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王様の息抜き1

魔力を増やすための訓練はとても退屈だ。


火→水→風→土の基礎魔法を交互に撃ち、それをひたすら繰り返す。

そんな僕を眺めながらリュミエールは何かメモを取っている。

一度何をしているのか聞いたら、魔力の減りと無駄を確認しているのだと言われた。

魔力の動きを見ただけで分かるというのだから、やはり城付きの講師というのは凄いものだ。


単調な繰り返しだが、魔力が枯渇した辺りで体力を使い、さらに魔法を使おうとすることで不足した魔力を補おうとして絶対値が上がっていくという理論らしい。

要するに経験値積んでレベルアップってことね――と、ミツコは言っていた。


そんなミツコは最近じゃ、リュミエールが近寄っただけで変身するようになってきた。

こっちの意志なんてお構いなしだ。

何度か文句を言ったが、パブロフの犬みたいなもんだから、ごめん。と言われた。

パブロフの犬は知らないが、ようは条件反射であのぶわっとくる感じになってしまうらしい。

急いで戻る法則を見つけなければ…。





「やあ、邪魔するよ」



無言で魔法訓練を続けていたら、ふいに国陛下陛下と父がやってきた。

公の場で訓練の出来ない僕の訓練場は城から一番遠い場所にある。

そんな場所に国王陛下じきじきに来るとは、いったい何の用だろう。



「お久しぶりです。国陛下」



上がっている呼吸を抑えつつ挨拶をする。



「なにかございましたか?」

「いやなに、ちょっと息抜きに散歩にな」



リュミエールの問いにニコニコと答えるが、この場所はちょっと散歩には遠い気がする。

陛下暇なの?それとも運動不足なの?



「シリル。その格好はなんだ…?」



首を傾げていたら、父に声をかけられた。

自分の姿を確認する。

なんだって言われても?いつもの服装になにか問題があるのだろうか。



「何って、いつもの服装ですが。問題がありますか?」

「問題ありますか?――――って、お前…。おい、リュミエール。シリルはいつもこの格好なのか?」

「ええ、そうですよ。ローブは動きにくいとすぐに脱いでしまいますし」



僕の格好は、いつも通りのシャツにベスト、トラウザーズにブーツだ。

父をを見上げたら、ため息と共に眉間を揉んでいる。

不思議に思ってきょろりと陛下にも目をやると、何故か困った顔で微笑まれた。



「あの、何か問題でもありますか?父上」

「――――シリル…」

「はい」

「父上じゃないだろう…」


――――『シリル。お父様、お屋敷の延長でシリルに接してるみたい…』



魔法を撃ちながらでも会話ができるようになってきたミツコが口を出してきた。

今の僕は女だ――ということは、屋敷の外でもレディとして振舞えと――そういうことですか?



「えっと…、お、お父様?」

「そうだ」



おずおずと呼び直すと、うんうんと頷かれた。



「もしかして、格好って…」

「そうだ、男装したままではダメだろう。着替えてきなさい」

「そんなっ!ここから取りに行くとかどれだけかかると思ってるんですか」

「しかしなあ…」



そう言うと、チラリと陛下の方に目を向ける。

視線を追ってみると、きょとんとした陛下と目が合った。



「なんだ、私のせいか?」

「いいえ、別にアルベルト様のせいではありませんよ。手が空いたからと急に散歩にでるアルベルトの意図など私が知る由もありませんし」

「おいおい、なんだよ怒ってるじゃないか」



急なやり取りに驚いていると、



「宰相殿、怒ると「様」付けがなくなるんですよ」



ぼそっと横から囁かれた。



「シーラ。ドレスで訓練がしたいならそう言ってくださればよかったのに」

「べつに、僕は着たいわけじゃないし」



チラリと見下ろしてくるリュミエールに対して、僕の敬語はとっくに無くなっている。

本人もあまり気にしていないみたいだから、注意をされたことも無い。



「とりあえず次回からはドレスにしておきますか?」

「だから嫌ですって」


「いや、それでいいぞ。持たせている服に先に着替えさせてくれ」



リュミエールのせいで無駄な流れ矢が飛んできた。

なんてことを言うんだと、目と口をあんぐりあけて父を見つめる。

何故か陛下がくつくつと笑っているが、何がそんなに面白いんだろう。



「かしこまりました。ご指示どうりに致しましょう」

「本気ですか!」

「あたりまえだろう、常にレディとして心がけておかないとボロが出てしまうではないか」

「父上は僕をどうしたいんですか!」

「そうですね、女性になるのはこの場所からが多いですし、ドレスも持ってきてしまえばいいですね」



僕の叫びも空しく、大人たちは勝手に話を進めていく。

何を言っても意味が無いのだろうと感じだ僕は、大きく肩を落とすと元の場所に戻って一人魔法を撃ち続けることにした。



「なんだかなー」

――――『どーしたのー?』



距離をとって魔法を撃っていれば、ミツコと会話することができる。

魔法の音を響かせているからこちらの会話は聞こえないハズだ。

だが、念のためあまり口は動かさないように喋る。



「なんか、やばくない?」

――――『ああ、そうねぇ、扱いが…おかしくなってきてるよね』

「上手く説明できない、けど―――」



魔法を絶え間なく撃つため、僕の口調は途切れ途切れだ。

ズドン、バチンと連発する魔法の音は煩い。

だが、頭の中に響くミツコの声を聞き漏らすことは無い。



「この訓練とか―――実は、必要ないんじゃ、ないの―ー?」

――――『それねー…お父様の設定が違うベクトルで動き出した感じがするよねえ』

「設定?」

――――『うん、設定』

「ゲームの?」

――――『そ。シリルルートには関係ないし、15歳まであと2年以上あるからゲームも関係ないと思ってたんだけど、もしかしたら色々話しておいたほうがいいのかも』

「なるほど――ね」



どうやら、ミツコには【ギフト】以外でも聞かなければいけないことがありそうだ。

そんな会話をしていたら父と陛下が戻るというので挨拶だけしに戻ると、次は茶菓子でも持ってくるよと笑顔で帰っていった。

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