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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
12/17

豊穣祭とくまたろー2

夜が明け朝日の昇る頃、いつものように起床する。

王都からしばらく馬を駆けてきて、久しぶりのベットはとても寝心地がよかった。靴を履いて、立ち上がると天幕の入口かちらりとめくられ、クマのぬいぐるみが入ってきた。


「おめざめです?かおをあらってどうぞ?」


後ろを続いて入ってきた灰色のクマのぬいぐるみは、その小さな手で水のはいったお盆を抱えていた。ぷるぷると震えながら、灰色のクマのぬいぐるみは入口付近にあった小さな台座にお盆を置いた。同じくぷるぷると震えながら、灰色のクマのぬいぐるみの挙動を見守っていたくまたろーは、うれしそうにはしゃいでいる。


(手伝ってあげればいいのに・・・)


ひとしきり喜んだあと、2人・・・2匹?はぺこりとお辞儀をして、天幕を去っていった。

少しぼーっとした後、くまたろーと灰色のクマのぬいぐるみが持ってきてくれたお盆を取りに向かう。

銀色のお盆には、綺麗な水が張られていた。お盆を持ち上げ、ベットの横にあるテーブルへと載せる。くるりと見渡すと、昨日使ったタオルを置いていた場所には新しいタオルが置かれている。至れり尽くせりだなと笑うと、そのタオルを手に取り、お盆の水で顔を洗う。

タオルで水を拭ったあと開かれた瞳は、もうすっかり眠気がとんだようで金色に輝いていた。


少し考えたあと、服装を整える。寝る時はエルフ族の魔力を信頼して、久しぶりに寝間着を着ていた。靴を脱ぎ、寝間着を脱ぎ捨て、少し固めのパンツに脚を通すと、柔らかい石鹸の香りがする。昨日脱いだものをいつの間にか洗ってくれていたようだ。白いシャツに手を通すと、王都を発つ日の朝以来のパリッとした感触に思わず笑みがこぼれる。シャツの裾をパンツの中にしまい、ベルトを締める。ベルトは全部で3つ。腰に巻いてパンツを押さえる為のものと、太ももに巻き付け護身用の短剣を身につける為のもの、それからパンツの裾をめくりふくらはぎに予備の短刀を忍ばせる為のもの。

付け終わり、少し歩き動作の邪魔をしないかを確認すると、白いシャツを丁寧にまくり上げて七分ほどの丈にする。

昨日の夜、ここへ到着したさいと同じ身なりになると、荷物は置いたままで天幕の外へ出る。

見上げると、昇り始めた朝日に濃紺の夜空が追いやられていた。視線を下げるとたくさんの天幕と、広場の方からは少しの煙が上がっていた。

パンの焼けるいい匂いが朝の冷たい風に運ばれてきて、空腹が自己主張をはじめる。匂いに釣られるようにして、昨晩釜飯を囲い酒を頂いた広場へと向かう。


「おはようございますです!」

「よくねむれたです?」

「ごはんできてるの!」

「おすきなばしょへ!」


広場にいたクマ、うさぎにカエルやネコにイヌといった様々な動物を模したぬいぐるみが言葉をかけてくる。促されるまま、焚き火を囲うイスに腰をかける。隣の席には、昨日の夜見かけた面々が揃っていた。


「あら、おはよう。よく眠れたの?旅人さん。」


2つほど席を離れた場所に座っている、翡翠のような髪色のエルフ族の女性が挨拶をしてくる。昨日はあまり話をしなかったが、覚えてくれていたようで挨拶を返す。


「あら?旅人さん、今日は髪を結わないのね!そっちの方が素敵よ。」


言われて気づく、そう言われてみれば今朝は髪を結ばなかった。あとで結ばなくてはと笑って答えると、エルフ族の女性は小首をかしげながら言う。


「そう?でも、別に困らないのならそのままの方がいいと思うわ。きっと精霊たちが喜ぶわ。」


精霊たちは魔力のこもったものが好きで、髪の毛などは特に魔力がこもりやすいのだ、と教えてくれた。


「せっかく、精霊の守護する森の中に入るのだもの、たくさん祝福をわけてもらうべきよ!」


その女性におされる形で、今日は髪を結ばないことにする。そうこう話をしていると、くまたろーがトレーを持ってきてくれた。

トレーには、ほどよく焼かれたパンに目玉焼き、ベーコンにサラダが載っていた。


「スープはごじゆうに!」


ぺこりとお辞儀をすると、くまたろーはトテトテと戻っていった。トレーを隣の座席に置き、焚き火に掛けられていたお鍋の蓋を開けると、バターとタマネギの香りが顔を包み込む。

左斜め前辺りに腰掛けていた、ドワーフの男性が器を取り、たまねぎのスープをよそってくれる。


「ほら。」


ぬっと差し出されたそれを受け取ると、代わりと言わんばかりにお鍋の蓋を奪われる。そうして、そっとお鍋の蓋を閉じると、ドワーフは自分の席へと戻ってサラダを頬張り出す。

ありがとうございます、と声を掛けると、チラリとこちらを見やりフンっと鼻を鳴らす。


「火傷は・・・よくねぇ。」


優しさに少し笑ってしまうと、ギロリと睨まれる。ドワーフはスープをスプーンで口に運ぶと、吐き捨てるように言う。


「あったけえうちに、飲め。うまいぞ。」


どうやら、怒っている訳ではなく、もともとそういう顔らしい。言葉に従い、スプーンを使ってそっと口へ運ぶ。バターで軽く炒められたタマネギがゆっくりと煮込まれたスープはとても美味しかった。

空腹に促されるまま、パンを、サラダを、ベーコンを、タマゴを口へと運ぶ。そのどれもが美味しく、夢中になって食べた。


夜空はすっかり身を潜め、空には朝日が見えてきた頃には初めにいた人々は居なくなり、食べ終わる頃には少し寝坊をしてきた人間たちが多くなってきた。


ご馳走様でした。と手を合わせて、私もその場を後にする。

出発の準備をしに、天幕へと歩を進めた。



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