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地球より報告アリ。

作者: Claris


01


 地球滅亡の時が来た!森羅万象、全ての終焉がやってきた!私も!犬も!猫も!太陽を含め、空に輝く恒星たちも!全てが死ぬ時が訪れたのだ!

 ——そんな愉快に語るようなことではなかったし、そんなにたくさん感嘆符を打つような場面でもなかった。今、打つべきなのは感嘆符ではなく、三点リーダやダッシュである。絶望を表すにふさわしい記号である彼らを打つべきなのである。

 そんな、絶望的状況。

 そんな、失望的状況。

 地球の中心で愛を叫ぶとその危機が回避される、なんていう感動的な奇跡も、滅亡を阻止するために、イケメン揃いの中年男性の集団が動き出す、なんていうスペクタクルな展開もこの世の中には存在しない。ただ単純で分かりやすい滅亡。ありきたりで聞き飽きた絶望。

 こんな前置きはこの辺に置き去りにしておき、始めるとしよう。この世界のエピローグを。


 そもそも、物語本編というのはエピローグのためにある。全てはエピローグを語るための準備であって、全てがエピローグの前置きだ。

 松尾芭蕉が人の営みの儚さに想いを馳せたのも。

 ウィリアム・シェイクスピアが文章という形で愛というものの美しさを我々に伝ようとしたのも。

 集英社が友情・努力・勝利を週刊少年ジャンプの三代原則に掲げたのも。

 全てがエピローグにむけての一歩なのである。

 しかしこの場合、 この世界という存在のエピローグにおいては、プロローグから語っていくのは少し難しい。なぜなら世界の始まりなんてものについて完全に理解している生物なんて存在しないからである。世界の始まりから滅亡まで、その全てを語りつくせる語り部はこの世にはいないのである。もしもこの世界に神様が存在するとしたら、その神様なる人物のみがすべてを語りつくせるのだろう。そんな奴がいたら今すぐ語り部を代わってもらいたいものだ。

 さて、この世界のプロローグを語るのは前述の通り難しいので、エピローグのプロローグくらいは語ることにしよう。

 分かりやすく言うとするならば、『何か』に消されている。すでにこの世界の33.4パーセントが消えたらしい。『何か』が何なのかはまだ私にもわからない。実際に見たわけでもないし、どんなものなのか聞いたこともない。ただ、消えている。それだけ私は耳にした。

 いくつか具体例を挙げるとするなら、星座もいくつか見えなくなってしまっているそうだ。今、日本は冬。普段、冬の夜にはみんなご存知のオリオン座が見えるはずだが、四日前からそれがない。一角獣座も無くなってしまった。

 あと一つ具体例を挙げておく。二週間ほど前にアフリカ大陸は無くなった。あれがあったはずの座標には、今は広大な海が広がっている。人々はこれを『アフリカ沈没の謎』だなんて呼称して今も原因を究明してるらしい。ほとんどの人は『何か』に消されたことを理解しているが。

 皆も理解しているだろうが、この滅亡は恐らく止まらない。既にこの世界の三割は消えてしまったわけだし、その中には、人間を超えた知能を持った生命体の棲む星もあっただろう。

 せっかくなので、そんな事実を前にした地球に棲まう生命体は何をしているか語るとしよう。


02


 まずは人間の話だ。

 アフリカ大陸消失から様々なことがあった。小さな島々も消失してることが明らかになったし、世界人口が突如として激減していることも明るみに出た。そんな緊急事態を前にして終末時計は0.01分に短縮された。人類は皆、世界の滅亡を悟っている。皆、自分が近いうちにこの世から去ることも、自分の生きた証が何も残らないことも理解した。だからこそ、こんな世の中を生きているのだろう。

 そんな中、全世界的に婚姻届の提出が非常に増えているそうだ。やはり、やり残したことを残してこの世を去りたいような人間はいないのだろう。

 この事例がいい例な様に、自分が終わることを知れば、皆が皆、自分のやりたいことを自己中心的に、エゴイズムのままに行おうとする。その結果、必然に混乱が起こるわけである。

 アメリカ合衆国では銃乱射事件がここ一週間で十五件あった。どれも個人による犯行で、事件が起こるたびに犯人は射殺されている。案外、人とは脳が頭に入っていないのかと疑ってしまうくらいに無能で馬鹿で未熟だ。世界滅亡の危機を前にして、自らがそれに加担してしまっている。こんな奴らが現在、生態系の覇権を握ってしまっているのだから、この地球は遅かれ早かれ滅亡していたに違いない。

 さて、次は人間以外の生命体の話になる。律儀に昔ながらの暮らしを、そして自然を守り続けてきた彼らの話だ。

 当然のことなのだが、彼らはいつも通り平然と、彼らなりの生活を続けている。人間以外の生物も個体数は激減しているので、異変には気づいているだろうが、世界の滅亡という考えには至らなかったのかもしれない。しかし、その反面、実に五十六種が二週間のうちに絶滅し、二百九十五種が絶滅の危機に瀕している。今もどこかで生物は原因不明の消滅を続けているのだろう。

 また、前述した絶滅の所為で生態系が崩れ、連鎖的に絶滅が起ころうとしてしまっている。堅実な生活を続けていた生命体も、一度イレギュラーが起こってしまうと対応できずに破滅していってしまうのだろう。

 地球の話はだいたいこのくらいである。大地が、生物が、文明が、段々消え去っていってしまっている。全ての終わりももう近い。


03


 先の経過報告から二十四時間。たった今動きがあった。端的に言うとするならば、急速に消滅が進行している。緊急事態中の緊急事態といったところだろう。地球の大地が、地球の生命体が、全てが急激に減少している。全ての終わりももう近い、そう言ったのは私だが、流石に早すぎた。元々何も存在しなかったかの様に、美しく全てが消失していく。

 生命は抗うことも、苦しむこともできず消えていっている。もう地球全体の生命の数も元の半分を切ってしまった。皆、絶望している。皆、失望している。全て希望を失ってしまった。終わりの始まりも静かに終わり、終わりすらも終わろうとしている。

 生命体の数ももう四分の一。そこには様々なドラマがあることだろう。愛を伝えることができず愛しい人を目の前で失ってしまった人や、手を繋いだまま同時に消えた二人組や、全てを失い一人静かに消えた人が、いるかもしれない。しかしそれは『何か』には関係のないことなのだろう。無情に、そして非情に全てを消していっている。

 まだまだ急速に減っていく。もう止まることはないだろう。

 残り百。

 五十。

 二十五。

 十。

 五。

 一。

 そして、零。

 全てが消えた。地球は今や何も住まない星だ。そして、それ自体もすぐに消えるだろう。これが、これこそが、終わりだ。劇的なこともなく、静か。そこにのこるのは、空虚だけ。

 今エピローグすらも終わった。無事、地球は滅亡するわけだ。

 さようなら。もう二度と——


04


「太陽系は恒星、惑星、衛星、その他全て消去完了しました」

 たとえプログラムとはいえ、形成された生態系を、文明を、自然の美しさを、全て消し去るのは胸が痛む。

 スパローズ計画。プログラム上で小さな宇宙を創造し、これからの地球で起こる災害、戦争、人の過ち、それらを予測する計画。計画開始は2035年。初の実行は2050年。そしてこの5回目の開始は2123年。

 これで失敗も五度目。原因はプログラム内のごく小さなバグだ。

 バタフライエフェクト。蝶は台風を起こせるか。小さなものでも大きなことを起こしてしまうことがある。たとえ小さなバグでも、放置していればいずれは何か大きな悪事を犯すのである。

 次回決行はいつになるかわからない。バグを修正してもすぐに始めるとはいかないだろう。一回の実行で何億ドルとかかるこの計画を短いスパンで何度もはできない。次回をやる頃には、56歳の私も死にかけの要介護者になっている事だろう。非常に悲しい事である。

 我々の犯したこの失敗も、未来のための糧となってくれれば、次世代の人間が学べる教材になってくれればいいと思う。我々のことを踏み台に、次こそ成功してくれ。

 スパローズ計画は、一時的に凍結する。

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