崩壊
やがて小鳥のさえずりに起こされ、眼を覚ました僕は、果たして自分の目が開いているのかどうかすらも分からない暗がりのなかで、脱出を図ろうとした。しかし、蓋が思いのほか重く、かなり苦戦を強いられたので、蓋の端っこに思いきり体をぶつけ、蓋と土の間に空いた空間に体をねじこむようにして地上に出た。
いつも通りの青く澄み渡った空が目に入る。地面は幾百の足跡に踏み固められ、草花も這いつくばるように横たわっている。ふと、違和感を覚えて、辺りを見渡す。
―ない、あるはずのものが
庭は塀に囲まれ、周りの住宅はほとんど見えないが、それでも屋根のてっぺんくらいは目に入るはずだ。それが、ない。慌てて表に出ると、目を疑うような光景が広がっていた。
見渡す限りの瓦礫、乾いた血潮、燃えカス、鼻孔をくすぐるのは死臭と土埃、思わず顔を歪める。
―なんで、いったい、だれが、どうして
昨日の光景に思い当たる。赤く染まる街、断末魔。あれは、街が死にゆく光景だったのだ。あまりにリアルにこみあげる感覚が、生まれ育った街が崩壊した事実を否応なく認めさせる。
その途端に言いようもない絶望が襲ってきた。膝から崩れ落ちそうになるのをこらえ、まだ家族が生きているかもしれないという僅かな希望を頼りに、
「兄ちゃーん、兄ちゃーん。」
不安と絶望にまみれて、僕は流れる涙を気にすることもなく、叫びながら歩き出した。