乙女ゲーム
僕の住んでいるこの世界は、前世で女であった僕がプレイしていた乙女ゲームの世界だ。
そのゲーム『 白き龍の乙女 』は、前世の自分が少女時代にプレイしていた人気作品であり、男性向けモテゲームの女性バージョンとして、多くの女子の心を掴みに掴みまくった。
初代、2、初代スペシャル、3、番外編までは同一ヒロインで、その後は新たなヒロインを迎えて『 白き龍の乙女 』をサブタイトルにして多くのシリーズを排出。
前世を思い出すきっかけとなった夢の中では、25年の時を経てリメイクされた初代を再びプレイしていた。
というのが、先ほどからひたすら一人で喋り続ける頭の声の説明だ。
ゲームの目的は、知り合ったイケメンたちと恋人になって、最終的に婚約者になれればハッピーエンド。
美しきウェディングシーンのスチルのためにせっせとイベントを起こすらしい。
イベントって何だ?
ゲームクリアまでの期間は、入学してから始まる学園生活の1年。
短くない?とたずねたところ、フレンドEND後のストーリーでそのまま2に繋がるようになってるから、そういうもんなんだと言われた。
ライバルキャラは居るものの、ざまぁな展開はなし。
ライバルも本当にライバルであって悪役令嬢ではないと説明されたが、そこら辺はさっぱり分からない。
ざまぁって何だ?
「結婚した後はー?」
――――『結婚がハッピーエンドだから、その後は書かれてないよ。ラブラブエンドってやつだね、キャラクターによってストーリーが変わるとは思うけど、まぁゲームなんで』
「ふぅん。じゃぁ、2ってなんなの」
――――『そこはご都合主義ってやつでして、1のノーマルエンド後のお話って感じ』
「ノーマルエンドってなにさ」
――――『えっと、普通はヒロインが誰かに告白されるように動くんだけど、ヒロインが誰ともくっつかなくいで勉強をがんばってたらライバル嬢と一緒に生徒会に入ってみんな仲良く終わるのね。それがノーマルエンド。で、そのままゲームは2に続いて、生徒会として1と似たようなかんじでゲームが続くわけ』
「――同じことの繰り返しじゃないの…それ。面白いの・・・?」
――――『あー…ははは、まぁ、そこは好きならついやっちゃうっていうか、キャラ愛っていうか。2だと追加キャラが増えるので新たなお楽しみもあるっていうか』
「ふーん…」
ゲームの話は、とにかくヒロインが誰かと恋愛するっていうだけらしい。
あまりの内容の無さに、僕と言う存在が登場する必要も無いような気がする。
「ねえ、それって…僕――、結局ヒロインって最後どうなるのさ」
――――『えーっとねぇ…、最後?っていうと――…異世界の女王様になる?だったかな』
「ちょっと待て、恋愛どこいった」
――――『いや、恋愛はあるよ。同じヒロインのシリーズの最後ってことだから』
「そもそもなんで異世界?学園ものじゃないの?」
――――『そこもほら、ご都合主義ってやつですよ』
「ご都合主義にもほどがあるだろ」
――――『2で学園編が終わっちゃうもので、3でヒロインちゃんの【ギフト】の力を使って異世界を救いにいくんだよね…それで――』
「そこでも【ギフト】か…―――」
声曰く、シリーズを通じて登場するキーワードは【龍】と【ギフト】
【龍】は、ヒロインの力を使って戦ったり、封印したりするストーリーの試練的な存在で、この国のシンボルでもある。
そして、攻略キャラの個別ストーリーに大きく関わるのが【ギフト】という主要キャラクターたちの持つ特殊能力。
いわゆる、ヒーローのチート能力みたいなもんだから、僕以外の攻略キャラたちはそりゃあもう立派なチート級能力をお持ちだそうだ。
何故僕だけ立派じゃないのかと尋ねたら、兄弟コンプレックスな薄幸キャラは基本だと言われた。
なんだか腑に落ちない。
そんなこんなで、【ギフト】は、ゲーム内のミニゲームに役立ったり、キャラクターの背景に大きな影を落としたりと、ご都合主義万歳な便利な要素としてシリーズ全部で登場する。
というのだから、僕の生きてきたこの世界に【ギフト】が存在するのは当然のことなのだろう。
ちなみに、ゲームではないこの世界における【ギフト】は、魔力の高い者が稀に開花できる能力だ。
すなわち、魔力の高い貴族が【ギフト持ち】となるケースが多く、家や国の発展に使うべき力とされている。
ただし、能力は個人の希望の関わらず付与されるため、本人の性質と【ギフト】がマッチするケースもあれば、まったく必要の無いもの、場合によってはいらない能力を授かることもある。
自分が置かれている現状がまさにそれだ。
【ギフト】は11歳から14歳、つまり思春期ごろに自然に開花するとされているが、表面化しない場合は15歳になる前に神殿で調べて貰うこともできる。
神殿の検査で【ギフト持ち】の結果が出れば、そこから開花するかもしれないし、既に使えていたことに気づけたりもする。
そもそも【ギフト】自体、魔力の高い上位貴族がたまに授かれる程度の能力なので、魔力の量や血筋によっては得られないことも多い。
とまあ、大雑把に前世の声に説明を受けたことで、自分の【ギフト】がイレギュラーだったことだけは理解した。
乙女ゲームは良く分からないが、僕の人生に暗雲がかかると言うわけではないようなので、深く考えなくても問題はなさそうだ。
――――『それでいいの?』
「うん、とりあえずヒロインって子はさ、僕がどう生きようがあんまり関係ないわけでしょ?僕が主人公でもなさそうだし」
――――『そうだね、ヒロインならイケメンうはうはーで楽しそうだったけど』
「女の体からは元に戻りたいけど、あんたはどうにも出来ないんでしょ?あとは、煩い声をどうしたらいいかが分かれば問題なさそうだし――」
――――『え、ちょっと、ひどっ』
グゥウゥウゥウウ~…
――――『あはは、すごい音』
前世の声からそこそこの情報を聞き出したあたりで、体が空腹の限界を訴えてきた。
3日間も眠ってたのだから、お腹がすくのは当たり前だ。
「だめだ、なんか食べよう」
とりあえず食事をすることに決め、母に連絡を取るべくベッドサイドのコールストーンを手に取る。
――――『それ何ー?』
間延びした質問に、魔力をこめると特定の人間を呼び出せる魔道具だと説明し、手にした石にに魔力を流した。