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黄昏時

3人が3人とも、目と口をポカンと開けている。

大人のこんな姿はめったに見られるものじゃないから、内心少し面白い。

叫びはしないものの、陛下ですら目を見開いている。



「え、【ギフト】の能力を調べたいのなら師匠の元にいくのが早いのですが、シーラは行きたくないのですか?」

「いいえ、行きたいです」

「では、一緒に行きましょう」

「嫌です」

「え…」



沈黙が走る。



「え、行きたいんですよね?」

「行きたいですよ」

「行かないんですか?」

「リュミエールとは行きたくないです」



二人の間に再び沈黙が走ると、陛下が急に笑い出した。



「あっははははは、なるほどな。リュミエール、嫌われているではないか」

「そうですね。私も人選を間違えましたかな」


「え、ちょっと。意味が分からないんですけど…どういうことです?」



珍しくうろたえるリュミエールを見ると、日ごろの溜飲が大いに下る。

ミツコの笑い声も聞こえた気がしたので、クッキーを1つつまんで口に放り込んだ。



「そんなにリュミエールが嫌なのか?」



ぶつぶつと呟くリュミエールを横目に、少しだけ真面目な表情で陛下が尋ねてくる。

咀嚼していたものを飲み込むと、僕はさっきの返事の理由を説明し始めた。


まずは、説明も無く訓練ばかりするリュミエールが嫌なこと。

いつも真っ先に変身させられるし、今回も説明もなしに勝手に賢者の元に行くと話しが進んでいるのに納得がいかないこと。

西の賢者とやらの元に行きたいか?と尋ねられたら行ってみたいけど、リュミエールと二人きりでは抵抗があること。

もし行くにしてもどれぐらいの日数が必要で、どういうルートで行くのかを知りたいということ。

これらのことを僕なりに伝えた。



「筋は通っていそうだが、半分は子供の我侭だな。リュミエールに対しての反発といったところか」

「ぐっ…」



そこまで話すと、父に諭されてしまった。

だが、僕はこの得体の知れない眼鏡の悪魔を全面的に信頼することはできない。



「だが、それを御せないリュミエールの方が問題だろう」

「そうだな。お前、バルにも嫌われているし。壊滅的に子どもに嫌われているな。もう少し人付き合いから学んだほうが良いのではないか?」


「…そうですか?結果を出せば良いかと思っておりましたが」



しれっと紅茶を飲むリュミエールには、何も堪えていないようだ。



「まあ、良いじゃないですか。では、どうするんです?師匠のところには行かずに調べますか?」

「良くは無いんだがなぁ…西の所にいくにはお前が必要になるし」

「どういうことですか?」



西の賢者の場所にいくにはリュミエールが必要。とは、どういうことだろう。

その点について尋ねると、陛下と父が細かく説明してくれた。


現在この王国にいる賢者は3人。

東と西、南にそれぞれ住んでいると言われている。

東と南の賢者が今も健在かは不明。

割と歳若い西の賢者のみが陛下と、ひいてはこの国と現在進行形で交流を持っている。


だが、賢者はその知識を、物を、存在をと求められるが故、みなその姿を隠してしまうのだそうだ。


ただし、元々賢者と交流のあるリュミエールは例外だ。

リュミエールは元々西の賢者に拾われて育てられたため、実家に帰るがごとくその場所に行くことができるそうだ。

西の賢者を師匠と呼び、「帰る」という彼の言動にはそういう理由があるらしい。


そうなると、リュミエールと共に行かぬという選択肢は無くなってくる。

さて、どうするか、ぐぬぬとなった辺りで、父から1つの提案をされた。



「レイルと共に行ったらどうだ?」

「レイルと?」

「ああ、どうだ」

「ええ、それなら――。それなら良いですね、行きたいです」



レイルは口も回れば頭も回る。

リュミエールと一緒に居たとしても、なあなあのまま勝手に話が進むことは決して無いだろう。

魔力切れを起こして思考回路が停止しがちな僕よりも何倍も頼りになる存在だ。

なんて嬉しい話だろう。

レイルも早く【ギフト】に目覚めて、僕と一緒に訓練を受けてくれればいいのに。



父と陛下の口添えにより、訓練も【ギフト】の調査も一気に進展しそうな空気になってきた。

リュミエールは度々口を挟もうとしてきたが、その都度父か陛下に一蹴されていた。


一時のティータイムが終わると、またいつも通りの訓練に戻った。

ただ、無表情で機嫌の悪そうなリュミエールが怖くなかったといえば嘘になるが、終了するころにはまたいつもの笑顔に戻っていた。




*****




「ほら、さっさと行きますよ」



訓練が終わると、ローブを着て庭園をとおり城の正門横の馬車着き場まで戻る。

それがいつもの流れだ。



「え、ちょっと、ローブは?」



だが、今日に限ってあるべき場所にローブが無い。

周囲を見回すと、リュミエールの手に僕の服の入った鞄とローブが抱えられている。



「ローブなんて要らないでしょう。いつもは可愛らしい見た目に少年の格好が悪目立ちをしていましたが、ドレス姿ならそのままで問題ないでしょう」

「え、やだよ」



にっこりと笑顔のリュミエールが答える。

間違いない。これはコイツなりの意趣返しだ…。



「駄目ですよ。レディは1日にしてならずです」



言いながらさっさと訓練場を出て行く。

だがローブは必要だ。

万が一、バルバロッサたちと出会ってしまったら…気まずいことこの上ない。



「おい、リュミエール。待ってよ」

「待ちませんよ」

「レディとか言うけど、お前、僕にレディ教育なんてする気無いだろ」

「ええ、まあ。実のところまったく興味ありません」



小走りで追いかけながら会話が続く。

くそ、コイツ足長いな。



「じゃあ、いいだろ。家でもレッスンがあるんだからほっといてくれよ」

「それは――――…無理ですね」

「なんでよ!」



ぎゃあぎゃあと言いながら眼鏡執事を追いかけていたら、庭園に差し掛っていた。

日が傾きかけた庭園には、人の姿は見当たらない。

だが、馬車着き場に向かう先にはまだまだ人が多い。

ここから先に進むにはどうしてもローブが欲しい。



「ちょっと―――待ってよ!」



リュミエールの前に立ちはだかると、やっと二人の足が止まった。



「はぁ…―――。なんですか?」

「ローブ。返して」

「返してと言われても、あなたのものではありません」

「いいじゃないか。こんなカッコで人前に行きたくないんだよ」

「……。」



黙ったままのリュミエールがこちらを見据える。

いつもだったらにやにやと笑っている顔が、今は無表情で睨みつけてくる。

なんだか少し怖い。



「ローブ。」



無言に耐えかねて、荷物をよこせと手を伸ばす。

彼はまだ無言だ。

暫く微動だにしなかったかと思ったら、大きく近寄ってきて伸ばした腕を掴まれた。



「――っわ、なに」

「あなたねぇ―――」



そう言うとぐいっと引っ張られて、反対の手で喉を掴みあげられる。

うえっと首が絞まり、ふいに声が出せない。



「私が怒っているの、分かってないのですか?」

「――ちょ。怒って―って、苦し――」

「ダブルなのに――私の計画も無視して勝手に話を進めて。何かあるならまず私に聞けばいいじゃないですか、良いですか――」



「おい!何をしている!!」



リュミエールが腕の力を緩めたと思った瞬間、凛とした声が響いた。

声の主を探すと、赤い花が咲き誇るアーチの下から金の髪が近づいてきた。



「バルバロッサ…」



普段は穏やかな青い瞳に怒りを宿らせながら、この国の第一王子は僕たちの目の前に現れた。

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