先輩は家に帰りたい!
「お願いします」
「はい......」
弱みを握られた今。
俺には拒否権はない。
こうして後輩は俺の監視役に就任した。
「一緒に更生しましょうね?」
「はい......わかりました」
そもそも更生とは何なのか。
学校にきちんと行くことなのか?
テストで赤点を取らないことなのか?
基準があれば、目的ははっきりしている。
でも、「更生しなさい」と言われても漠然としていてわからない。
「具体的にはどうすればいいんだ?」
「そうですねー。まずは自堕落な生活を見直しましょ? 先輩は遅刻、早退、欠席が多すぎです」
「まずは...」
「言っておきますけど、先輩の更生は一筋縄ではいきませんよ。最終的にはゆみ先生に先輩の成長を見てもらうのですから、頑張って下さいね!」
「チッ、偉そうに」
「先輩の監視役ですから偉いに決まってます!」
******
会話の途中で俺は考えた。
今までしてきた自堕落な生活を脱することは無理だろう。
俺はこの生活を変えようとは思わない。
この生活が自分にとって都合がいいんだ。
理由は一つ。
何も考えたくないからだ。
現実逃避ともいう。
俺が自堕落な生活になったきっかけは自分でもわかっている。
去年の春休み、両親と妹が乗った車が交通事故にあった
両親は即死。妹は今も病院のベットで眠ったままだ。
そして俺は一人暮らしをすることになった。
その後は想像がつくだろう。
俺は生きる価値を見出せなくなった。
自分で命を絶つことも考えたが、病院で眠っている妹のことを考えると、そうはできなかった。
俺はあの交通事故からずっと生きた心地がしない。
いつまでも思い悩むのもいけないと考え、何度も何度も立ち直ろうと考えた。
自分を取り繕い、笑顔で冗談を言う。
親戚の人や照彦、そしてゆみ先生も笑っている俺を見て、少しは安堵したと思う。
でも、自分自身は騙せないのだ。
両親を失った悲しみ、妹を救えなかった後悔。そんな感情が俺を襲ってくる。
俺には何も責任はないはずなのに、何かできたのではないかと考えてしまう。
もう、考えるのは辛いと思った。
だから俺は何も考えないことにした。
自堕落な生活? それでいいと思う。
結局、そうする方が自分自身が楽なのだ。
人生を悲観も楽観もしない。
なるようになればいい。
頑張らないことが今の俺の信念だ。
******
「せんぱーい? どうされたのですか?」
いつの間に俺の目の前には後輩の可愛いお顔があった。
「いや、後輩に世話されるのもアリかなって」
「先輩はバカなのですか! そんな破廉恥な」
「どこに破廉恥な要素が!?」
「私は先輩の、か・ん・し役なのです。先輩のお世話なんて絶対絶対絶対しません」
後輩は頬を膨らませながら、そう主張する。
冗談に過剰に反応する春前さん。
いじりがいがある後輩かもしれない。
「もしかして俺の彼女になったりしてな」
「そ、そんなことは...ないですよ」
ん? もっと全力で否定してくると思ったのだが。
まあいい、そろそろ戻る時間だしな。
「後輩、授業もう始まってるんじゃないか?急いで戻らないと」
「ほ、本当です! ご忠告ありがとうございます。それでは先輩、失礼します!」
「おう、じゃあな」
春前さんは回れ右をして校舎の方へ走っていく。
素直で可愛いところがあるじゃないか。
「じゃあ、俺も戻るとするか、家に」
俺は直進して、我が家を目指す。
帰ったら適当にゴロゴロするか。
あ、帰る前にコンビニで昼ごはん買わないと。
そして、独り言を呟く。
「明日も早退にしようかな」
俺スケジュールで明日は休みだったのだが、明日も少しだけ学校に顔を出すことにした。