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年齢不詳の眼鏡執事

「紹介しよう、【ギフト】能力の訓練に当たるリュミエールだ」



陛下に紹介された男は、とても優雅に頭を下げた。

講師という立場上それなりの年齢の人物が現れるかと思ったが、目の前に立つ人物は想像よりもだいぶ若い。

二十歳、いやそれ以下か?

執事服を身に付け、長い黒髪を後ろに束ねて眼鏡をかけたその姿は、講師と言うよりも見習い執事といった風貌だ。



「リュミエールと申します」

「始めまして、シリル・マクドールです」


――――『ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ、シリルたんやばい…』


お互いに挨拶を交わした瞬間、かぶるようにミツコが騒ぎ始めた。

急に、頬に熱が集まり始める。


――――『ごめん、ヤバイ、この人めっちゃカッコイイ…お父様よりもあたしのツボ』


震えた声でミツコが騒ぐと同時に、頬の熱がボボボボっと上がっていく。

これはヤバいと思って、慌ててリュミエールから目を逸らしたら思いっきり父の方を向いてしまった。



「あああの、リュミエール様は執事のかっこうをされていますが…」



自分のおかしな行動をごまかすために、父と陛下に無理やり話題を振る。

不自然だとは思うが、意識を別の場所に持っていかないとミツコによる大惨事が起こってしまう。



「ああ、リュミエールは今のところバルバロッサ付きの執事見習いという立場でアイツの特訓にも当たっていてね。ローブ姿の講師でよかったのだが、本人もこっちの方が動きやすいと――――最近じゃ、普通に使用人の真似事もしているんだったか?」

「ええ、楽しいですよ」



さらりとリュミエールが答えると、やれやれといった風に陛下はため息を1つついた。



「コイツの立場は少々複雑でね。【ギフト】の研究を中心に行っていはいるが、あまり公にしてはいないから、少々好きにさせているんだ」

「そうなんですか…」



バルバロッサの講師ということは、彼もまた【ギフト】を開花させていたのか。

今頃この話で盛り上がっていそうな茶会の席を想像すると、この場に来なければならなかった自分が残念でならない。



「リュミエール。キミにはこの子の訓練もやって貰おうかと思って呼んだんだ」

「ほう、この子を…それで、どんな【ギフト】をお持ちなんで?私を呼んだということは、王子のように有益とみなしたということなんでしょう?」

「まあ座りなさい。――有益かどうかは別として、彼はまだコントロールができていない。だからお前に手を貸してもらおうと思ってな」



リュミエールの口調はとても軽い、父でさえ陛下様に対しては節度ある口調で話すのに、彼の口調はまるで上下関係を感じさせない。

声だけではなく実際に顔を見たかったが、まだ頬が熱くミツコの興奮が気になったのでできるだけ見ないようにした。

父の隣と言う最悪のポジションに座られたので、できるだけそちらを見ないように気をつけなければ…。



「しかし、能力内容ぐらいさっさと教えてくれてもいいでしょう。私だって暇ではないんです。コントロール程度なら慣れれば勝手にできるようになるのではないですか?」



あきらかに不満そうな物言いでリュミエールが返す。



「変身能力だ」


「――なんですって」



横からぼそりと呟いた父の言葉に、どこか弾んだ声でリュミエールが反応した。



「超ド級のレアリティ【ギフト】じゃないですか。変身、本当に?――それで?どこまでやっていいんです?」

「おい、リュミエール。分かっているだろうが、私の息子だぞ」



急に機嫌がよくなったリュミエールに対し、何やら不穏なムードを感じる。



「ああ、目の前に居るんだから本人に聞けばいいんですね。ご子息は、どのような能力をお持ちなのですか?」

「え?――――」



女になる能力だなんて、初対面の人にあまり教えたいことではない。

目線を泳がて返事に詰まる。



「変身というと、犬や猫、鳥などでしょうか。過去には獅子になった者もいたようですが」

「どれも違うよ、リュミエール。息子は獣にはならん」

「―――へえ?そりゃあ珍しい。………というと、羽でも生えたり、魔物系…は聞いたことがありませんね。ドラゴンならありそうですね」



リュミエールの口は本当によく回る、感情が高ぶると少し早口になる所があるようだ。


楽しそうにぺらぺらと喋りまくるリュミエールの言葉を聴いていたら、なんだか無性に蹴り飛ばしたいような感情が湧き上がってきた。

変身能力を楽しそうに質問攻めにしてくるあたり、まったくこちらの気持ちなんて考えていない…

人の能力だと思ってヘラヘラとしやがって…。


もやもやと沸き起こる怒りに、つい顔を上げたら、顎に手を当てこちらを観察するように見つめる黒い瞳と目があった。



「で、どういった能力なんです?」



僕の目を見たままにっこりと笑う。



――――『ごめん!シリルごめん、この顔は反則だよぉおおおおおおおおおおお』



ミツコが叫ぶと同時に顔に熱が集まる。

僕の怒りを押しのけて、ミツコが僕の心拍数を上げる。

それまで感じていた怒りと共にドキドキした気持ちが流れ込んできて顔の熱が僕の限界を超えた…。



我慢できなくなった熱が外に広がるような感覚とともに、ぶわっと髪の毛が広がったのが分かった。





「「「っ!?」」」



僕の変化を目にした3人が息を呑む。


女になった…と、実感したが、はぁはぁと息が上がって動けそうにない。



「おお―――。これが」

「変身、変身したんですね…。なんと――これは」



怒りのせいか意識を失わなかったが、苦しくて気持ち悪い。

涙目のままゆっくりと頭を上げると、再び息をのむような声が聞こえた。



「―――フローラ…」

「違います、陛下。シリルです」

「ああ、そうだったな―――でも、いや、瓜二つじゃないか。苦しそうだが大丈夫なのか?」


「あ―――大丈夫、です」



とりあえず返事をすると右腕を誰かにつかまれた。

持ち上げられた腕を見上げると、リュミエールが横に立ち、僕の腕を掴んでこっちを見下ろしていた。



「?」



リュミエールをぼんやりと見上げていても、ミツコは特に反応しない。

今までのケースでもそうだったが、ミツコは女になってすぐは声も感情も出さない。

変身してしまった引け目で喋らないだけかと思っていたが、こうも感情が動かないとミツコにも何か影響が出ているのかもしれない。

確認しないといけないことが1つ増えた。



「ああ、魔力が減っているようですね。一気に魔力を消耗したから苦しいのでしょう。宰相殿、この子はなにか魔法を使えるんですか?」

「いや、まだだ。魔道具を使うことはできるが、魔法に関わる訓練はしていない」

「そうですか。では、早めに始めたほうがいいですね。魔力の扱いができるようになれば、こんなに消耗することも減るでしょう」



そんな話を聞いている間に、ふらつきも少し落ち着いてきた。

今はリュミエールを見ていても何の感情も動かないので、じっくりと観察することにする。

黒髪黒目、眼鏡に隠されてはいるものの顔立ちはとても美しい男だ。

ぱっと見は20歳ぐらいにみえるけど、陛下様に対する態度とかを見ているともっと上なのかもしれない…。



「どうしました?ああ、少しだけ魔力を分けましょう、楽になりますよ」



そう言うと、腕のあたりから暖かいものがじんわりと流れてくるような感じがして、とても気持ちいい。

暖かいものが、手首からだんだんと胸のあたりまでくると、嘘のようにすっと気持ち悪さがなくなった。



「あ、ありがとうございます。――もう大丈夫、です」

「そうですか?それはよかった」



そう言うと、ぱっと腕を離し再びソファに座った。



「で、――今どうやって変身したんです?」



足を組むと直ぐに確信を付いてくる。

だが、そんなことを聞かれても答えることなんてできるわけが無い。



「いや、あの…まだ自分でコントロールできないので…」

「へえ…。でもきっかけはありますよね?何もなくて急に変身なんてしてたらキミの身体は持たないですし」

「というと?」



陛下が口を挟んでくると、僕は口を開くタイミングがよく分からなくなる。

もう、面倒だし、答えたくないから適当に会話を任せてしまいたいんだが駄目だろうか。



「彼女は、ああ、彼?―――名前なんでしたっけ」

「――シリルだ。 リュミエール、お前そういう態度はあまり出すなと言ってあるだろう」



父が横から注意する。



「いいじゃないですか、ココだけですよ。で、シリルはですね、変身するときに魔力を使ってるんです。かなり大量に。だからぐったりしていましたし、多分、今戻れって言われても元に戻れないでしょうね」



と言われても、戻り方なんて見つかってないんだからさっぱりだ。

だが、さっきまでの気持ち悪さは、リュミエールが流し込んだ魔力ですっかり改善されたので、魔力云々については納得がいく。



「あの、さっきの」

「なんでしょう」

「魔力を流してくれたのって、普段コールストーンとかに魔力を流すのと一緒ですか?」

「基本は一緒ですよ」

「基本?」

「魔石を使ってる魔道具とかと比べると魔力の流れが悪いんです。だからコツを知らなかったり、魔力が少ない人だと自分の力だけが無駄になってしまいます」



リュミエールは思いのほか丁寧に説明してくれた。

マイペースそうだが悪い人ではなさそうだ。


僕が落ち着くと、再び僕に対しての質問コーナーが始まった。

話を逸らしたかったが、今回この【ギフト】に関してこんな場所まで来ているので、どうにも逃げ場は無さそうだ……



とにかく、今の変身のきっかけと、今すぐ元に戻れるか――論点はそこだ。


暫くの間、質疑応答と大人たちの議論が盛り上がる。

だが、僕がミツコのことを口にしない限り変身のきっかけは見つからない。

とりあえずは、リュミエールによるコントロール訓練ときっかけ探しを行うという結論に至った。


また、今すぐに男に戻るのは、僕自身の魔力が再び変身するほど備えられていないから無理、というのが、リュミエールの見立てであり――…たぶん現実。

いつも眠っている間に元に戻っていると話したら、きっかけは分からないけれど睡眠と時間の経過により魔力が足りた段階で戻っているのだろうと結論付けられた。

一度変身したら暫くは元に戻れないということなのだから大問題だ。


このことに関しては、今後の訓練を通して全て自在にできるようにしないといけないらしい。

リュミエールが思いのほかこの能力に興味心身で、週に3回も特訓しに来いという流れになった。

正直、ミツコの問題もあるからもう少し減らして貰いたいと主張してみたのだが、何故か陛下からのごり押しで、週に3回、3時から夕方まで頻繁に城に通うことになってしまった…。




陛下との緊張から始まった話し合いは、実に2時間もかかり、結局バルバロッサたちとの茶会にはほとんど参加できずに終わった。

女に変身してしまった手前、彼らの前に足を運べないのは当たり前なのだが…


その後は、そのまま庭に行くわけにも行かなかったので、髪をくくって魔道師のようなローブすっぽりとかぶり、大人しく馬車でレイルと母を待っていた。




例に漏れず、馬車に乗り込んだレイルに笑われたが、何故か同情をこめた目でこれからがんばれよと励まされた…

訓練の話をする前だったのに、なんで知ってるんだこいつは…。


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