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定例お茶会

王子様と騎士(の息子)を登場させられました。

「おい、ミツコ」

――――『はい、なんでございましょう。ぼっちゃま』

「お前、楽しそうだな…」

――――『そうですか?』

「いいから、普通にして。めんどい」

――――『はいはーい。どうしたの?』



父の前でハッスルしすぎたミツコを諌めてから一週間…近づきすぎて1度だけ変身したが、その後は父に対してボソボソと崇拝するような台詞がつぶやくだけで、興奮しすぎるようなことは無くなった。

能力に関しては何の進歩もしていないが、何日か話し合った結果「多分ミツコ次第」ということでお互いに納得した。


ミツコ側が意識して僕のことを女にすることはできないらしいので、ミツコさえ興奮しなければなんとかなりそうだ。

「女になりたい時はないの?」とかふざけた事を尋ねられたが、父の変な冗談に答える気持ちはこれっぽっちも無い。



「今日は城に行くから、煩くない程度なら適当にしゃべってもいいよ」

――――『お茶会って言ってたやつね』

「うん。王子との交流目的で父上と国王たちが定期的に開催してくれるんだけど、どうせ王子と僕らだけの簡単なものだから適当にしゃべってもいいよ」

――――『ほほ~う?その心理は?』

「どうせ王子とか見たらハッスルするんでしょ……だったら適当に話してていいから叫ばないで欲しい」

――――『あ~あ、確かに!』



そうは言っても、王子たちを見たら絶対に煩いんだろう。

やれやれとため息をついた辺りで、そろそろ行くぞとレイルに声をかけられた。





***********





「やぁ、よくきたね」



母とレイルと共に馬車を降りると、父が迎えに出ていた。

いつも迎えに出る父に仕事はいいのかと尋ねたことがあるが、これでも優秀だからいいんだよと笑顔で返されたことがある。

こと母が絡むと父の笑顔はブリザードのように恐ろしいものに変わるのだから、恋は盲目という言葉は恐ろしい。



「殿下とグリフィスくんはすでに第二庭園でお待ちだよ」



そういうと、母をエスコートして歩き出す。

そんな姿もいつものことなので、レイルと二人で黙って後ろを付いていった。

口を開いてもいいと伝えておいたミツコは、僕の目に映るも全てに対して「おおー、ゴージャス」とか「ランド並みに広いのでは…はわわ」なんて言っている。

楽しそうで何よりだ。



そうこう考えながら足を進めていると、王子の待つ第二庭園に到着した。



「お久しぶりです、バルバロッサ様」



ガーデニアの花が香る庭園に足を踏み入れると、用意されたテーブルにバルバロッサ王子が座って本を読んでいた。

金髪碧眼、まさに理想の王子といった姿は、そこに座っているだけでも1枚の絵のようだ。

――――『うっは、バル様の青年期、ヤバイ!美しい!萌えが世界を一周する!!!』



「お待たせしてしまったようで、申し訳ないです」

「久しぶりだな。レイル、シリル、とりあえず座ってくれ」

「グリフィスが先に来ていると伺っておりますが、ご一緒ではないのですか?」



レイルが気取った口調で話しながら席に着く。

城の使用人がイスを引いてくれるので、席に着いたところでイスが一脚多いのに気がついた。

ちなみに、母は子供たちとは別の木陰で親たちのお茶会を開催している。



「ああ、一回りしてくるといっていてな、すぐ戻ってくるだろう。それより何だ、それは宰相殿の指示なのか?」

「と、申しますと?」

「口調だよ。いつも通りにしてくれないか?気持ち悪いじゃないか」



ここのところ急に取り入れられたマナーレッスンはレイルとの気取った遊びの1つになっており、今日はその延長で王子との時間を過ごそうという話になっていた。

ニヤッとレイルと目を合わせる。



「なにを仰いますか、王太子殿下の前で不敬を働くわけにはいきません」

「シリル、それこそが不敬だとは思わないのか?」

――――『うっは、少年バル様の素のお姿とか、尊い』

「なるほど、一理ありますな」



お遊びを止めようとしない僕らに、ひじ杖を付いて詰め寄ってくる。

形を崩して見せることで、お前らも普段通りに接して来いといっているのだ。

さてどうするかと思ったところで、後ろから声がかかった。



「バルバロッサ様、行儀が悪いですよ」



騎士団長の息子のグリフィスだ。

燃えるような赤い髪にアイスブルーの瞳は、冷たさと強さが混在しているようで、同姓から見ても羨ましいほどの精悍さを感じさせる。

切れ長の目は子供ながらにどこか人を威圧するような迫力を感じさせるが、実は本人は何も考えていないことが多い。

だからというかなんというか、グリフィスは僕ら以外に友達が居ない…



「「グリフィス殿、お久しぶりです」」

――――『んふーグリフィス様登場っ!!一番の推しキャラですよ!今からすでにイケメン!』



お遊びを延長させて席を立ち、丁寧に腰を折って挨拶したら、彼の後ろにふわりと揺れる存在を見つけた。



「やめろ。ふざけているんだろう?」

「グリフィス?後ろの令嬢は?」



少女の存在に気づき、おふざけモードは自動的に終了となった。

グリフィスの後ろには、柔らかな赤毛を揺らした少女が立っていた。



「ああ、二人に直接会わせるのは初めてだな。妹のシュゼットだ。―――シュゼット、挨拶を」



そういうと、軽く手をとって前にやる。

無骨なグリフィスのほうが、自分たちより自然に騎士(ナイト)を演じられている。



「お初にお目にかかります。シュゼット・カーライルにございます」

「始めましてシュゼット嬢、レイル・マクドールです」



というと、シュゼット嬢の手をとってキスをするふりをする。

おまえ、いつの間にそんなキザな挨拶を覚えたんだよ。僕の挨拶がやりずらくなるからやめて欲しい…。



「おい、やめろ」



レイルの頭をグリフィスが押して、シュゼットから遠ざける。

そんなやり取りで挨拶のタイミングが分からなくなった辺りで、シュゼットと目があった。



「シリル・マクドールです。兄が失礼をいたしました」



腰を折って自己紹介と兄の失礼を詫びる。



「いいえ、お二方がお兄様から伺ってた双子様なのですね。今日はわたくしもお邪魔してしまい申し訳ありません」

――――『赤毛の美少女!天使ではないですか!!!――ん??でもこの子なんか知ってるような…』


「殿下とは以前我が家で会ってるんだ。少し人に慣れさせようと思って連れてきた」

「そうなのか、よろしく、シュゼット嬢」

「よろしくお願いします、シリル様、レイル様」



一通りの挨拶が終わったところで席に着くと、完璧なタイミングでメイドがお茶を入れていった。



「おふざけはお仕舞いか?レイル」

「なんだ?」

「いいえ、殿下。シュゼット嬢もいらっしゃいますし、本日は殿下としてご対応しようかと」

「やめてくれ…」

「なるほど、そうゆうことか。シリルはどうなんだ?」

「僕はいいよ、レイだけで」

「なんだよシリル、付き合い悪いな」



くすくすと笑うシュゼットは僕たちのそんなやり取りを始終おとなしく聞いていたが、茶菓子が適度に減ったあたりで母たちの方へグリフィスが連れて行った。



「シュゼットは可愛いな」

「直接言えば頬を赤らめて喜ぶでしょうに」

「そうさ、さっさと婚約者を決めてしまえば、この後の人生が少し楽になるんじゃないか?」



レイルはの口調は相変わらず軽い。



「婚約者な…。」

「そうさ、学園を卒業するまでには候補を決めるのが基本だろ?貴族であれば、だけどね」



ちょっと前から社交界を意識した茶会への参加が増えてきたレイルは、色恋に関して割と積極的だ。



「バルやグリフィスの場合は特にそうかもしれないけど、僕みたいな立場だと急ぐ必要はないけどね」

「長男じゃないっていうのは楽なんだな。だが、家を継がんのならどうする、騎士団にでも入るか?」

「……。」



バルバロッサもグリフィスも、王子と長男という立場上こういうことは真面目に考えなければならない。

だが、グリフィスが話すことなんて、やれ騎士団の基礎訓練に参加しただ、父と魔物狩りにいっただのいうことばかりだから、こんな話にはまだ興味がないのではないだろうか。



「俺は早めに婚約者を決めたいけどね。今のところは兄上が家を継ぐ予定だけど【ギフト】次第じゃ宰相の職が優先されることもあるしな」

「それだ。」

「「「ん?」」」



唐突にバルバロッサが口を挟み、レイルの言葉を切るように続ける。



「【ギフト】に関してだがな…―――」

「失礼します。殿下」



会話が面白いほうに流れ始め、男だけの話に花が咲くといったタイミングで父がやってきた。



「どうした?私に用か?」

「いえ、少々シリルをお借りしてもよろしいでしょうか」


「わかった。―――また戻ってくるのか?」

「はい、こちらの用が済みましたら」

「そうか、場所を移すことになったら使いをやる」

「ありがとうございます。お話の途中のようでしたのに申し訳ありません。――シリル、付いてきなさい」

「はい」



もの凄く最悪のタイミングで邪魔されたことに不満を言いたかったが、ぐっと飲み込んだ。

父が僕を連れ出すことなんて、間違いなく【ギフト】のことだ。

いつもなら口を出してくるレイルもそれを察して大人しくしていたのだろう。


父に続き、暖かな庭から城の中に入ると、だだっ広い空間にピンとした少し冷たい空気が漂う。



「シリル」

「はい」



こんなに静かなのに何故父の足音は響かないのだろうと考えていたら、ふいに声をかけられた。



「これから【ギフト】のことである方と会って貰う」

「はい」

「――今、変身することはできそうか?」

「いえ、多分無理だと…」

――――『うん、無理だと思う』

「そうか、分かった」



そう言うと、再び黙って歩く。


いつの間にか歩いていた赤いカーペットの上を暫く進むと、やたらと立派な扉の前で父の足が止まった。


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