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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
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エルフ族の隠れ里

「あーっ!居た!どこへ行っていたの?」


ヘリアンの視線の先には、黒髪の青年が立っていた。少し席を外した間にどこを見ても彼が居なくて探し回っていたのだ。彼が私たちエルフ族ではよく食べる果物を、食べたことがないと言うので取りに行っていたのだ。

ヘリアンは、ぷくーっと頬を膨らませながら青年に詰め寄る。

彼は、あははっと笑って誤魔化そうとするけれど、かなり探したのだそう簡単には誤魔化されない。


「いま、森から出てきたの見てたんだからね!

ダメだよ。森は精霊たちのお家なんだから、勝手に入ったら怒られちゃうよ!」


「そうか、それは・・・ごめん。あまり深く考えていなかった。」


少し脅かしてやろうと思っただけなのに、思っていたよりも真剣に謝るものだから、ヘリアンの方がかえって悪いことをした気分になってしまう。


「え、えぇっと、怒られなかったなら大丈夫だと思うよ!!

ほらっ!さっき言ってたライライの果実だよ!!この赤くてトゲトゲした皮の中に透明で甘い果実が入ってるんだよ!

席について食べようよ!」


ついさっき、誤魔化されるものかと息巻いておいて、自分から話題転換することになるとは・・・なんだか情けない気持ちになりながらも、彼に楽しんでもらおうと提案する。

すると彼は、少しあどけなさの残る笑顔で応えてくれた。


その黒髪の青年とヘリアンは、その日たくさんの話をしながら夜中まで続いた宴会のほとんどを二人きりで過ごしたのだった。





そうして、朝。

窓から入る陽の光が眩しくて、寝返りをうつとなんだか暖かくて堅いものが隣にあった。なんだろうとすら思わなくて、いつも抱き枕にする様に、腕を絡めて顔を埋めると、それは少し身じろいだあと、その腕で抱き締め返してきた。

(あー・・・あったかくて、きもちいいなぁ)

そのまま、すぅっと2度寝をしようと深めに息を吸い込むと、少し甘い匂いがして、もっと嗅いでいたいと思って、顔をそれにくっつける。少し汗をかいているそれはぴっとりと頬に張り付いて、本来なら気持ち悪いはずなのに不思議と不快感はなく、ヘリアンは再び眠りについた。



コンコンコンっと何度目かのノックをする、けれども中からの返事はない。

周りにはほかの大人達も集まっていて、もう後にも引けない。はぁっとため息を吐いたあと、そっと扉にかけられていた護りの魔法を解いていく。


葵色の魔力がそっと、鍵穴に入り込み向こう側でカチリと鍵の開く音がする。

その女性は、その灰色がかった明るい紫色の髪を触りながら、振り返りそこに集まっていた大人達に尋ねる。


「本当に開けるのか?

待っていてもそのうち出てくると思うけど・・・」


「いや、下手すりゃ一大事だ!」

「逃げるかもしれねー」

「アルセア様が見届けたとありゃ言い逃れは出来ないしね」

「真っ最中でさえなければなんでも・・・」

「おい、言うなよ・・・」

「あ、ちょ、誰だ泣かせたの」


はぁーっと思わず大きなため息をこぼしてしまう。それくらいは許されるだろう。朝わざわざ呼び出され、人の姿を強要されたかと思うと、自分の娘のような少女の情事の証人に仕立て上げられようとしているのだ。


けれども、あれは族長の娘だ。その身体と立場には政治的利用価値が発生してしまう。と言うのは、みな建前でただの好奇心だと思うが。


「入るぞ。」


周りの声に促されつつ、アルセアはドアノブを回し、扉を開いた。

そこには、下着姿で仲良くベットで眠る、ヘリアンと黒髪の青年。


「おい、起きろへリアン。」


しゃがみこみ、ヘリアンの顔をのぞき込むが起きる気配はない。仕方なく、その柔らかな両頬をつまみ引っ張る。


「んぁ?いひゃい・・・」


「ヘリアン、起きなさい。」


「え・・?アルセア??」

彼女はむくりと起き上がると、まだ眠たげに目を擦り、こちらを見る。そして、アルセアを捉えてその目は覚めたようだった。


「え、えぇ?!アルセアめずらしい!!」


「おはよう、ヘリアン。まずはその格好をどうにかするべきだと思うけど?」


「格好?」


そう聞き返しながら彼女は視線を、自らの身体へ落とし、次第に顔を赤面させる。そうして、隣で眠っていた青年に気づき顔からは一切の表情が消え、こくびを傾げる。そのあと、自らの部屋の外に待機する大人達を察して、顔を蒼くして叫んだ。



「いやああああ!!!なにこれええええええええっっ!!!!!」



ヘリアンは慌てて、布団で身体を隠すとベットから飛び出し、アルセアに抱きつく。アルセアはそんな彼女を抱き留めると、パチンと指を鳴らして、未だ気持ち良さそうに眠る青年の顔に水ぶちまけてやった。


「ふぁっ?!冷たっ!!!」


ガバッと起き上がり、周りを一通り見た彼は、同じく青ざめているヘリアンを見つめた。

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