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休み時間

新たな登場人物の予感

「先輩、ちゃんと体育の授業受けてくださいね? 確か、男子はテニスですよね」


2時間終了後の休み時間、またしても春前さんが俺の席へとやってきた。


俺が帰ることを心配したのだろうか。


約束を破って家に帰るほど俺はひどい人間じゃないぞ。


「ああ、そうなんだ。知らなかった」

「女子はバドミントンなのですよ! わくわくしてきました」

「バドミントン好きなの? 」

「はい! 中学の時はバドミントン部でした」


得意げな顔でそう言う。


「へえ、たしかにそんな感じがするかも」


真面目で健気な性格。

スポーツに向いてそうな性格だ。

部員から慕われるような人物に違いない。


「先輩は、高1のときテニス部だったのですよね? ゆみ先生が言ってました」

「そうそう」

「先輩、テニス部だったのですからテニスが嫌いなわけではないのですよね?」

「嫌いじゃないよ」

「では、授業でテニス頑張っちゃって下さい」

「それは絶対無理」


テニスは嫌いじゃないが、大好きでもない。

どうしても運動なんか、かったるいという気持ちになってしまう。

保健室で寝てた方が楽だしな。


「きちんと授業受けるって言いましたよね」


膨れっ面でそう主張するが、俺の気持ちは変わらない。


「無理だ。やめてくれ。 体調が悪い。保健室へ行かせてくれ」


深く頭を下げる。


「はあ、わかりましたよ」


真摯な態度に魅せられたのか、意外にも許可してくれた。有り難や。


「じゃあ俺は保健室へ行くから。バドミントンがんばれよ」

「はい、頑張ります! 今回は私が折れてあげたので、次は先輩が折れてくださいね」


そう言うと、小走りで教室の外へと出て行った。


******


「先輩! 食堂に行きましょう」

「唐突だな」


昼休み、春前さんが当たり前のように俺の席の前にいる。


「拒否権はないですよ。さっき、体育の授業をサボったこと、見過ごしてあげたのですから」

「まあ、別にいいよ。今から俺も行くつもりだったから」


いくらめんどくさがり屋と言っても、俺だって人間だ。

生理的欲求は抑えきれない。

こんなに頭と心の体力を使ったのは久しぶりだ。

学校は本当に疲れる。

腹が減った。食堂で飯を食いたい。


席を立とうとした瞬間、後輩の口が開く。


「先輩、私考えたのですよ」

「何を? 手短に頼む。 俺は腹が減ったんだ」

「先輩を更生させるにはどうすればいいか、ですよ」

「いや、十分に更生してるぞ。実際今日は6限まで受ける予定じゃないか」

「それだけでは更生したとは言えません! それに、私に言われて学校にいくなんて、まだまだです。先輩には主体的に学校に来て欲しいのです」


主体的に...か。

後輩の脅しがあれば、学校に行く義務が発生する。

俺は春前さんに弱みを握られている。そのため、要求には逆らえないのだ。


しかしながら、自ら進んで学校に行くとなると難しくなる。

家にいた方が何もしなくて楽だ。


「主体的に......か。そんな姿自分でも想像できない」

「できなくても、して下さい。先輩の監視として私も出来る限りサポートしますから」

「そりゃどーも」


自分を思ってしていることなので、一応お礼を言う。

いくら監視役だからといって、ここまでお節介を焼く必要は全くない。

春前さんは実はとても優しい女の子なのだ。

ありがとう、春前さん。

もし監視役が鬼教官みたいな人だったらと思うと、身の毛がよだつ。


「それで、私は思いついたのです! 先輩がどうしたら学校に自主的に来るようになるのかを!」

「その、思いつきとは?」

「ずばり、先輩に学校の面白さを知ってもらいます」

「学校なんて面白いところなんて......」

「あります!」

「学校の醍醐味といえば何でしょう? 」

「そうだな。眠い・うるさい・きつい」

「それはただの悪口です!真面目に答えてください」


常人が考えそうなことを言えということか。


「友達と話すとかか?」

「そうです! ジャストミートですよ! 先輩にお友達という概念があって何より安心です」


後輩、それは心配しすぎだ。


「友達を作るのです。そうすれば学校も楽しくなるはずです! 」

「いや待て、一応俺にも友達はいるぞ?」


残念ながらぼっちではないんだよ。

ぼっち気味なだけだ。


「照彦先輩のことですね。噂には聞いてます。超イケメン天才の照彦先輩に留年した悪い虫がくっついていると」

「悪い虫!? だと......」

「照彦先輩は誰にでも優しいのです。先輩がお友達と勘違いするのも仕方ないですね」

「俺の勘違い。まさか、そんな」

「テニス部のときの知り合いとも今では疎遠だと聞いています。残念ながら先輩にはお友達はいないのです......。ドンマイですよ、先輩!」


春前さんが俺の肩をポンッと叩く。

憐れむような後輩の目を見ていると、本当に悲しくなってくる。


「照彦、友達だと思っていたのに......」


そうだよな。あいつは誰にでも手を差し伸べるような奴だ。

俺に向けていた笑顔は実は誰にでも向けていたということで......。

つまり、それは俺に友達がいないことを意味することで......。

まあ、そうだよなこんな俺に友達がいるはずなんて。


「冗談ですよ! 先輩と照彦先輩は正真正銘のお友達です。元気出してください」


俺の表情がどんどん暗くなっていくのを感じ取ったのか、後輩はそう言う。


そうか照彦は俺の友達。

俺はぼっちではないのか。


「そうかな......」

「そうですよ!」

「嘘じゃない?」

「はい!」

「そっか、照彦と俺は友達か! そう言ってくれる後輩はいいやつだな〜!」

「それは...どもです」


後輩は頬を少し赤らめる。


女の子が照れたときはどうすればよいのだろうか。

「照れちゃって〜!」とか言って、茶化した方がいいのか?


そう考えているうちに、後輩の表情はいつもどおりの表情に戻っている。


「そーれーよーりーもー! 先輩には同学年のお友達を作ってもらいます。ほら、行きますよ」

「ひ、引っ張るなって」


春前さんは強引だな。

強引なくらいが怠け者の俺には丁度いいのかもしれない。


いつも誤字報告ありがとうございます!

拙い文章ですが、皆さまに楽しんでもらえるような小説を書いていくので、応援していただくととても嬉しいです。

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