 仲の良い幼馴染みだった二人が、引っ越しを機に離れ離れになるも、大人になって職場で再開。

 お互いに異性を意識し始める前に離れ離れになっていたためか、大人になった相手にどう接したら良いか分からなくて、ギクシャクしてしまう。

 それでも、一緒に仕事をこなす内に、幼馴染みではなく、異性として意識し始めて――って言う、本当に定番なストーリーのもの。


 以前なら、恋愛物の映画って、そんなに興味なかったのに、今の、ひたすら“婚約破棄”される仕事をしているせいか、こう言う甘~い話が好きになってきてしまったのだ。


 幼い頃にしていた事を話して懐かしんだり、恥ずかしがったりって言うジレジレも、何となく気まずくてギクシャクしてしまうのも、ふとした瞬間に“やっぱ好きなんだ”ってなるところも、全部がすごくキラキラして見えてしまって、原作の小説など何回読んだかわからない。


「ほら、私さ……毎回、婚約を解消されて……まぁ、有り体に言えば、何回も恋人に捨てられる立場なワケで――」


 仕事だってのは、わかってるけど。


 別に相手は、私の好きな人ではないけど。


 それでも――


「――こう、毎回毎回だとさ、何て言うか……いざ、私に好きな人ができても、結局、捨てられるんじゃないかなぁって、思っちゃってさ」

「……レイちゃん……」

「だからかな、なんか、こう言う、真っ直ぐにお互いが好き合ってるような話に、すごく、憧れ?みたいなさ、そう言う気持ちが強くなっちゃって」


 ――何ともない、みたいに強がってても、知らず知らずの内、に心が弱ってたのかもしれない。


 気付いたら、別に言うつもりは無かった内面まで、話尽くしてしまっていた。

 それが何となく気まずくて、渡されていたジュースをチビチビと飲んでいると、不意に隣に座っていたカズが、頭を撫でてくる。


「心配しなくても大丈夫だよ。 その……レイちゃんは素敵な女の子だから。 俺だったら、きっと、絶対離したりしない」


 いや、なんかプロポーズみたいなんですけど!

 カズには、微塵もそんなつもり無いんだろうけど!


 あんな映画観た後だと、なんか変に意識しちゃうじゃん!


「――えっと……あの……」

「あっ、ゴメン! なんか、ちょっとでも元気出して欲しくて!」


 そう言って、慌てて私の頭から手をどけるカズ。


 プロポーズみたいだったぞ~、ってからかってやろうと思ったのに、目の前で顔を真っ赤にしながらワタワタしているカズを見ていたら、そんな小さなイタズラ心も、さっきまでのちょっと沈んだ気持ちと一緒に吹き飛んでしまった。


「……いいよ、ありがと」


 顔が熱いのは、きっと、気のせいだと思う。

 ほらっ、今日、良い天気だからっ!













━━━

━━━━━━

━━━━━━━━━━













 今日のレイちゃんは、ヤバイ。


 何がって、普段と雰囲気が違いすぎてヤバイ。



 シャワー浴びて着替えてくる、と言って自宅に帰ったレイちゃんを見送った俺は、大急ぎで出掛ける準備をした。


 身だしなみを整え、服もちょっとお洒落な感じに。

 何度も鏡で確認してから、待ち合わせ場所である最寄りの駅前に向かう。


 映画館のある場所までは電車2駅。

 最初は、映画館の前で待ち合わせ、と言ってたんだけど、なんでもレイちゃんの家、(うち)の近くだったらしく、それならもう一緒に行こうか、と言う事になったのだ。


内心ドキドキしながら待っていると、レイちゃんが到着。

 普段の、パンツスーツでピシッと決めて、カッコいい感じの彼女とは違う、落ち着いた雰囲気のワンピース。

 腰の所がリボンで締められ、彼女のスタイルの良さが際立っている。

 何より、ハーフアップにされた髪に、恐らく普段から気にしている目付きを、少しでも和らげるためであろう丸メガネ――


 始めて見る彼女のオフの姿に、ポカンと見惚れてしまった。

 ここでさらっと「今日の服、可愛いね」とか言えるやつが、イケメンって呼ばれるんだろうか。


 せめて、レイちゃんが「変じゃないかな?」とか聞いてくれたら良かったんだけど、言われた言葉は「お待たせ、じゃあ行こっか」だったため、「可愛い」って言いそびれてしまった。


 ヘタレだと笑いたければ笑えよぉぉ!


 結局、レイちゃんを直視出来ないまま、映画館に到着し、映画の最中も、真剣な眼差しでスクリーンに集中する彼女が気になってロクに集中できず、映画の内容は半分くらいしか頭に入ってなかった。


 挙げ句の果てに、ベンチで一服してる時、内心を語ってくれたレイちゃんがとっても弱々しくて、守ってあげたくて……気が付いた時には、彼女の頭を撫でてしまっていた。


「――えっと……あの……」

「あっ、ゴメン! なんか、ちょっとでも元気出して欲しくて!」


 俯いて、耳まで真っ赤にしたレイちゃんが、言葉を発した事で我に返った俺は、慌てて手を退けて謝る。


 急に頭撫でるなんて、小さい子じゃないのに失礼だったかもしれない。

 でも、怒るかなって思ってたレイちゃんは――


「……いいよ、ありがと」


 ――って、顔を真っ赤にして照れ臭そうに言うだけだった。


 そんな彼女の様子に、俺の心臓は痛いくらいドキドキしてしまう。


 やっぱり俺、レイちゃんの事、好きみたいだ。


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