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予定外の出会い

「リュミエール。いったい何をしている」



バルバロッサの声からは怒気が感じられる。

腕と首を押さえつけていた手を離すと、リュミエールはバルバロッサと向き合った。



「何かございましたか」

「お前――」



しれっと答える声に、バルバロッサの怒りがかっと湧き上がった。真面目で紳士で、まさに王子として育てられたバルバロッサだ。リュミエールの無礼さは彼にとって到底ゆるされるものではない。

リュミエールを険しい目つきで睨みつける。



「女性の首に手をかけておいて、その言い草は何だ!」

「こちらの都合です。あなたに何か言われる必要はございません」

「なんだと―――」

「師弟の問題です。不肖の弟子を叱りつけるのに殿下の許しが必要だとでも?」

「弟子だろうがなんだろうが、あんなことをしておいてお前は何も感じないのか」



そう言うと、バルバロッサはこちらに目を向ける。

目と目が合う。怒っているバルバロッサなんて珍しいものだから瞬きの間ほど見詰め合ってしまった。

バルバロッサの目が少しだけ大きく見開く。

その反応で自分が女であることを思い出し、反射的にリュミエールの影に隠れた。



「あ――、驚かせてすまない。睨みつけるつもりは無かったんだ」

「殿下ともあろうお方が、女性に対しての扱いがいささか成ってないのでは」



口を開いたリュミエールとバルバロッサがにらみ合う。

機嫌が悪いのを差し引いても、自分より遥かに年下のバルバロッサといがみ合うなど、この悪魔はなんと精神年齢の幼い事か。

二人のにらみ合いを一歩引いて眺めていたら、ため息一つついてバルバロッサが身を引いた。

さすが、王子殿下である。



「怖がらせてしまってすまない。リュミエールに手荒なまねをされているように見えたが大丈夫か?」

「手荒なことなどしてませんよ――」

「お前はだまってろ―――弟子、と聞いたが、もしかしていつもローブで歩いているのが―君なのか?」



優しい声のトーンで話しかけてくるバルバロッサは、まさに王子様だ。

さすがに無視し続けるわけにもいかず、一歩顔が見える場所にずれると小さく膝を折って頭を下げた。



「ありがとうございます。先ほどのことなら何でもありません」



素性がばれては困るので、一歩離れたまま挨拶をする。



「そうか。私はこの国の第一王子バルバロッサ・シルバーバーグだ。名前を伺っても?」

「あ、えっと――、ぅわっ」

「シーラです。あまり人慣れしてないので近づかないであげて頂けますか」



どう名乗ろうか口ごもっていると、リュミエールがローブをかぶせてきた。

さすがにこの状況は彼もまずいと感じたのだろうか。



「シーラというのか。シーラ嬢、シーラと呼んでも?」



そういうと、リュミエールの忠告を無視してずいと近寄り、僕の手を取った。

幼馴染とはいえ、バルバロッサの女性に対しての距離の近さに驚きびくりとする。



「え、ええ、―あの。シーラで結構です」



あまり近づかれてはシリルだとバレてしまいそうで冷や冷やする。

取られた手をさっと引き、ローブを着直して顔を隠す。

斜めに視線を泳がせるが、バルバロッサがまっすぐと見つめてきてどうにもばつが悪い。

もしかして、この短時間でばれてしまったのだろうか。



「あ、あの――」

「―――っ!す、すまない」



見られていることに我慢が出来ずに声をだすと、慌てたように口元に手を当ててぱっと視線を逸らしてくれた。

とりあえずは、ばれてはいないようだ。



「リュミエール、いくら師弟とはいえ女性にああいう態度はあってはならんことだ。お前たちの関係に口を出すのはいけないのだろうが、僕の目の届くところでああいうことをするのであればいつでも注意させて貰う」

「――それはそれは。肝に銘じておきましょう」

「で、ローブを見る限り、彼女がお前がたまに連れていると噂の弟子なのか」

「ええ。噂になっていたとは存じませんでしたが」


「賢者の弟子の弟子だから、大魔法使い候補だとか、相当な【ギフト持ち】だとか。わざわざ過去の訓練場を使えるようにしてまで足を運んでいるのだからけっこうな噂だ――」

「そんなに噂になるほどのことです?」

「あまりにも小さくて姿を見せないから、妖精かコボルトだという話だ」

「なるほど―― 妖精ではありませんが・・・珍獣に近いかもしれません」



シーラという存在が崇高なモンスターのような妙な扱いをされていることに驚きを覚える。

どうもこの悪魔といることで悪目立ちしているようなので、今後の行動には注意が必要そうだ。

今も二人からの目線を感じるが、あまり見られても困る。

ローブを着ることが出来たから今すぐにでも家に帰りたいのだが、このまま馬車まで着いて来られると、馬車の家紋や使用人から僕がシリルだとばれてしまうかもしれない。



「リュミエール!(わたくし)、そろそろ門限が!」



こんな所に長居は不要!そう考えた僕は、悪魔の手から鞄をひったくって走り出す。

不敬だろうが知ったことか。



「あ、まってくれ―――」



バルバロッサが声をかけようとしていたが、一時でも早くあそこから離れないと素性がばれるのは時間の問題だ。1日の訓練の疲れはあったが、僕は振り返ることなく馬車に向かって走り去った。



「―――まるでシンデレラだな」

残されたバルバロッサは走り去るシリルを見ながら小さく呟いた。




*****




「ミツコ、――ミツコ」



その日のミツコは就寝前になってもなかなか反応してくれなかった。

朝になって魔力が回復すればいつも通り会話できるのは分かっていたが、昼間は何かと時間の無いことが多い。

それに、西の賢者の話はどうしても今日中に聞きたかった。

魔力不足が原因なのは分かってる。

こうなったらしょうがない、僕はベッドから抜け出るとレイルの部屋に向かった。



「レイ、起きてるか」

「ああ―――ちょっとまって」



ノックすると、すぐにレイルが扉を開けた。



「入ってもいい?」

「別にいいけど、―――そのカッコで?」



僕の姿に目をやると、レイルは少しだけ困ったように眉を下げた。

女の姿ってだけでそんなに問題があるか?女物の寝巻きを着ているわけでもあるまいし。



「別にいいでしょ。僕は僕ですー」



するりと部屋に入り、勝手にソファに腰掛ける。

机の上にペンが出ていたので、レイルはなにやら書き物でもしていたのだろうか。



「で、なによ。こんな時間になにかあった?」

「ちょっとお願いがあってね」



以前から考えていたことだが、急いで頼む必要性が無かったことだ。



「レイはさ、魔力の受け渡しってできる?」

「魔力の受け流し?なんだそりゃ」



訓練中にいつもリュミエールにやられているアレだ。

リュミエールは僕に手を当てるだけで、魔力を流して回復させることができる。

魔力を流すだけなら魔石にいつもやっていることだから、他の人にやって貰うことも可能だろうと前々から考えていたのだ。



「こうやってさ――どこでもいいから掴んで、そっから僕に魔力を流すんだよ」

「――へぇ」



レイルの腕を掴む。



「ちょっとやってみてくれない?」

「流すって、魔石みたいに?」

「多分」

「おう、じゃ、やってみる」



レイルは僕の腕を掴みなおして目を伏せると、真剣な顔をした。

すると、レイが掴んでる腕の辺りから、もぞもぞと何かが動くのを感じた。



「どう、行ってる?」

「なんか、むずむずする」

「ふうん。もっと増やすか?」

「うん。少ないから分からないのかも」



再び目を伏せると、レイルは再び手に意識を集中させた。

だんだんと送られてくる魔力量があがってきたのだろうか、もぞもぞとくすぐったかった腕がちくちくぞわぞわと、腕の中をはいずるような感じに代わっていった。



「っうぇ、あへははははは、まってまって、くすぐったい、待って!気持ち悪い!」



魔力の流れが止まると、くすぐったさも止まった。

腕から肩あたりまでもぞもぞとした余韻が残ってる感じがして、反対の腕で擦ってごまかす。



「おい、大丈夫か?」

「うん、なんか、凄いくすぐったかった」

「何がしたいんだよ」

「―うーん…」



ごしごしと腕を擦ってむず痒さをごまかしながら、さてどうしようとなった。

魔力が流れてくるのは分かったが、どうにも上手くいっていない気がする。

レイルから流れてくる魔力は、リュミエールのようにじんわりと暖かくてほっとする感じとは程遠い。

いまいち魔力が回復しているのかも分からないが、ここでミツコに話しかけるわけにもいかない。



「シリル。なんの実験してるかぐらい言えよ」

「ああ、ごめん」



さっぱり分からないといったレイルに、簡単に目的を伝える。



「魔力が枯渇してるから俺の魔力を流して回復?」

「うん」

「そんなことできるのか?魔力なんて時間さえ経てば勝手に回復するだろ。寝ればすむことだし」

「いつもは、リュミエールが回復してくれるんだよ。じわーって流れてくるかんじで、なんとなく回復されてるってわかるんだけど」

「さっきの反応だと俺のは違ったんだろ? ちょっともう一回やらせてみろよ」

「え、もう一回?」



あのもぞもぞとした感じは、腕の中を毛虫がはいずっているような、なんとも気持ち悪いくすぐったさがある。

少しだけ身体を引くが、いいからいいからと腕を掴まれてしまった。



「シリルは説明が足りないんだよ。流せって言うから流しただけだけど、回復させるってんなら意識すれば変わるかもしれないだろ」



そういうレイルは再び真剣な顔になる。



「そうなのかな」



再び腕に魔力が流れてくるのを感じる。

じんわりとした魔力を期待してみたものの、やっぱり流れてくるものはチクチクむずむず、もぞもぞと僕の腕の中を移動しはじめた。



「いいやあはははははは、止めて、やめてええええ。気持ち悪い気持ち悪い、くすぐったい!」

「――やっぱ駄目か」



ぱっと手を離して、ソファの反対側にひっくり返った。



「ちぇーいけると思ったんだけどなあ」

「駄目だよ。くすぐったい」

「リュミエールさんのことは知らないけど、方法とかコツがあるんだろうな」

「なのかなー。――ごめんな、変なこと頼んで」



どうやら、魔力を流して回復させるっていうのは誰でも簡単に出来るものではないらしい。

部屋にもどってミツコに声をかけたら、かろうじて少しだけ会話が出来たので、レイルの魔力を僕の中に移動するのは成功していたのかもしれない。

しかし、あのむずむずはどうしても我慢できそうにない。


とりあえずミツコと会話ができたので、バルバロッサと出会ってしまったことを伝えたら凄く残念がられた。

バルバロッサの反応が見たかったとか、そんなこと言われてもこっちは逃げるので精一杯だったんだけど…。

西の賢者のところに行きますよっていう話は全部聞いていたようだったから、賢者のことを知っているかたずねたけど。ゲームの中ではどのルートにも賢者という存在が出てくることは無かったというから、やはりこの世界とゲームはまったく違うものだと考えてよさそうだ。


陛下の名前を呼ぶことになったことや、なんだか孫を見る爺さんみたいに僕を見てくることを話したら、

――――『やだーシリルたん、それは違うわ、違うのよ!』

と言うもんだから、じゃあ何なのさ、と尋ねたら、気持ち悪い笑い方で一人でもだえ始めたから答えを期待するのは止めておいた。

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