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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
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愛おしい日々

林檎は神様の贈り物。

愛と美の女神が護りし、秘密の果実。


豊穣と子宝の象徴。


エルフ族では、新しい夫婦に林檎の苗木を贈る。

それは4~5年で実をつけるようになる。

夫婦はその林檎の樹をとても大切に育て、秋から冬の始まりにかけて収穫を迎える。その年の初めに採れた林檎を2人でたべて夜を過ごす。


その日だけは、神様に祝福されし夫婦と子供のための日で子を成す行為が許されるのだった。



自然と、エルフ族の子供たちは夏生まれが多くなる。

その子が産まれたのも暑い夏の日で、里の向日葵が満開だった。向日葵の様な黄色い髪がふさふさとした、可愛い女の子。


その子は、私がこの神殿に住み着いてから初めての子どもだった。


人々はその子の誕生を大いに祝い、私もまた同様にその生命の誕生を祝福した。

エルフ族の里では3~4年に1度くらいの割合でしか子供が生まれない。里にとって一大イベントなのだ。


その子は、すくすくと成長し、人間にして16、7歳ほどの見た目で外見の成長が止まった。三つ編みの髪の毛を揺らしながら走り回る姿は50年経った今でも大して変わらない。


小さな頃から彼女はよく私の元を訪れる。

そうして、私の身体にもたれてお話を聞かせてくれとせがむのだ。

私は、色々な話を彼女に聞かせた。もう700年近くの年月を生きたが、私にとって彼女の見せる仕草や表情は特別なものだった。





「ねぇ、アルセア?」


「なんだい。」


「どうして、アルセアはこんなはしっこにきたの?」


「ヘリアンはいつも突然だね。」


「ううん、ずっとおもってたのよ!

とりははねがあって、そらをとぶのに

どうして、アルセアはつばさがあるのにとばないの?」


いつだったか、彼女は心底不思議そうな顔で私にそう訊ねたことがあった。その頃の私は、飛ぶどころか極力動かないようにしていた。それが、彼女には不思議でたまらなかったのだろう。


「んん、隠れんぼをしているから、かな?」


「りゅうもかくれんぼするの?」


んん、と少し考えてから私は彼女の問いにきちんと答えることを選んだ。彼女に、少し長くなるし、まだ分からない話かも知れないよ?と聞くと、彼女はキリリとした顔で「まかせて!」と言う。そんな様子に思わず笑みがこぼれ、私は少しずつ語り出す。


「ヘリアン。私にも故郷があってね、それはここから北東・・・王都の北側にある小さな竜の巣穴なの。」


「とおいの?」


「そうだね、ここからだと3日くらい飛ばなきゃダメかな。」


「とおいのね・・・」


ヘリアンはしょんぼりと項垂れると、足元の草をぷちぷちとちぎりだした。そんな様子を笑って、私は彼女へと語りきかせた。彼女に多くの意味は伝わらないだろう。伝わったところで意味もない。けれど、だからこそ私は彼女には話しやすかったのだと思う。


「竜は、卵を産むとき巣穴へ戻って集団で子育てをするんだけどね、私はその巣穴へ置いていかれてしまったの。」


「??」


「私の父は火竜で、母は水竜だったのだけれど、父は母を捨てて人間たちの王の元へと行ってしまったの。

母は、私をなんとか産み孵化はさせたけれど、おかしくなってしまって、どこかへ行ってしまったのよ。」


「おいていかれちゃったの?」


「そう。私はこの珍しい色と特徴のおかげで、その巣穴の古き竜たちが育ててくれたの。」


「さみしかったね」


ヘリアンが、なんとも言えない顔で私の鼻先を撫でさする。きっと、置いていかれたというのが、さみしいことだと彼女にも伝わったのだろう。柔らかな手のひらの感触があまりに心地よくて、私はそっと眼を閉じる。


「さみしかったのかも知れないわ。けれども、それよりも悲しかったの。」


「どうして?」


「置いていかれてしまったことや、特別だと言われ少し距離の開いた関係だったこと、どこへも行くなって言われるがままになることが」


「いえで?」


少女は至って真面目な顔なのだが、幼い少女が[家出]という単語使ったことに少し笑ってしまう。

ヘリアンは、私がまだ悲しんでいることを知ってか、静かに鼻先を撫でている。


「そう、私は飛ぶと目立つからね。家出してきてしまったから、飛ばないようにしてるんだよ!」


「もったいないね!!!」


自分のおやつを食べられた時と同じ顔をして怒るヘリアンが愛おしくて、私はここに来てよかったと思うのだった。

ずっと、巣穴で古き竜に囲まれ暮らしてきた。何も不自由しなかったが、ただ生きて自分の少し特別な魔力を巡らせるだけの(せい)に悲しみを感じていた。



「でも、ヘリアンが大きくなったら共に飛べるかもしれないよ。」


「そうなの?」


「ヘリアンの魔力は、守護と幸福を司る光の系統だからね。

私が飛んでいるのを、見えないようにすることもできるようになるよ。」


「すてき!!あたしも、アルセアとおそらがとべるの?!」


「ちゃんとお勉強をしたらね。」


「あたしがんばる!アルセア、やくそくよ!あたしをのせてとんでね!!!」


ヘリアンは私の鼻先に抱きつくと、そっとキスを落として、花のように笑ってみせた。

それは、私と彼女が交わした初めての約束。優しく暖かな思い出のひとつだ。


私と彼女が初めて空を飛ぶことになる日は、今考えると存外すぐ側まで来ていたのだが、その時の私やヘリアンがそれを知るはずもない。



それはまた、

別の機会に。

エルフは成長が止まるまでは、人間と比較的変わらないスピードで変化していきます。


エルフ族の成長が止まる歳は外見年齢でだいたい16~25歳

若くに止まるほど魔力は多い。

この世界では髪の色が白や黒に近いほど魔力は強い。(生物の話)


つまり、黄色味の強い金髪っ子ヘリアンは、魔力量多めの強さはそこそこ強め。

プラチナブロンドな不幸少女は、魔力量多め(竜化したので、当たり前)魔力自体も元々強い。


そんな感じ(たぶん)

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