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頭の中の声

【ギフト】というのは、魔力や魔法といった力を中心に発展しているシルバーバーグ王国にて、一部の人間が手にすることのできる特殊能力だ。

そもそも、シルバーバーグ王国は龍の庇護の国といわれ、国民は皆、龍族の血を引くと言われている。

中でも魔力が高いとされる貴族の場合、【ギフト】を受け取るものが多い。


魔法とは、魔力について学べば誰でも学ぶことができる反面、【ギフト】は開花したものしか使えない。

そのため、【ギフト持ち】と言うだけで、開花させた人物の評価は大きく上がり、城や騎士として上位の立場を得ることもできる。


その【ギフト】が使えるようになった…と母は言った。




「シリル…あなたに【ギフト】が開花したの…」



「……え?」



喜びに胸が熱くなった。


自然に【ギフト】が開花する場合、自分に適した能力を身につけられることが多い。

適齢期になってから神殿で【ギフト】の有無を調べるよりも、自然に期待できる力を得るといわれている。

だからこそ、僕は期待に満ちた目で母を見つめた。


しかし、そこにあったのは、普段から笑顔を絶やさない母の切なそうな顔だった。

目が合うと、その細い腕を僕に回した。



「っは!?母上?」



ぎゅうと抱きしめられた腕の力は思いのほか強い。



「………っ。落ち着いて、聞いて欲しいの」



ごくりと、乾いた喉が鳴った。

【ギフト】は生い立ちやその人物の性格が反映されることも多く、望むような力が手に入らないこともある。

役に立たない能力もあるが、ある程度のカテゴリーに分類されて能力ごとに名前が付いているから、能力に傾向が在ることは明確だ。


しかし、中には例外もあり、一般的に得られる能力とは違ったモノを得ることもある。

それは時に、魔眼と呼ばれたり、人外と呼ばれたりするような能力に発展することもある。



母がこんな顔をみせるなんて自分の能力は、そんなに悪いものなのだろうか……そう考えると体が強張る。命に関わるものなのか、人に害を与えるようなものなのか…


ゆっくりと母の体が離れ、目と目があった。



「あなた…は、今…女の子なの」


「――――― …は?」



一瞬、何を言われたのか分からなかった。



「あなたは、今、女の子なの。」



理解できていないのを分かっているというように、優しい声は2度、同じことを言った。



「……………は?」

「……あなたは、【ギフト】で、女の子になってるの。」




ゆっくりと言い直した。3回言った。




「……は…へ?!」




変な声が出た。今度は何も言わずに見つめられている。


言われた言葉の意味を受け止められないまま、自分の手のひらを見つめると後ろからふわりと長い髪が頬にかかった。

茶色い髪は胸のあたりまで垂れ下がり、ふわふわと広がるようにゆれている。

だが、僕の髪は耳にかかる程度の長さのはずだ…疑念と不安の入り交じる思いで、視界で揺れる髪をひっぱった。

―――痛い。

頭皮がピンと引っ張られ、痛みを感じる。

そのまま自分の手を見つめてみる。

12歳、成長期の男子の手は、まだ華奢ではっきりとした性別の違いを感じさせない。

顔や首をペタペタと触り、胸に手をやると、ありえない膨らみと柔らかさを感じて―― ひゅっと息を飲み込んだ。



横を向くと、じっと見つめる母と目が合った。

血の気が引くような感覚。きっと青を通り超えて白くなっているであろう顔を心配そうな目が見つめている。


恐る恐る股間に手を伸ばすと、あるはずの自分がソコには居なかった…




「―――っ!」



頭が真っ白になった。

ズキズキと痛んでいた頭は更に横から棍棒でなぐられてぐわんぐわんとゆれているようだ。



「……ッ…ッ……っは…」

「シリル…」




上手く呼吸ができない…。

胸に手を当て、股間にも手を当て、目も口も開け放ったまま動けない。


暫くの間固まり、バックンバックンと煩く鳴り響く心臓の音が少しだけ収まってきたら、やっと重たい腕を動かせるようになった。



「母上……っ……し…しばらく、一人にして、ください…」



手で顔を覆いながら声を絞り出す。



「傍に……、いえ…わかったわ。―――― このことは今のところミルファと私だけが把握しています。3日間食事もしていないから、何か食べられそうなら声をかけて頂戴。人払いはしてあるから…。」



母は、そう言い残すと静かに部屋を出ていった。



ありえない現実。

目が覚めたら女になっているなんて、一体どんな悪夢だ。

受け入れたくない現実に目を向けられず、ベッドの上で呆然とする。



――――『あれ~?シリルの【ギフト】ってそんなのだっけ、全然違った気がするけど………』 


「……え?………なに?」



すると、頭の中から緊張感の無い女の声が聞こえた。

ショックによる幻聴か?頭を打ったか…【ギフト】の一部なのか…?


ぐるぐると混乱していた頭は、たいした答えをはじき出さない。


――――『お花能力だった気がするんだけどなぁ…』


もう一度響いた声を聞いて、はっとそれが夢の中で見た前世の声だと気づいた。


と、同時に思い出した。

そうだ、【シリル・マクドール】は、夢の中でプレイしていたゲーム『白き龍の乙女』の登場キャラクターだと。


夢の中で女性の背後から眺めていたゲーム。

繰り返す同じような会話の中で、女が返事を選択すると、やたら美しく描かれた(かんばせ)で画面の中から甘ったるい言葉を投げていた。


それが、僕自身。

だが、夢の中の僕はハッキリと感じていた。

ゲームをやっている女(こいつ)が、昔の自分自身だと。



「んぁああああ!!!!」


――――『ぅぉぉお?!少年シリルたんが壊れた!?』



目が覚めてからの驚きの連続に耐えられなくなった僕は、妙な声を聞きながら大の字でベッドにひっくり返った―――。




***




とりあえず、情報を整理しようと思う。

当たり前に生きてきたシリルの記憶と、夢の中でみた断片的な過去の記憶とでなんだかごちゃごちゃしている。

そしてさっきから〈妙な声〉が聞こえる…。

僕の頭がおかしくなったのでなければ、もう一人(前世)の自分の声が聞こえるなんて、かなりの問題だ。

ありえない、ありえないことは夢だと思いたいのに、生憎僕はさっき目覚めたばかりだ。

ここはやはり、一度頭の中を整理する必要があるのだ。



僕は、伯爵家であるマクドール家の3男だ。

5つ年上の兄の帰宅にはしゃいで、双子の兄であるレイルと乗馬をしていたところまでは間違いない。


しかし、夢の中で見た自分は、ゲームの中の登場人物の1人だった。

タイトルは『白き龍の乙女』。

ゲームの中の自分は今よりも幾分歳をとっていたようだが、母譲りの茶色いクセ毛は今の自分と一緒だった。



「ゲームの世界が、今暮らしてる世界―――?」


―――――『ちょっと前に流行った異世界転生ってやつかぁ、悩んでるシリルたんはいいねぇ、薄幸の美少年!しかし、あたしがシリルたんになってしまうとはねぇ』



ゲームの中の僕は、いったい何をしていたっけ?

学園に通ってたってことは16歳ぐらいだろうか。

ゲームの中には双子の兄と、幼馴染の王子たちもいた。

普通に学生生活を送っていたようだったが、ストーリー的には一人の女の子を中心に動いていた気がする。



「ゲーム、ゲームか。―― そういえば、レイの髪型がおかしなことになってたな…」


――――『レイたんのチャラい髪型ですな。くそ真面目なのにチャラいレイたんは、なかなかの人気キャラでしたよ、むふふ、軽く一週目の二股モードはぎりぎりまでレイ様を選んでましたし』



双子の兄であるレイルもまた、ゲームの登場人物の1人だった。

二卵性双生児であるレイルは自分と違って父にそっくりに成長しており、ブルーグレーの髪の毛を右側だけ長くし、後ろ髪は結んでるのか束ねているのか、やたらとにツンツンと立っている妙な髪型をしていた。



「父上にそっくりな顔でアノ髪型って、どうしたらそうなるんだよ」


――――『子供時代のレイルはアノ髪形ではないですと?!会いたい!早く見てみた過ぎるぅううう。リメイク版だと、イラストの感じが変わって大人っぽくなっちゃってたし、リアルを子供時代から見られるなんて、なんてヤバたんな展開かしら!』


「…いや、もぅ!一々煩いから!!!!!」


――――『っ!?』



独り言の合間に響く頭の中の声に我慢ができなくて、思わず叫んでしまった。

幻聴かと思ってたが、こんなに煩い声が幻聴なわけが無い。



――――『……………ほ?』

「いや、ほ?じゃなくて、煩いから!」

――――『……もしかして、聞こえていらっしゃる?』

「聞こえてる、最初はなんか声が遠かったけど、今は煩い!何なの? ねぇ」

――――『うっわ、なにそれ、あたし、シリルたんになったんじゃないの?』

「つか、会話できんのかよ!」

――――『できてますね―――…。』



だんだんと鮮明になってきた煩い声にガバっと起き上がって叫んだら、相手も返事をしてきた。

いったいなんなんだこれは!



「………はぁ。なんなのこれ」

――――『あー……ははは、なんかすみません。なんですかね、二重人格ってかんじですかね。』

「とにかくさぁ、こっちは今女になってるだけで大変なのに、前世とかゲームとか思い出してごちゃごちゃしてるんだから、ちょっと黙っててくれない?」

―――― 『あ、ソウデスヨネー。まさか聞こえてたなんて、ほほほ、お邪魔しました~黙っておきますね~』



声は本当に黙ってくれたようで、とりあえず静かになった。

ガシガシと頭をかくいたら、コブのような場所に触れてちょっと痛い。


煩い声に意識を取られて忘れかけてたけど、今、女なんだったっけ…。

こっちもどうすればいいのやら、どうやったら戻れるのかを考えなければならない。



「女に、前世に、キャラクター……」



ぐーぱーと手を動かす。



「キャラクターって…、僕は、普通の人間なんだけどな」



僕にとっての今は、全て現実でありリアルだ。

ゲームの世界ということを知っても、だからなんだという気にしかならない。


だが、【ギフト】に関しては別だ。

女になっている現実と戻り方を見つけることは、今後の人生にとって大切なことになる。

女、女…戻らなかったらどうなる。女として生きるのか?

風呂は?トイレは?服は?些細なことのようだがけっこうな問題だ。

如何に前世が女だったからといって、その記憶は夢で見ただけであって自分が女であったという気持ちなんて微塵もない。



「………なぁ」

――――『……。』


「おーい、もしもし、脳内さーん、喋っていいから返事してー」



この声が【ギフト】の一部であるのなら、もしかしたら(コイツ)が何らかの答えを知っているかもしれない。



――――『あ、はいはい?』

「あのさ、考えてることって伝わってるって思っていいの?」

――――『ええと、なんとなく感覚で伝わって、ますね。今はこんな感じのこと考えてるかなって感じで』

「へぇ。で、僕の前世さんってことでいいんだよね」

――――『たぶん、そうですね~』

「僕の殻だって、お前のせい?」

――――『いえいえいえいえいえ、それは違います!今あたしが喋ったり意識があるのだってなんだか分からない状態なのに!」

「じゃあ、なに、男に戻れる方法とか分からないわけ?」

――――『…すみません。そこはさっぱり』



どうやらこの状態(女になっているの)は、前世さんの声は関係ないらしい。

さて、どうしたものか…。



「じゃあさ、この世界のこと詳しいわけだよね」



とりあえず、1つ1つ聞いてみるしか無さそうだ。



――――『ゲームのことだけなら、とりあえずは?といっても初期の方の作品しかやってないんだけど』

「初期とかってなに?良く分からないんだけど」

――――『シリルたんはゲームに関してどこまで分かってるの?』

「その呼び方止めて、なんかヤダ。あとゲームは、あんたがやってたのを後ろからみてただけ、良く分かってない」

――――『なるほどねー、転生してるけど記憶が1つになってるわけじゃないんだ。じゃぁ、簡単に説明しましょうか』



妙な声の存在ははっきりいって気持ち悪い。

だが今は――女になっているという現実を受け入れるのなら―――この声の存在を受け入れなければ何も進歩しないような気がする。


元来僕はあんまり頭のいい方ではない。

考えても分からないなら、聞くか動くかするべきだ。

いつもなら、双子の兄が先に口を出してくるところだが、今はどうやら頼れそうもない。


目覚めてから1時間…、今はまだコレが悪い夢だとしか思えないが、、もしこの悪夢が続くのであれば…腹をくくって受け入れるしかないんじゃないかって思うんだ。

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