5.そして邂逅
ー10日目ー
あの後も何度か目を覚ました青年は少女と話そうとしたが、少女の方から安静にしていろと言われている。
実際に体温を測った訳ではないが、風邪で38度以上出た時の倦怠感や頭痛等の症状が出ていたのでおとなしくしていた。
体は多少動くようになったので着替えや食事と排泄は自分でするようにした、出来るだけ迷惑は掛けないようにという気持ちと恥ずかしさからではあったが。
とりあえずやる事がなくなり横になっていると、寝込んでいる時特有の心細さから「今日またあの子に会えるかな」「でも風邪を移しても嫌だな」などと考えていると怒鳴り声が聞こえていた。
「いい加減あの人族を出せ!下等種など庇っても良い事などないぞ!」
「病人が寝ているんです、大声を出さないで下さい」
「その病人が問題なのだ!そいつが何か仕出かす前に早く連れてこい!」
ガンガンと頭に響く男の怒鳴り声を聞きながら、おそらく自分の事だろうなと気付いた。
(しかし人族、下等種か…)
地球に、現代の日本に居たらまず聞く事のない言葉だ。
なんとなく気付いていても考えないようにしていた事実が男の思考に、すとんっと実感を与えた。
ここは日本ではない、おそらく世界すら違うのだろう。
少女のエルフ耳もここに至っては受け入れていた。
その時何かが床に落とされ割れる音と、小さな悲鳴が響いた。
頭痛のせいで考えはまとまらないが今やるべき事はわかる。
男は関節の軋む体を引きずるように部屋を出た。
「ほう…自分から出てくるとは殊勝だな」
「な…ダメです!まだ寝ていないと!動ける状態ではないはずです!」
部屋から出た時に見えた怒りに染まっていた相手の男の顔は、こちらを確認した途端にニヤニヤとした嫌らしい笑みに変わっていった。
少女がこちらに気付いて振り替えると秀麗な眉を顰めながらこちらに近寄ってくる、
心配しながらも困ったような、それでいて少し怒っている。
強い子だな、と思った。頭一つ分以上背の高い男、しかも腰に差しているのはおそらく剣だろう。
そんな武装している相手に怒鳴られても負けずに自分を庇おうとしていたのだ。
あげく無防備に出てきた自分に怒ってしまうほどの心配をしてくれている。イケメンか。
(美少女なのにイケメンとか、もう訳わかんねーな)
とアホな思考をしながら相手の男を見る。
少女と同じく目鼻立ちの整った金髪碧眼の美丈夫であり、やはり耳が尖っていた。
するとこちらが喋る前に、
「貴様が迷い込んだ人族か、ここは貴様のような下等種が居て良い土地ではない。隔離牢に入れてやるからこちらへ来い」
「何を言っているのですか!この方は何もしていません!体調がよくなったら外へ案内するだけで良いはずです!」
「ふざけるな!里の場所を知られたのだぞ、放置する訳にはいかん!」
「森で倒れていただけです、連れてきた時に意識はありませんでした!」
「だとしてもーーー!」
失敗した。
目の前で始まった言い合いに頭をガンガンと揺さぶられ、耐え切れずに膝をつく。
「はっ!軟弱な人族め…もういい、どいてろエリー!」
「タリオン!きゃぁっ!」
エリーと呼ばれた少女が肩を突き飛ばされて離れた隙に連れて行こうと伸ばされた手は、しかし窓から入ってきた侵入者を見て動きを止めた。
「む…精霊だと…?」