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訓練のタイムリミット

「シリルは、ここに来るのは不満かい?」



急に困り顔になった陛下は、質問に対して質問で返してきた。

しかし、せっかくの場を設けて貰ったのだ。

こうなったら思っていることは全部言ってしまおう。



「いえ、まあ、不満なことはありますが。魔力が安定したことで変身しても倒れることはなくなりましたし、とても力になっていると思います。ですが、この訓練ばかりですと元に戻る方法が探せないと言いますか…」

「なるほど…」



正直、なんで女生としてのレッスンまで増やされているのか分からないと言いますか…

そこまで言っていいのか悩んで、ちらりと陛下に目をやるとものしょんぼりとした顔をしている。

なんで、なんでそんな顔されるわけ???



「訓練内容が不満ですか?シーラ。では、そろそろ中級魔法も覚えましょうか。4元素の中級魔法を全て使い分けるとなるとかなり魔力消費が増えますが、慣れればかなり上位の訓練になりますよ。なにより、今やっている訓練も実は学園の初期でやる授業よりも内容は上をいくものになっていてですね――」



リュミエールが空気を読まずにベラベラと喋り出す。

こと魔法や魔術、【ギフト】に関することになると、リュミエールは饒舌だ。

訓練中はぼけーっと見ているだけなのに、魔法を教えるときや僕の能力に関してはよく喋る…

要するに魔術ヲタクなのだ。



「リュミエール、君は後にしなさい」

「でも、シーラには説明が必要でしょう」

「まずは、そのシリルの話を先に聞きたいんだがいいかな」



二人係で詰められると、さすがのリュミエールも黙らざるをえないようだ。



「で、不満というのは、何かな?」

「ええと、不満と言っていいのかわかりませんが…。そもそもリュミエールと訓練をする必要があるのかな、とか、毎回この姿になる必要はあるのかなと、考えおりまして」

「リュミエールが嫌なのかい?」



そう言われてしまうと言葉に詰まる。



「彼が嫌と言うか、やっぱり女になるのには抵抗があるので」

「そうか」



だから、なぜ陛下はそこでしょんぼりとするのか…。

ミツコ、今、今すぐ教えてくれ!



「つまり、訓練の意図をはっきりさせておけばいいということか?シリル」



横から父が口を出す。

ううん。その言い方ってなにかコントロール以外に理由があるように聞こえるんですが…。



「ええ、まあ。あとは魔力向上の訓練を減らして、変身してから戻る方法を調べたいという気持ちがつよいです」

「たしかにそうだな。元々コントロールを目的としていたわけだし」

「では、こういうのはどうだ。週2回ここに訓練にきて、間の1日はリュミエールと戻る方法をさぐるというのは」

「ありがとうございます。でも、(わたくし)は自分でも調べたいと思うのですが。――その、できればこの姿にならないで動けたらもっと嬉しいのですが」



出来れば女性としてのレッスンも無くして欲しい!

靴は細くて痛いし、ダンスで付けられるコルセットは苦しいし、レイルにからかわれながら踊るのもそろそろ限界だ。

かなりの希望を、もう必要ないですよという気持ちを含めて伝える。



「わかった。君の希望を優先しよう」

「本当ですか!ありがとうございます」



ガッツポーズしたい気持ちを抑えて、思いっきり笑顔で答えると、陛下は何故か頬を赤らめた。



「ええ!?訓練減らすんですか?私はまだオススメしませんが」



待て。をされていたリュミエールが口を開く。

せっかく陛下との話が上手く纏まりそうだったから、やっかいごとを蒸し返すアンタには黙ってて欲しかったんだけど…。



「どういうことだ?」

「よろしいですか?」

「ああ」

「では、シーラもちゃんと聞いてくださいね」

「はい」



いつも薀蓄(うんちく)が長いから適当に流していたのはバレていたようだ。



「今のシーラは、魔力の全体量が多くないので女性になると朝になるまで元には戻れません。訓練で大分安定はしてきましたが、それでも一度の変化につかう魔力の三分の一程度しか常時温存は出来ていません。だから、魔法を消費して魔力の底上げをしている。そこまではわかってますね」

「はい」

「訓練の回数を減らすと言うことは、まず元に戻るまでに必要な魔力を確保するまでの時間がたりません。私の見立てでは、今のペースで訓練を続けてやっと学園に間に合うかどうかといったところです」

「そんなに時間がかかるのか」



さすがの父も驚いたようだ。

僕も驚いた。



「まあ、毎回変身時の魔力量を観察してますけど、変身能力って大分魔力を使うようなんですよ。最初のうちはソレこそコントロール出来てなかったから無駄に垂れ流し状態で、すっからかんになるまで魔力放出させてましたが。最近は基礎魔法の訓練のおかげで無駄に減らすことだけはなくなりました」



なるほど、全体量が増えたからというよりも、コントロールで楽になってたということか。

しかし、変身させる後とに魔力のチェックしてたのか…



「ですが、それだけです。陛下と宰相殿の最初の依頼は、学園入学までにコントロールできるようにすることということでしたので、そうすると元に戻るための魔力まで大目に確保しておかないといけないわけです」

「それをいったらバルバロッサはどうなんだ?」



陛下が口をだす。

バルバロッサがリュミエールに訓練を受けていることは聞いていた。

急に出てきた幼馴染の名前に好奇心が沸いてくる。



「といいますと?」

「ヤツとて訓練内容はシリルと似たようなもんだったろう」

「ああ、訓練の進度が気になるということですか。でしたら、バルバロッサ様は大丈夫です。彼は元からもっている魔力も多いし、素質も素晴らしいものを持っています」

「しかし、度々逃げ出しているではないか。あやつのあんな姿は始めて見たぞ」



僕もそんな話は始めて聞いた。

バルバロッサが勉強や訓練から逃げるなど、なんでもスマートにこなす彼からしたら信じられない。



「彼とシーラは違います。これでもシーラには大分ゆるく接してますし、同じ訓練にしても殿下が使っている魔法は中級魔法です。シーラにやらせたら30分もかからずぶっ倒れますよ。これでも大分女生として丁寧に扱っているつもりですので、ああでも、変身したくないというのなら、中級魔法を使って無理やり消費量を増やして訓練するという手もありますか…ただ、そうすると変身の時の消費コントロールが――」



途中からぶつぶつ言いながら、ジャムの挟まったクッキーをまた1つ口にいれる。

バルバロッサの進度を聞くと彼は彼で大分スパルタ教育を施されているようだ。

聞いているだけで食欲が失せていくようだ。



「学園までに安定を図るなら、訓練は現状維持と言うことか」

「そうなりますね。とにかく、戻るコツを調べたいなら中級魔法が撃てるようになってからと思ってましたが。お急ぎなら、別の手段をとりましょうか」

「というと?」

「師匠のところに連れて行きます」



ぺロリと指を舐めながらリュミエールが答える。



「師匠?」


「西の賢者ですよ。彼は僕の師匠です」

「え、賢者って実在するんですか?」

「ああ、すまない、シリルにはリュミエールが何者なのか教えていなかったね」



賢者と言う言葉に目を丸くしていると、陛下が丁寧に説明をしてくれた。

西の賢者は、リュミエールの師匠であり陛下の友人?という人物らしい。

一時期は城で過ごしていたこともあるようだが、唐突に街の暮らしに飽きた。と西の辺境に引きこもってしまったらしい。

暫くして、もう一度戻ってこないかと呼びにいった賢者の変わりに城に来たのがリュミエールということだ。

リュミエール自身、若いうちに城や街で一般的な経験を積んでこいと放り出されたらしいが、城にいればいくらでも大好きな研究ができるものだから、たまに妙なものを仕入れに出かける以外めったに城から出ることも無いらしい。


城に居る意味が無いのでは?というと、城の人間と接するだけでも新鮮で面白く、師匠のところでは出来ないこともここでなら自由に研究できるとリュミエールは嬉しそうに言った。

実はコイツ、城の不良債権なのではないだろうか。


とりあえず、城にとっての彼は客人のような研究者のようなポジションのようで、執事のような格好をしながらも、国王に対して横柄な態度をとっているということには納得した。



「では、急ぐのであればシーラをつれて一度帰ろうかと思うのですが、よろしいですか?」

「え?」



色々な情報を処理している間に、リュミエールが勝手に話をまとめようとしていた。

コイツはいつも言葉が足りないくせに、勝手に話をすすめようとする。

肝心なことを何も説明しないのに、アレをしろこれをしろと、間髪いれずに言われるからどんどん流れに乗せられてしまう。



「待ってください。(わたくし)は行きません!」

「「え?!」」



反射的に口に出た僕の言葉に、3人は口を開けて固まった。

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