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その隠れ里に竜は住まう  作者: 訪う者
隠れ里にて
10/17

エルフ族の隠れ里

私は、彼女の下したその決断に何の異を唱えることも出来ない。

なぜなら、私が、彼女を


<愛しているから>


竜の、いや、古きモノを含めた精霊たちは、長くを生きるが故に自分たち以外のものを愛した時、()()()()()()()()壊してしまいがちだ。


適切な距離が、唯一正しく愛し抜く方法で、でなければ、相手の存在とその性質を歪めてまでも竜に変えて生きるしかない。

それは、私にとってとても喜ばしい。

けれど、私はそれが良くないことだと知っている。

()()()の結果、幸せに暮らしたものの話はついぞ聞かない。待っているのは狂ってしまう未来だけだ。



だから、私は、彼女の決断を尊ぶし、正しいと思う。



―――――――――――――――――――――――


あたしが、その決断を下したのは、そうする事でしか一緒にはいられないと薄々と感じていたから。

なぜなら、あたしも、彼女を


<愛しているから>


いくらここが辺境の地でも、精霊たちの噂話はいつでも聞えてくる。10数年前の、竜の繭の悲劇は聞いていた。

彼女に、あたしを殺させるわけにはいかない。

それはきっと、彼女を狂わせる結果になる。

エルフ族は竜ほどではないけれど、長生きで、あたしは特に長く生きるだろうから・・・大丈夫。結末は変えられる。



だから、あたしは、この決断を後悔しない。






その日の夜、里へ帰ったへリアンは、2人で話がしたいと、黒髪の青年を呼び出した。


「ミドリ、今日はごめんなさい。もう・・・何から謝っていいかわからないのだけれど・・・」


「ううん、僕も迂闊だったよ・・・。たしかにあれは良くないよね。」


二人の間に訪れる沈黙。それを破ったのは、黒髪の青年だった。黒髪の青年は、並んで座った椅子をコンコンと叩く。どうしたのだろうと、顔を上げたヘリアンと目が合う。


「ケジメ、とか・・・責任とか・・・そういうのとは違って・・・僕は君と結婚してもいいかなって思ってる。」


横に並んで座った静かな青年の瞳を、へリアンは見据える。

その目はなんの色も映さない。


「どうして?」


「・・・・・・。僕は、幼い頃に大事な女の子を傷つけてしまったことがあるんだ。

僕は、行商人の息子で、結局謝れずにその女の子と別れてしまった。」


彼は静かに言葉を発する。けれど、まだその発言の意味するところがわからない。

へリアンは、先を促すように言った。


「・・・・・・それと、この結婚になんの関係があるの?」


「・・・次の巡りで、その村に立ち寄った時、その女の子はもう死んでいた。」


その村がどこにあって、彼と彼の父親がどこまで商いに旅をするのか知らないけれど、1度来た行商人たちはこの里へはどんなに早くとも1年、その次が3年から5年後くらいだろうか。もっとも多くは、二度と来ない。

彼が何かしら思い残していることがあるのはわかったけれど、だからといってなぜ結婚に繋がるのか・・・。


「何が言いたいの?」


黒髪の青年は、自分が汗をかいていることに気づく。そうして、自分はいま酷く醜い顔しているのだろうなと思いながら、少女に自分の真意を告げる。


「エルフ族は、探知の魔法に長けていると聞いた。その女の子を探してほしいんだ。」


「・・・。」


少女の眼光が鋭くなる。用意された天幕の中央に吊るされたランタンの弱い光が、2人を照らす。

へリアンはこの男が何を言い出すのかを理解した。

私と取り引きをしようというのだ。


「いまの君に必要なのは、仮初の結婚相手なんじゃない?

僕は行商人だから、最低限の日数だけここに戻ってくる事にすれば、君は今まで通りの距離で、あの葵色の竜と愛し合える。」


青年の顔のすぐ横に、拳が突き立てられる。横に座っていたはずの少女は、いまは青年の前に仁王立ち、その拳は背後の壁にめり込んでいる。


「侮辱しないで!

あたしと、アルセアは、そんな関係じゃないっ!!!」


今にも魔力が暴走しそうなのをかろうじて抑え込む。怒りで全身の血が沸き立ちそうだった。

けれども、その衝動を抑えたのは、彼女が魔力を使えば必ずあの葵色の竜が駆けつけるからだ。それは、避けたかった。


怒鳴る彼女の胸倉を、黒髪の青年が掴む。力づくで引き寄せた勢いで、彼女の美しい髪を結んでいた結紐が解けて、黄色の髪が踊る。キスでも出来そうな距離で青年は噛み付くように言う。


「静かにしろよ。

それに、お前達がどんな関係でも、昼間の天幕での件を大人達はそう見てはくれない。」


「うるさい。説明すれば、理解してくれる。」


「君の必死の弁明に耳を貸さなかったあの大人たちがか?

そんな無駄な努力をするよりも、僕と契約しよう。


僕はあの子にもう一度会いたい。死んでいるならせめて弔いたい。とても魔力の強い子だったから、君や竜ならその残滓でも見つけられるだろう?


君は、あの竜との関係のカモフラージュに僕を使えばいい。僕はあと50年も生きないだろう。混血はどの種族も嫌がるから子どもが居なくても不思議じゃない。傷物の乙女よりも、未亡人にしてしまった方が体裁は良いだろうしね。


これは、利害を考えた上での、提案だよ。」


暴論だ。そう思った。

たしかに、私の、アルセアと今まで通りここで静かに暮らしたいという願いは叶うかもしれない。私が誰かと結婚すれば、竜とのあらぬ関係を疑うものなどいないだろう。

けれど・・・


「・・・その女の子が見つけられなかったらどうするの。」


「竜とエルフの力を持ってしても見つけられなかったら、それは・・・彼女は輪廻へと還ったのだろうから諦めるよ。むしろ、安心して残りの時間を生きていける。」


彼はどこか遠くを見つめながら、優しく微笑んだ。きっと、本当にその女の子の幸せを祈っているのだろう。


「じゃあ、その女の子が生きていて、見つかったら?」


「・・・・・・それは、わからない。彼女の幸せに尽力したい、・・・償いをしたい。」


俯いた彼の顔は、ここからでは見えなかった。

へリアンは、黒髪の青年を睨みつけながら、その拳を引き抜く。壁には穴が空いていた。

大きなため息を吐いたあと、へリアンはその決断をした。


「契約成立よ。ただし、あたしが見つけられなかった場合の、竜の協力は自分で得てよね。」


「わかったよ。

さて、じゃあ一芝居うちにいこうか。」


黒髪の青年、ミドリは爽やかに笑った。へリアンはそんな彼の笑顔に顔を引きつらせる。そうして、2人は手を握り合い天幕を後にする。


「あなた、そんな性格だったなんてね。」


「君もね。」

そうして2人は虚偽の愛を誓う。

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