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男はみな狼である 女はみな魔女である

作者: 時計塔の翁

 

「先輩。僕は男はみな狼であって女はみな魔女であると思うんですよ。」


 隣に座る先輩のお猪口に立花を注ぎながら僕は話す。

 先輩はお猪口を口に運びながら僕の話に耳を傾けた。

 これは秋にしては寒かったあの日の夜の記憶である。


 ◇◆◇◆


 2日間に及ぶ大学の学園祭が終わり半日かけて片付けを行った。

 今年は流行り病のせいで学園祭の規模を大幅に縮小。参加者は学生のみという徹底ぶりを行ったおかげでたいていの学生は準備日片付け日を含む4日間を連休として有意義な時間を過ごしていた。

 私はというと半ばだまされた形で学園祭の実行委員に参加していたので4連勤する羽目になった。


「はぁ~なんとか終わりましたよ。」


 実行委員にあてがわれた部屋で僕たちは4年生が用意してくれた缶ジュース(缶コーヒー)で乾杯した。

 多くの変更やハプニングにみまわれバタバタした学園祭だったが終わってみると皆無事を祝い始めた。

 上級生から菓子と飲み物をふるまわれ、企画で使ったTVゲームをモニターにつないでゲーム大会をしたり、なぜか教室にあったトランプと花札を使ってお菓子をかけた賭け事のまねごとをしたりして昼飯も忘れて騒ぎまくった。


 午後4時を回ったころだろうか。

 花札をしていた私は先輩に12連敗(もしかしたら13連敗だったかもしれない)していて、ボロボロに負けまくっていた。

 ちょうど12か月が区切りがついたので僕たち数人は昼ご飯とも夜ご飯とも言えないご飯に行くことにした。

 この時間になるとどこの店も準備中で店を閉めているため大学の近くにある唐揚げ屋の定食をおのおの食べることにした。


「先輩、女性を喜ばせるにはどうしたらいいんですかねぇ」


 話の流れで僕は先輩にこんな質問をした。

 女性のことは女性に聞くのが1番だと思ったからだ。


「え、ガッキー(私のあだ名)彼女いるの?」

「えぇ、遠距離ですけどね。」


 このやり取りを皮切りに僕たち一同は恋愛話に花を咲かせた。

 恋愛話といってもどちらかといえば恋愛相談のほうが正しかった。

 だがそれも徐々に「付き合う必要はあるのか」という哲学じみた話に代わっていった。

 結果2時間近く店に居座ってしまったことは店側に申し訳なく思う。


 ◇◆◇◆



 午後6時頃、店を後にした僕たちはその場で解散した。

 先輩と僕は帰り道が同じだったのでしばらくしゃべりながら帰っていた。


「ねぇガッキー、7時まで飲まない?」


 大学の近くの居酒屋の前で先輩は僕を呼び止める。

 ここの手羽先は絶品だと聞いたことがあるがいまだこの店で手羽先を頼んだことが無い。おそらくこれからも何度か足を運ぶだろうが手羽先を頼むことはないだろう。


「いいですね、おともしますよ。」



 二人で居酒屋の暖簾をくぐり中に入る。

 まだ早いせいかお客は僕たち2人だけだった。

 大将の威勢のいい挨拶を聞き、カウンター席に腰を下ろす。

 メニュー表を開き先輩はリンゴの果実酒のロック、僕は常温の立花を頼んだ。

 つまみはどうしようかと視線を走らせ、僕はたこわさ、先輩は味玉に目が留まる。

 2人で分ければいいと考えてどちらとも頼み、くるまで雑談をして待っていた。


 突然だが僕は占いができる。

 そして僕の占いは自分で言うのもあれだが結構評判がよかった。

 自分でも驚くほどによく当たるのだ。

 僕の横に座っている先輩も少し前に占ったことがあった。


「…ねぇガッキー、あの時の占い覚えている?」


 もちろん覚えている。

 僕は物忘れが多い方だが先輩の結果は衝撃的だったため今でも覚えている。


「…そういえばそろそろでしたね、()()()()()


 先輩は頷く。

 秋から冬にかけてストカーまたはそれに準ずる相手が現れる。

 僕はそう先輩に言ったのだ。


「そうなんだよ。ストーカーとはいかないけど私の行く先々に必ず現れる人がいてさ、ちょっと前にデートの誘いを断った時からかな。…なんで男ってこうなのかな」


 タイミングよくお酒とつまみが来たのでとりあえず乾杯をした。

 僕はお猪口に注いだ立花を一口飲み


「ストーカーってバカで重度の()()()()()()なんですよ。」

「ロマンチスト?」

「そうです、こういう男は自分の中で都合のいい女性像を持っています。自分がこうすれば相手は喜んでくれる、デートに誘えば乗ってくれる、相手の気持ちより自分の中の女性像のほうしか見れないんです。」


 またお猪口に口を付ける。


「厄介なことはたとえ相手が自分の誘いを断ったとしてもそれは照れ隠し程度にしか思っていないことです、いろんな意味で現実を見れない哀れなものです。」

「あー、わかるかも。」

「自分を客観的に見ることができない馬鹿、そのくせして変な行動力があるから手に負えません。」

「脳筋だね。」


 先輩が果実酒に口を付け、俺もお猪口の中身を空にする。

 そしてまたお猪口に立花を注ぎながら


「そう脳筋なんです、脳筋バカの中二病(ロマンチスト)です。」

「あーいたい。」


 先輩が果実酒を飲むのを見る、急に味が気になったので味を聞くと先輩は自分の飲み口をおしぼりで拭いてから僕に渡してきた。

 遠慮なく一口いただいて果実酒の味を堪能する。

 先輩と同じように自分が口を付けた場所を拭いてから渡す。


「なんでこうも客観的に物事を見れないのかな。」

「男の大半、最低でも8割はロマンチストなんですよ。」

「え!マジ?」

「マジです。ストーカーまでとはいきませんが男はみな中二病患者ですよ。

 男って偏った知識しか持ち合わせていないんですよ。

 少年漫画やゲーム、ライトノベルのヒロインを見て女性をわかった気になっているんです。無意識にリアルと現実をごちゃまぜにしています。だから男はバカなんです。」


 お猪口の中身を少し飲む。

 先輩のグラスを見ると中身があまり残っていない。徳利を揺らすと2回分は残っていたので大将にお猪口をもらい先輩に渡す。

 先輩のお猪口に酒を注ぎ、自分のお猪口に酒を注ぐ。。

 小さなお猪口を掲げ乾杯する。


「先輩、男はみな狼であるってよく言いますよね。」

「うん、よく聞くね。」

「これはよく言われているので女性は男性を冷静に見ることができます。では女性は何でしょう?」

「ん~。わからないね。」

「…花だと教わります。」

「花?どこで教わったの?」

「厳密には習ったわけではないんですが、学校とかで女の子は大切にしなさいって言われたことありません?

 確かに女性は大切にするべきだと思っていますからその言葉自体は否定しません。

 ですがかなり極端にとらえた指導をされる場合があります。

 確かに男は女性より体が大きく力が強い。でも弱くはないじゃないですか。」

「うん、女は強いよ。母親は最強だしね。」

「そうなんですよ、女性は強い。なのに女性は弱いものだと教えられます。まるで触ったら散ってしまう花のように。」

「なんかばからしいね。ちなみに男は狼でいいの?」

「ええ。それはいいです。さっきも言いましたが男はバカなので。」

「じゃあガッキーは女をどう例えるの?」


 一口酒を飲みゆっくりと答える。


「…魔女、ですかね。」

「魔女?」

「先輩。僕は男はみな狼であって女はみな魔女であると思うんですよ。」

「なんで?」

「魔女といっても怪しい呪文を唱えたりするわけではなく、峰不二子のように男を魅了する存在。

 何気ない行動でも男は勘違いする生き物ですからね。」


 相手の話に合わせて愛想笑いをする、これだけで自分に好意があると勘違いするやつがいる。

 同じ班にいるだけなのに、たまたま隣に座っただけなのに行為を持つ男もいる。

 単純だがそれが恐ろしい。ただの発情を恋だと錯覚して免罪符を押し付けてくるのが厄介でたまらない。


「この話を聞いて思ったんだけどガッキーって落ち着いてるよね。」

「えぇまぁ…過去にいろいろ失敗してますからね。過去の経験から学べる男子なのです。」

「あぁ、いろいろあったんだね。でも失敗を反省できるのはすごいね。」

「失敗で学べるならいいですよ。世の中には逆切れする男もいますからね。」

「あーわかる、指摘すると怒る男いるよね。」

「女性の言葉は男の心に刺さります。しかしその言葉をちゃんと受け止め反省できる人は意外に少ない。逆切れしてきて暴力に走るやつは男として終わっていますよ。」

「わかる、男性の言葉より女性の言葉のほうが核心をついてるもん、おんなじ女の私にも来るものあるしね。」

「やっぱり女性は強いですね~」


 お猪口の残りのゆっくり飲み込み、徳利を振って中身が空っぽなのを確認する。

 いつのまにか午後7時は回っていて店の中には数人の客が談笑していた。


 僕たちはお会計をして解散となった。



「…男はみな狼である。女はみな魔女である。…か。」


 月にかかる雲を見てから僕は帰り道を歩いて行った。


この話はフィクションです。

人物名、団体名などはすべて架空のものであり実際の話とは何も関係ありません。

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