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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
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エルフ族の隠れ里

白の石を使って造られた、大きな神殿。

これは、竜を奉ろう為にエルフたちが建てた神殿だ。それは森の湖の近くに建てられており、里からの道は舗装されている。


エルフたちは、精霊や竜といった自分たちよりも上位の魔力体を崇めており、この森にはこうした神殿が大小合わせてたくさん散らばっている。


その中でも一際大きなこの神殿に、今話題の葵色の竜は住んでいた。

陽が昇り、春の暖かな日差しが竜を再び微睡みへと誘う。毎朝、エルフ族の娘たちが交代で果物を運んでくる。それを食べると、日課の水浴びを目の前の湖で行う。そうして、身体を乾かすついでに、微睡んでいた。


「アルセアーーっ!!!」


うとうとし始めたところへ、いつもの騒々しい珍客が掛けて来る。声と魔力の接近スピードが思いの外速かったため、竜は片目を開き、その珍客を確認する。

と、途端に竜は飛び上がる。その珍客はたしかにいつもはた迷惑な勢いと強引さではあったが、まさかイノシシに乗って突撃してくるとは・・・。

無事、珍客を振り落としたイノシシが森へ戻っていくのを確認してから、珍客の側へ降り立った。


「イノシシが可哀想。」


「あたしの心配は?!」


心外だとでも言いたげな顔で、こちらを見上げたあと、その少女はご丁寧に嘘泣きまでしだした。

そのまま放置して、再び眠ろうと体勢を整えていると、非難の声が上がった。


「ちょっと、アルセア!無視はひどいよ!傷ついた!!」


何か言っているが、聞こえないふりをして顔を自らの体に埋める。

イノシシに乗って華麗に登場し、そこでちょこまかと文句を言っているのはエルフ族の少女、ヘリアン。

黄色味の強い金髪が印象的な、エルフ族の族長の娘だ。小さな頃から50年ほど連れ添った為か、なかなか私に対して遠慮がない。


葵色の竜、アルセア・ロセアと葵の花の名で呼ばれる私を、アルセアなどと呼び捨てにするのは彼女くらいのものだ。

効果がないとわかったのか、ヘリアンは嘘泣きをやめると、私の身体をよじ登りはじめる。

はぁ・・・と小さくため息をつくと、私は顔を上げて私の背中の上に登ったヘリアンを見つめる。


「どうしたの?」


「アルセア、もうすぐ里に商隊が来るんだって!見に行きたい!」


「・・・何度目よ。」


「何度見たって、1度たりとも同じはないんだからいいじゃない!ね!」


キラキラと宝物でも見つけたかのような顔で見つめてくる、ヘリアンは言い出すと仕様がない。もう一度溜息をついて、背中の愛らしい温もりを振り落とさないようゆっくりと起き上がる。

1度大きく翼を広げて、横目で彼女を見ると、とても嬉しそうな顔をしているものだから、私はこの顔が見たくてついつい甘やかしてしまう。


「よく掴まるのよ。」


「任せといて!」


「・・・落ちても助けないわよ。」


「そんなこと言って~うっわとっと!」


彼女の言葉を聞き終わる前に、私は空へと舞い上がる。一応、落ちないように気をつけたし、万が一落ちてももちろん助ける。けれど、多少は怖がってもらわなくては困る。


(竜に乗るのと同じようにイノシシに乗る娘だもの、少しはね。)


空は青く澄み渡って、風は花の匂いを含んで静かに流れている。海も今日は穏やかで、少し上まで上がってしまえば、訪れるのは優しい静寂だった。

少しスピードを落とすと、伏せていたヘリアンはそっと顔を上げて辺りを見回し、喜びの声をあげる。


「わぁあああ!!!なんて綺麗なんだろう・・・」


うっとりと眼前の絶景を眺めるヘリアンに、思わず笑みがこぼれるが彼女はそれに気づかない。

少し高度を下げて、海の上へと出る。キラキラと太陽の光を反射して光る海は、絵本で見た宝石箱のようだ。

しばらく飛んだ後、ゆっくりと方向を変え、来た方向へと戻る。その頃になると、ヘリアンは少し興奮が収まったようだった。


「あぁ、あの一団ね」


里へと続く街道を複数の荷馬車と人間が走ってくるのが目に止まった。一団は、小さな丘の続く草原の中を走っていた。


「あの分なら、明日の朝には里へ着くと思うわ。」


「そっかぁ!楽しみだね!!」


「そうね。さぁ、戻るわよ。」


娯楽の少ない隠れ里で、旅人や商人たちから聞けるたくさんの話は、ヘリアンにとってとても刺激的なものだ。今でこそ、エルフ族でも旅に出るものは少なくはないが、それでも族長の娘というだけでヘリアンは外へはあまり出られない。彼女にとって、数少ない外を知る術でもあった。


ゆっくりと、神殿の前に降り立つと、ヘリアンは背中からするっと降りて地面に軽やかに着地した。

そうして、くるりと振り返ると、満面の笑みでいう。


「ありがとう、アルセア!また明日ね!」


「えぇ、気をつけるのよ。」


彼女はこれから、好きでもない勉学に勤しむのだろう。

けれども、私は彼女の人生に何も口出しは出来ない。彼女を連れ出して逃げることも出来ない私には、何かを言う資格はないのだ。

体勢を整え、頭を自らの体に埋める。

そうして、私は静かに眠りにつくのだ。


「おやすみっアルセア!」


里へ続く道の方から声が聞こえた。

あぁ、やはり、静かでなくともいいかも知れない。

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