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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
11/17

豊穣祭とくまたろー

広大な草原と、幾つもの緩やかな丘を越えて、西へと進むと、精霊の守護する深い森が眼前に広がる。街道はそこから北と南へ進む為に左右に別れている。

そんなT字路にはひとつの看板が立てられている。


<←海沿いに南西へ グリーシアの港

精霊森沿いに北西へ エルフ族の隠れ里→>


初めて訪れる者は大抵その看板を見て笑う。寛容なエルフの里があるとは聞いていたが、道案内までして貰えるとは思っていなかったのだろう。

多くの商隊や観光客がこの道を北西へと辿った。


石畳の街道は、エルフ族がドワーフに石の切り出しを依頼して造ったそうで、良く整えられており馬が走るのに便利だった。

そうして、日も暮れてきた頃、目の前に焚き火の明かりが見える。街道のすぐ脇で野営をしている連中がいる様で、警戒して近づくと人の姿はどこにも見当たらない。


馬をおりて、声を掛けてみるがやはり誰もいない。不気味に思い、馬に戻ろうと振り返ると、そこには何かが佇んでいた。


「お役立ち!!」

両手を大きく広げて、ババーンっと効果音の聞こえてきそうな登場をしたのは、小さなクマのぬいぐるみだった。

体長30cmほどのクマはゴソゴソと自身のからだをまさぐったあと、どこからか文字の書かれた看板を取り出した。


<おいでませ、エルフ族の隠れ里へ。

この分だと明日の昼頃には到着できますので

とりあえず、ここで今晩は野営をどうぞ\(°∀° )/>


サッとクマのぬいぐるみが看板を入れ替える。

どこから出したのか、とか、なぜ読み終わったタイミングがわかったのかは聞かないことにして、新しい看板を読む。


<テントと井戸、それから馬屋があるのでそれぞれご自由にお使いください。

このあと、まだほかの方が来られるかも?ケンカはダメ('ω'乂)ダメー>


なんなんだそのイラストは・・・とツッコミたい気持ちはとりあえず置いておいて、下の米印まで読む。


<※注意 ここでのトラブルはエルフ族の隠れ里において、きちんと対処させていただきます。死体は魔獣さんのご飯及び苗床になります。>


とんでもない文章ではあるけれど、ここでの略奪を限りなくゼロにしてくれるであろうことに、素直に感謝をする。

すると、クマはまたしてもサッと看板を入れ替える。


「さいごなの!」


<ごはんなども、このヤドリモノが用意してくれます。

何かあれば、この子たちにどうぞ。

提供:エルフ族の隠れ里>



読み終わったのを察してか、クマのぬいぐるみは看板を入れ替える投げ捨てると、トコトコと足元まで来て深くお辞儀をした後、くるりと一回転して見せた。


「お役立ちなの!ヤドリモノのくまたろーです!

あなたのテントまでご案内!お馬さんや荷馬車は、うさのーるさんがご案内!!」


くまたろーと名乗ったクマのぬいぐるみが指さす方向には、うさぎのぬいぐるみが馬の足元で手を振っている姿があった。

旅の疲れも相まって、追求は諦め、くまたろーの後をついていく。


すると、緑色のテントに案内された。くまたろーはこちらを振り返り、言う。


「ここをお使いください?ふまん?」


中を見てみると、4人は眠れそうなスペースがあり、清潔なタオルや布団などが用意されていた。

くまたろーを見て、不満などないと頭を横に振る。するとくまたろーは嬉しそうにわちゃわちゃと踊り出す。


そこへ、ひよこのぬいぐるみがやって来た。その手だか、翼だかにはお玉が握られていて、そのお玉をビシッとこちらに向けてこう言った。


「晩メシ・・・出来てるぜ。遅れんなよ。」


どうやら、ハードボイルドなひよこのようで哀愁漂いそうな背中で、それだけ言うとどこかへ行ってしまった。

とりあえず、くまたろーにご飯の場所を聞いて、荷物をテントに入れることにした。


荷物をテントに入れて、少し必要なものを出して、もしもの為に予備の短剣をベルトと靴の中に忍び込ませる。

そうして、テントを出ようとして気づく。外の音が何も聞こえないのだ。テントの中のランプの明かりをそっと消す。すると、ほのかにテントが黄色く光っていることに気づく。


それは、エルフ族の守護の魔法だと以前に文献で読んだことがある。

少し考えた上で、短剣は置いていくことにした。



向かった先にはすでに、10数人の人々が居て、団欒していた。

人間だけでなく、エルフ族やドワーフも混ざっていたことに少々驚くと、周りの旅人たちにたいそう馬鹿にされた。


明日は、エルフ族の隠れ里で3年に1度の豊穣祭が行われる。これは一大イベントで、多くの観光客が訪れるし、多くの商会がこの日にエルフ族と商いの約束事を取りつけに来る。

当然、訪れるのは人間だけではないそうだ。


その晩は、賑やかな笑い声の中更けていった。

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