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深淵の悪魔

「悪魔…?悪魔なんて、全部滅んだって、父さんが言ってたぞ。」

 「そりゃあ、悪魔がまだ生きてるなんて言えんわな。現にこうして目の前におるじゃないか。」

 「それは…」

 言葉に詰まる。確かにその出で立ちは伝説とそっくりそのままだし、威厳のある言動も、相手が尋常なものではないことを認識させる。

 「ともかくな、我は外に出たいんだ。どれ、ちょっと上のやつに頼んで、封印を解いてもらってこ い。」

 愉快そうに悪魔が言う。だが、

 「地上はもう誰もいないよ。昨日のうちに何かがあったみたいで…」

 惨状を思い出して、憂鬱が再び襲ってくる。

 「ふうむ、天使のしわざかも知れんな。奴らなら、我がまた外に出るのを恐れて、街ごと滅ぼしたって不思議じゃない。」

 「天使様がそんなことをするわけがない!天使様は僕たちを愛しておられる!」

 「愛されてるからって、害を及ぼさない訳じゃない。まぁ、天使がやったって証拠もないんだけどな。」

 「じゃあ一体誰が…」

 間を置いて、悪魔がゆっくりと言う。

 「気になるだろう?」

 「それは…」

 「知りたいなら、我が力を貸してやってもいい。」

 「悪魔の力なんて、誰が!悪魔の力を借りるなら死んだ方がマシさ!僕はそんな恥知らずじゃない!」

 「はぁ。なぁ、おい、小僧。お前はそのまま何も出来ず、何も知らず、無意味に死ぬのか?悔しくはないのか?復讐したくはないか?あのな、我は別にお前の味方をしようって訳じゃない、ただ、利害関係が合うってだけだ。お前は我を利用して、我はお前は利用する。それだけだ。」

 悪魔の誘惑になんて乗らない。乗らないが、心は揺れていた。

 「僕はともかく、悪魔のお前には何の得があるんだ。」

 「お前の体に住まわせてもらう。なに、乗っ取ろうってんじゃない、お前が死んだあとで解放されるって仕組みだ。それで、お前はこの我の力と知恵を使い放題だ。」


 もはや僕は葛藤していた。小さいころから、悪魔は絶対的に罪深い存在であると、母から言い聞かされてきた。けれども、これまで学んできた宗教的倫理観、道徳、良心。それらと相反するように湧き出てくる仄暗い感情。目の前の悪魔の巨大で虚大な存在感に、僕はぐらつき、ストレートな欲望を感じる。この国を、家族を失った怒りと悲しみを向ける何かが欲しい。僕には失うものなどない。己の心に従って何が悪いと言うのだろう。茫然自失に彷徨い歩いていた先ほどとは打って変わって、確固たる意志で言う。

 「わかった。イルガンド、お前の力を借りたい。」

 「契約成立だな。言い忘れてたが、我の力を使うからには、相応の代償が必要だからな。本来、お前が一生かかっても修得できん力だ、寿命を削るぞ。お前程度の小物じゃあ、頑張ってもせいぜい1年くらいなものだろう。」

 「かまわないよ。それでダメなら、そこまでだ。」

 「はは、潔いな。気に入ったぞ小僧!そういえば名を聞いてなかったな。」

 「僕はレダ。言っておくけど、悪魔の仲間になったつもりはないからな。」

 「それでいい。我はイルガンド!森羅万象常世の総て、天使すらも捻じ伏せる者。ここに契りを為し、我が力をお前に授けん!我の力で一丁、世界征服にでも洒落込むか!」

 「いや、それは遠慮しておく。」

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