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そして少女になる

「―――-おーい、おーい、シリルちゃーん」



煩い、鼻をつまむな鼻を



「やめなさい、レイ」

「――シリル~シリルちゃーん」

「レイル、だめよ」

「シーリルちゃん、起きてぇ~」



うぅ……だれがシリルちゃんだ、だれが。



「誰が、シリルちゃんだ」



目を開くと、真上にレイルの顔があった。 

周囲を見回したら、父と母が並んで座っているのが見える。



「……なにしてんだよ、レイ」



どうやらレイルに膝枕されている状態らしい。

ニヤニヤと見下ろしてくる顔面を殴るようなまねをしてから、レイルの太ももの上から起き上がると、視界の横に紅茶色のクセ毛がふわりと落ちてきた。



「おはよう、シリルちゃん」

「―――-………はぁ。」



そういうことか。と、髪に触れてから父へ向き直る。



「父上……」

「……ああ。」



見面のしわを深めたまま、父がじっとこちらを見てくる。

今は何も喋らないミツコの影響を受けているのかと思うと若干腹立たしい。

おい、さっきまで興奮してたのにミツコどこいった…。

舌打ちしたくなるのをこらえて、斜め下に目線を動かしたところでレイルに小突かれた。あれ、舌打ちしてた?



「いやぁ…。フローラには聞いていたけど、凄いな」

「そうでしょう、可愛いでしょう」



きょとんとして父に目を向けると、父も驚いたような顔でこっちを見てきた。



「いや、いやいやいや、いやー、おい」

「はい」

「可愛いな。」

「……父上?」

「ぶはっ!」

「フローラの若い頃そっくりじゃないか。おい、シリル」

「…はい?」

「さっきどうやって娘になったんだ?」

「ぶふっ!!むっす め ぶふっ、ふふ、ふ……っぐふ!」



父の発言に一々爆笑するレイルの鳩尾に肘を入れる。

人の不幸を喜んでニヤニヤしているやつは苦しめばいい。



「…わかりません」

「なんだ、わからんのか…」

「そりゃそうですよ、先日ちょっと【ギフト】が出ただけで、その後はすぐに男の子に戻ってしまいましたから」



母は何処か残念そうな顔を父に向けたが、父は眉間にしわを寄せたままじっとこちらを見つめている。



「さきほどフローラから【ギフト】に関しては聞いていたが、半信半疑でな。立場上、自分の目で見ていないものは疑ってしまうが、いや、呼び出した瞬間にそれを見せられるとは思わなかった。お前が倒れていたのは20分ぐらいだったが、倒れる瞬間は何かあったのか?」



会話が成立すると判断した父が矢継ぎ早に質問してくる。

倒れる瞬間…ありましたとも、ミツコによる絶叫が耳をつんざきましたよ!



「いえ………、急に眩暈がしたかと思ったら、こんな状態で。自分でも何がなんだか…」

「何かが見えたとか聞こえたとかは無いか?」

「いえ…」

「私の魔力に当てられたとかは?」

「いえ…たぶん、そういうのも無いかと」

「思い当たることは?」

「……ない、です…ね」

「そうか……わかった。とりあえず、条件を見つけるのが先のようだな」

「条件?」

「ああ、丁度いいからレイルにも話しておこう。【ギフト】の基本的な扱いに関してだ」



何かを伺うようにこちらの目を見ていた父の視線がやっと逸れた。

目を見て話すのは会話の基本だが、あんなに長時間覗き込むように見られていたのは始めてで、普段はあまり見ることのない父の青い瞳に背中がひんやりとした。



「二人とも、基本的な【ギフト】に関しては知っているな?」

「もちろんです、先日も神殿で能力について調べてきましたし」

「うむ、まぁ、【ギフト】は魔力の強い者なら当たり前にもっているものだが、その内容はあまりにも曖昧だ。ただし、能力の発動条件というのは2種類しかない」

「発動条件ってなんです?シリルのように女になる理由ってこと?」

「まぁ、そんなもんだと思ってくれていい。簡単に言えば、使える能力が自己発動型なのか、潜在能力的なものなのかといった感じだ」

「潜在能力?」

「【ギフト】持ちの中では、アクティブスキル・パッシブスキルと言う。自分で意識して発動させるのが「アクティブ」、オートで発動したり、常時発動状態なものが「パッシブ」。今のところ、意識して使えていないシリルの能力などは「パッシブ」スキルになってしまうのかな」



二人でふむふむと頷く。

神殿での資料を見ても気づいていたことだが、改めて「アクティブ」「パッシブ」と分けるととても分かりやすい。

乙女ゲーの設定には無かったけど、ここら辺は思いっきりゲームっぽい。



「ちなみに、フローラの能力はアクティブになる。母さまが咲かせる花は綺麗だろう?」



母上の【ギフト】は、名前にピッタリの能力だ。

花の好きな彼女は、蕾のついた花を好きなように咲かせることができる。

いいや、もしかしたら蕾がなくても自由に咲かせられるのかもしれない。

幼い頃のピクニックで辺り一面をピンク色の絨毯のように変えた母は、まるで花の妖精なのかと思うほど綺麗で、レイルと二人でふわりとゆれたスカートに力いっぱいしがみついたのを覚えている。



「だが、シリルの場合【ギフト】が「パッシブ」だととても困るわけだ」

「だろうねぇ、社交界デビューして急に女になっちゃったら大変だもんなぁ」

「そうだ、だが、このパッシブの中には鍛えれば自分で自在に発動できるものもある。今回のシリルのような変身タイプが特にそうだな。変身内容によっちゃあ命に関わるものもあるんだ、神殿や城で管理できるものは安定するまで保護するケースもある。――このケースの場合、変身するタイミングやきっかけさえ分かれば自分でコントロールできるものが多い。私の知っている人間の場合、念じる―ああ…変身したいと思うだけで変化できる。」

「へぇ、誰ですか?」

「それは言えん。私の立場もあるからね」



城で管理している能力…それは、軍事的にという意味も含まれている。

父は宰相だ。城にまつわる全てにおいて【ギフト】を上手く使いこなしているのだと暗に言われて、家庭では見えない一面が垣間見えた。



「今のシリルはフローラにそっくりだからな。元々似ているが……この状態で社交界に出るのは色々と問題が起こりそうだ」

「父上と王のようにってことですか?」

「おい、レイ」

「それと、これは私とフローラで決めることになるが、お前の教育を増やすことになるやもしれん」

「「というと?」」



レイルの言葉をスルーした父は、にこりと笑って答えた。



「レディとして外に出たときに困るだろう?」

「ぶっ…!れ、レディ!!そうかシリル、淑女としての教育だ!あはははは、たしかにコレは必須科目だ!話し方にエスコート、女性側のダンスも覚えなきゃ!あっははははははははははは!安心しろよ、ダンスの練習相手には俺がいるんだ、ばっちり覚えようぜ!」

「本気ですか?」

「ああ。知っておいて損はないんだ。外からの教師は入れられないが、会話とダンスだけならフローラで十分だろう。レイルも一緒にレッスンに入ればいいだろう」

「わかりました。がんばろうな!シリルちゃん!――――っぐふぁ」



鳩尾に入れようとした拳は、レイルの腹のド真ん中に入ってしまった。

一瞬でうずくまってしまったが、食事前だから大丈夫だろう。



「正式な社交の場までは3年ある。立ち居振る舞いの使い分けは面倒かもしれないが、しっかりと身に付けなさい」

「―――使い、分け……。―――っ。男と女両方覚えるってことですかぁ?」

「そうなるな」

「女の仕草なんて要らないじゃないですか!」

「まあ、できないことじゃないだろう。がんばりなさい」



にこにこしながら答えてくる父だが、何故か目が笑ってない。

なんなの?何かたくらんでんの?それとも楽しんでるの?!

隣にすわっている母もなんだか楽しそうで、不安しか感じない。

我が家族というのは、こんなにも人の不幸を笑うような人たちだったっけ…。



「ふひひ、レディ教育、ひひっ――うぐぇ!」



うずくまったまま再び笑い出したレイルを思い切り踏みつけたら、少しだけすっきりした。



「とりあえず、シリルは発動条件を見つけて「アクティブ」に使えるようにする必要がある――【ギフト】関連のことは城でも情報を扱っている場所があるから調べておこう。お前たちも何かきっかけがあったら報告しなさい」

「はい、なにが原因で女になるのか、どうやって戻るのかですね」

「そういうことだ。」



発動条件に関しては、間違いなく「ミツコ」だ。

ミツコの感情が高ぶったことで今回の変身が起こったのは間違いないだろう。


使用人たちには【ギフト】のことを伝えるから皆で食事をと言われたが、まだ人前に出るのは恥ずかしかったし、ミツコとも話がしたかったので自室に戻ることにした。



「ああ、シリル」



「はい」


「私は娘も欲しかったんだ。娘になりたいと思うなら遠慮なく言いなさい」

「――― はい?」



退室しがけに呼び止めてきた父の発言は、僕の思考を停止させ、レイルを再び爆笑させた。

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