【台本:その1】人類を粛清する存在
科学者の男・彷徨と、彼に作られた粛清用女性型アンドロイド・メメ
(薄暗い研究所の一室で、最後のメンテナンスを終えた彷徨と、横たわるメメ)
彷徨「……ついに完成した」
メメ「ん……」
(メメが起動し、自身のセットアップを行う機械音)
彷徨「俺が研究者としての道を志してからというもの、何度邪魔をされたことか……人類は増えすぎた、価値のない人間から粛清し、数を減らすことが必要だと、何度言えば分かるんだ」
メメ「粛清……」
(メメが体を起こす音)
彷徨「そうだ、粛清だ。俺が十何年という歳月を費やして完成させたプログラムが、お前には埋め込まれている。社会の歯車を狂わせる奴、何の役にも立っていない奴。そういう人間らしい兆候を見つけられるようなプログラムだ」
メメ「わたしは、そういう人間を見つけて、殺す」
彷徨「そいつらの血を回収できれば、よりいいな。いくら社会のゴミと呼べる人間でも、血液くらいは役に立つ。この世の中はずいぶん皮肉なもんだ。そういう生きる価値がさらさらない人間が、発展途上国を苦しめている難病の抗体なんかを奇跡的に持っていたりする。ただ、そこまでは見た目では分からないからな」
メメ「可能であれば、血液を回収する」
彷徨「メメ、お前には簡単にではあるが、そういう人間かどうかを判断するためのプログラムも組み込んである。メメのために開発したプログラムだ、存分に活用するといい」
メメ「む……」
(彷徨がメメを先導し、研究所の外へ出る。こつ、こつ、と靴が床を鳴らす音)
彷徨「人を始末すると言っても、人の多い場所ではなかなかやりづらい。お前は確かに人間を粛清する存在としては、非常に優秀であるように作っている。だが、いくらお前とは言え、ハンマーやら何やらで殴られてしまってはひとたまりもない。そこで、だ……」
(メメが彷徨の腹を短刀で貫く音)
メメ「ん……」
彷徨「は……?」
メメ「……自らの死を、忘るること、なかれ」
彷徨「なぜ……」
メメ「わたしのプログラムは、第一に排除すべき存在をあなただと、判断した……彷徨、あなた……お前は、生きていてはいけない」
彷徨「なぜだ! 完璧に仕上げたはず……最後のメンテナンスも、何の異常もなかった! 何が……ッ!」
(彷徨がその場に倒れる音)
メメ「わたしのプログラムは、正常に動いている……確認済み」
彷徨「いいや……そんなはずはない……俺は正しい、俺を始末するなど、そんなことがあっていいわけが……ッ」
メメ「……お前は少し、黙った方がいい」
(メメがもう一度、今度は背中から彷徨を短刀で貫く音)
彷徨「……ッ」
メメ「わたしにそんな憎悪の感情はいらない……わたしはもう、心をもらった。どんな人も、助けられる存在として、わたしは生きる……」
(メメが研究所を後にして、街へ歩いてゆく)