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1.転移
オニキス大陸。
広大な土地が広がる大陸の中央には、巨大な森林部が広がっている。
紫色の靄、強力な魔力に満ちたこの森は魔物を生み出すダンジョンと化していた。
誰一人として最奥に辿り着いた事のない、4つの国と接する未踏破地域である。
太陽が一日の役目を終えて沈む頃。
そんな危険な森の中で一人の男が歩いていた、見た目は成人を迎えたばかりの青年に見える。
危険なダンジョンであるにも関わらず、その青年は武器や防具といった装備を一切持っていない。
また目の焦点があってないのかフラフラと覚束ない足取りで歩いているところから夢遊病のようにも見える。
逢魔が時と呼ばれる時間帯ではあるものの青年の周囲に魔物の影は見当たらない。
木々の狭間に見える太陽が沈み切った時、ふわりと彼の前髪を揺らす風が吹いた。
その時、初めて世界を認識したかのように青年は辺りを見回した。
目の焦点を合わせ、視覚から得られる情報を一つ一つ処理していく。
額からこめかみにかけて一筋の汗が伝った。
「コンビニ帰りの道じゃあ…ないよな?」