帰り道
「先輩、一緒に帰りますよ」
放課後、通学バックを持った春前さんが俺の席へとやって来る。
「いいけど、古賀さんと帰らなくていいのか? 友達なんだろ?」
「咲来ちゃんはテニス部なのですよ! だから帰りはばらばらなのです。ちなみにー、昔は私と同じバドミントン部だったのですよ」
「へえー。じゃあ一緒の中学なんだな」
「中学校どころか、小学校も一緒です。咲来ちゃんは家族みたいな存在といっても過言ではありません!」
「家族か......」
家族。
その言葉に戸惑いを少々感じる。
「どうかしましたか?」
「いや、気にしないでくれ。とっとと帰るぞ。 早くダラダラしたいんだ」
「はいはい」
話がひと段落つくと、俺は席を立って下校の準備をする。
準備が終わると、俺たちは教室のドアをくぐり、昇降口を目指す。
「意外にもあっさり、私と帰ってくれるのですね」
「ああ、断る必要もないしな」
どうせ、俺も帰るんだ。
春前さんがいても問題ではない。
そうして俺らは帰路へついた。
******
学校を出発して何分か経った。
すると、春前さんが話しかけてくる。
「先輩の家ってどこなのですか?」
「そうだな。そんなに遠くはないな。歩いて帰れるくらいだ」
「そうなのですか。自転車使わないのですか? そっちの方が早いですよね。 先輩はめんどくさがり屋さんですし、その方がいいのでは?」
俺は自転車に乗れない。
乗れないといっても技術的な問題ではない。
怖くて乗れないのだ。
多分両親の車の事故が原因だ。
自転車に限らず、乗り物自体乗れない。
だから俺の行動範囲はせいぜい半径5キロメートルくらいだ。
「まあ...そうなんだけど、自転車、壊れていてね」
「乗り物に乗れない」など絶対に言いたくない。
なぜって?
恥ずかしいじゃないか。
あと、春前さんにバカにされるかもしれない。
適当に嘘をついて誤魔化すことにした。
「修理がめんどくさかったのですね! 」
「あーそうそう」
「先輩らしい理由ですね。安心しました」
春前さんが納得してくれて、俺も安心した。
「春前さんの家はどの辺?」
「桜山市に住んでいます」
「ああ、隣町ね」
「それよりも、女の子に住んでいる場所を聞くなんて、いやらしいですね」
「春前さんも聞いただろ...」
「私は監視役です! もしもの場合に備えて、住所を知っておく必要があります」
春前さんがしたり顔で言う。
「ということで! 先輩の家に今から行かせてもらいます」
「え!? 突然そんな...」
家でダラダラできないじゃないか。
「先輩気づかなかったのですか? 私、駅とは真反対の方向に進んでいますよ?」
隣町から通学している人の多くは電車通学だ。
だから春前さんもおそらく電車通学なのだろう。
しかしながら、春前さんは駅と真逆の方向に歩いている。
「ああ、そういえばそうだな」
「お願いです! すぐ帰りますから」
「えーいやだ」
「先輩...この写真何ですかね?」
スマホに映った写真を見せてくる。
それは例の写真だった。
つまり、俺の手がスカートの中に侵入している写真だ。
「......わかったよ。長居はするなよ。 あとリビングだけだからな」
「はい! ありがとうございます」
こうして、俺は春前さんを家に招き入れることになった。