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ミツコ

結果としては散々なものだった。



二人で該当カテゴリーの棚を調べ、眠そうにしていた神官に質問して他の場所も調べては見たものの、性別変換といった【ギフト】の情報は見つからなかった。



動物に変身するというケースや、自分以外の何かを別のものに変身させる能力といったものはそれなりにあったが、無意識下で変身するようものは少ないらしく、あまり参考にはならなかった。

ただ、資料の中には「訓練」「鍛錬」といった記述が多かったので、きっかけさえ見つければ自分でコントロールできるようになるらしい。


そもそも【ギフト】は、龍族としての血の目覚めとか言われているけど、結局は魔力が作用している能力なので個人的に所持できる魔法の1つなのである。

早くに能力が発現するケースでは、趣味や家系における利益を考えた場合など、その人の希望が強く反映されるため、無意識で魔力を自分に適したものに変化させた結果の力だと思う。

だからこそ、冒険や商売に必死になる必要の無い貴族の子の場合は、当たり障りの無い能力しか持ち合わせないのだろう。


もちろん特殊な能力も多く、水を毒にしてしまうものや、魔眼と呼ばれるもの、見ただけで病気の有無が分かるものなど、言い出したらきりが無い。

悪事に使われると厄介な能力の場合、神殿、もしくは国の監視下に置かれるケースもある。


だが、この【ギフト】という能力は八割方魔力の高い貴族にしか出ないので、国を揺るがすほどの大事に至ることはほとんどない。

残りの2割は大丈夫なのか?と思うだろうが、そこはギルドと呼ばれる場所に所属する冒険者たちが、その一端を担っているので、それなりに管理されている。

もちろん、シリルの知識で知っているのはこの程度なので、見えていない部分で大きな問題があるのかもしれないが、前世のようにテレビだの何だのが存在しないので、情報規制で管理されている部分もあるのだろう。



「結局 無駄足か」

「ごめんな、一日付き合わせて」

「いいよ、面白いことが半端なのが悔しいけど」

「人で遊ぶなよ。……………僕は、このままもう変身しないで、ギフト無しでもいいと思うしね」

「え~なんだよそれ、勿体ない。」



レイルは大きく伸びをすると、で?と目で訴えてきた。

どーするのと言われても、こっちこそどうしよう、という状況なのだからため息を付くしかない。



「もう一度女になった時に考えるよ」

「……ん~」

「なんだよ、だめなの?」

「んんん、兄としては、妙なタイミングで女になってからじゃ遅いと思うけど、今のところそれしかないのか…?」

「だろ?」

「まぁ、なあ…」



真面目なレイルは思うところがあるようだが、実際今のところは打つ手がない。



「無いなぁ…」

「無いだろー…」



家に戻るころにはすでに日が傾きかけていたので、頭の中のアイツと話したかったがとりあえず先に食事にすることにした。





*****




――――『おつかれさま~』



自室に入ったら直ぐに声が話しかけてきた。

今日は一日ほとんど話しかけられなかったから消えたのかと少々心配になっていたため、少し安心した。



「静かだったね」

――――『まーね。伊達に人生経験積んでませんし。っていうか、なんとなく声が聞こえないようにするコツ覚えてきたし』



喋ってなかったわけではないらしい、なんとも器用なヤツだ。



――――『で、なんて呼ぶことにするの?』

「何が?」

――――『あー酷いなぁ、忘れてるんですかね』

「……えっと、何か言ったっけ?」

――――『なんだよー、昨日ちょっと嬉しかったのに。寝ぼけてたから覚えてないのね~』



拗ねたような話し方をしてはいるが、あまり怒ってはいなさそうだ。



「えっと、ごめん、呼ぶって、なんだっけ?」

――――『あたしのことを何て呼ぶか決めるっていってたよ?』

「ああ、なるほど。何て呼んだらいい?」



確かに、呼び名が無いと面倒だし失礼だ。

自分の中の自分?らしいものに失礼も何も無いような気もするが、コレの記憶がシリルの中に浸透している感じは無いから、どこか別のつながりになっているんだろう。



――――『決めてくれるんじゃないのね』

「決めてもいいけど、生きてた時の名前でいいんじゃない?」

――――『シリルーとかグリフィスとかカッコイイ名前の世界なんだし、ヴァネッサとかどうですかね!』

「イメージじゃないし…」

――――『えーショックぅ』

「ショックじゃないでしょ。で、名前は?」

――――『覚えてないの?』

「うん、アンタの記憶、寝てるときにちょっと見てなんとなく理解してるけど、それだけ」

――――『へー、じゃぁ夢の中で見る感じなのかな』

「たぶん、アンタがいるからじゃない?分かることのほうが少ない気がする。最初は思い出してまとめようとしてたけど、アンタが煩かったので全部忘れた」

――――『なんですと!?』



夢で見た情報とか、コイツに聞いたことをなんとなく頭の中でまとめようとしてたけど、正直連日の混乱と神殿で資料を読み漁ったせいで、12歳の脳のキャパなんてとっくににオーバーしている。



――――『前世の名前、覚えてないんですかね?』



疲労感で黙ってたら、話しかけてきた。



「ごめん」

―――― 『いや、いいよ。美津子っていいます。ミツコ。みっちゃんでもいいよ』



ぼんやりしてたことに謝ったのだが、覚えていないと受け取られたようだ。

細かい感情が分かるってわけじゃないようだ…なんとも厄介な同居人だ。



「ミツコ?」

――――『うん、ミツコ』

「じゃ、ミツコって呼ぶ。ちょっと古臭い名前だね」

――――『うっさいよ。あたしらの時代は「子」ネームが多かったから普通です~』



おばちゃんのクセに喋り方がガキ臭くてどうにも違和感がある。母上よりも年上だろうに、何故こうも違うのか…。



「ミツコは、今日行った神殿のこととか見えてたの?」

――――『見えてたよーていうかあのエンブレムと、最初の部屋だけゲームの中で見たことあった。実際に見ると凄いきれいだったねー。ちょっとはしゃいじゃったけど煩くなかった?』

「全然。平気だった。で、どう思う?」

――――『何が?……ああ、【ギフト】のこと?』

「うん、ああいう情報を見てミツコはなんか分からないの?」



暫く考えていたようだが、やや間を空けて返事が返ってきた。



――――『ごめんね。今のシリルの状況とか【ギフト】に関しては分からない。ゲームの中の【ギフト】はあくまでも単なるミニゲーム用のスキルとか、ストーリー的なものだったから、現実のものになると凄い厄介な感じで、正直、何にも力になれる気がしない』



ですよね。自分でもゲーム世界が現実なんてややこしすぎて面倒ですし。



――――『あと、【ギフト】の情報も見てたけど、ゲーム設定に良くコレだけの資料が付加されたなって思ったけど、資料を見た事であたしができることは無さそう。正直、あたしって言う存在がいるから、今シリルがおかしくなってるんじゃないかって思ってる。消えれば治るのか分からないけど、あたしの意思で消えたりすることはできなさそう』



「…うん。そっか」



やはり、【ギフト】に関してはこの世界で独立しているみたいだから自分で調べるしかなさそうだ。



「なーんか、一気に色々あって焦ったけど、今までと何にも変わってないのかな」

――――『今までって?』

「今まで生きてきた12年間ってことかな。前世の記憶とか【ギフト】に目覚めて調べにいったりしたけど、結局調べてみて何ができるかっていうと、何にも変わらないし。能力の使い方が分かったほうがいいけど、とりあえず今日1日何もなかったしさ……なーんか、普通にしてればいいのかなー」

――――『……。』



ミツコと話してたら、1日で何かを見つけよう、何かしようって焦っていた気持ちが落ち着いてきた。

ベッドに潜りこむと、さらっとしたリネンから外の匂いがして、ほっとした気持ちになった。



――――『もういいの?』

「うん。結局何も分からないしね」

――――『あたしにできることありそう?』

「逆に聞くけど、ミツコは何ができるのさ?」

――――『そうだなー、牛丼のレシピとか?』

「なにそれ」

――――『牛丼は牛丼でしょ。お店の味と変わらず美味しいのが作れる自慢料理ですよ』



なんだそりゃ、牛丼?前世で食べてたんだっけか?覚えてない。



「全然わかんないよ、でも、レシピを聞いておくのはいいかも」

――――『でしょ。シリルの身体が動かせるなら今すぐにでもメモっておくのに』



お互いにくすくすと笑いながら、本題から逸れまくった会話が続く。

小さいころはレイルと一緒のベッドで寝てたから、こうやって眠る前に誰かと喋るのは楽しい。

ミツコが前世の自分とかいう感覚が薄いからか、姉?母?なんかしっくりこないけど、自分というよりも友達といった感じ。


レイルも入れて3人で話したいねと二人で盛り上がったが、頭の中のミツコの声はレイルには聞こえないじゃないかとオチが付いた辺りで話を切り上げることにした。

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